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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第八章
223/232

遠田彩音


「あと、栄一さんの捜索をどうするかって事も、少しは考えておかないとな。時間も限られてるわけだし」


 俺の提起に、七原が目を輝かせる。


「連チャンになっちゃうけど、CSFCに頼るって手もあるよね?」


 CSFCの()り口には、俺も『中二』心を刺激されているので、七原の興奮は分からなくも無い。


「CSFC? 何それ?」


 一方の優奈は、理解できない言葉が出てきた為か、また眉を捻り曲げた。


「CSFCってのは、遠田の支援者の団体の事だよ」

「は? 何それ? まったく意味が分からないんだけど」

「意味も何も、現実に存在するんだから仕方ないだろ。優奈達も、遠田にファンが多いって噂は聞いた事があるんじゃないか?」

「そりゃあ、まあ小耳に挟んだ事はあるけど。でも、所詮はヤンキー女の舎弟(しゃてい)達でしょ? そんな連中に何故、人探しを任せようって話になるのよ」

「いやいや、滅多な事は言わない方がいいぞ。CSFCは(まが)う方なきカルト集団だからな」

「カルト……?」

「そうだよ。例えば、構成員の全員が、遠田彩音にならって、『彩』の付く名前を持っている。代表者の名前は彩乃だ」


 優奈が、戦慄が走ったという顔をする。


「そっか。そうね……面倒な人達だって事は十分に理解できた……わ」

「カルト云々(うんぬん)の話を置いておけば、実際、俺もCSFCには何度も助けられてる。SNSを使った人海戦術だから、人探しとかには、かなり役に立つんだ。毒をもって毒を制すって奴だな。って事で、遠田に連絡する事にしたから」

「ちょっと待っ――」


 優奈が喋り切るのを待たず、俺は携帯の画面に指を触れて、耳に当てた。


 諦めた目で俺を見る優奈。


 遠田と優奈は、俺の不注意によってテレパシーの事が遠田に知られてしまったという事件から、関係性が良くない。

 だからこそ、CSFCに頼るのもまた、優奈を今回の件から遠ざける為の策の一つになる。

 回りくどくて、陰湿だと自覚しているが、こちらの真意を明かすわけにもいかないので、仕方が無いのである。


 そんな事を考えていると。


「もしもし。戸山か。どうしたんだ?」


 遠田の声が聞こえてきた。


「いきなり電話して悪いな」

「いや、いいよ。戸山からの電話って事は、それなりに事情があるんだろ?」

「ああ。遠田に頼みたい事があるんだよ」

「出来る事ならする。だから、遠慮しないで何でも言ってくれ」


 こういう遠田のハッキリした性格は、物凄く頼み事をしやすい。


「ありがとう。CSFC関連でもいいか?」

「ああ、CSFCか……それは、ちょっとマズいなあ」

「マズい? 何かあったのか?」

「CSFCは、二つに分裂したんだよ」


 一旦、頭の中でイメージした、分裂するアメーバの映像を消す作業をする。

 CSFCの得体が知れなすぎて、おかしな想像になっていた。


「何か()めたのか? 昨日、七原が協力して貰ったばかりだよな」

「ああ、揉め事が起きたのは、その後の深夜の事だよ。排除によって、私に力が無くなったのが原因だろうな」


 遠田の力を排除したのは三日前だ。

 いつかは能力の効果が切れると思っていたが。


「なるほど。遠田の力が切れた時点で、解散するとか、そういう話になるかなって思ってたけど、そうじゃなかったんだな。力は徐々に薄れていくんだ」

「ああ、その薄くなっていく過程の中で、一つの集団を結束させるのが難しくなって来たって事だろう。それが組織の分裂という結果を生んだんだ。力になれなくて、すまない」

「ああ、いいんだよ。ちなみに分裂した団体の、どちらか一つにでも、人探しを頼むって事は出来ないかな」


 完全体でなくとも、CSFCなら陸浦栄一を見つけ出せそうだ。


「そうだな。可能だとは思うけど、今日は、ちょっと無理そうだ。放課後に、分裂したグループのトップ同士が話し合う事になってるから」

「ちなみに、どういう感じで揉めてるんだ?」

「リーダーの彩乃への不満が爆発したってところかな。どうも、彼女は以前から無茶を言う事が多かったらしくてな」

「そっか……つまり、『彩乃』支持派と『彩乃』反対派での(いさか)いって事だな」

「ああ。そういう事だ。彼女たちが分裂という結論を出したのは、今朝のホームルームが始まるチャイムが鳴った、まさにその時だったよ」

「へえ」


 俺と逢野が睨み合っていたあの瞬間である。

 同時間帯に色々な事があるもんだな……と思うが、いや、違う。どちらも茶番で同じカテゴリーの話だ。


「結果として、今まで通りに私を支援する団体と、私を中心とした親睦(しんぼく)団体に分かれるという形になった。名称はカラフルサウンド・ファンクラブと、カラフルサウンド・ファンサークルになるらしい」

「どっちも略称がCSFCになるな」

「ああ。次の問題は、そこなんだよ。今度は、どちらがCSFCを名乗るかで揉め出したんだ」


 心底、どうでもいい。


「もう、ずっとSNSは荒れっぱなしだよ。通知が鳴り止まない。授業中は機内モードにしているよ」

「大変だな」

「でも、(いま)(がた)、ようやく解決への道筋が付いたところだ。それが、さっきも言った『話し合い』だよ。元祖CSFC代表の彩乃と、新興CSFCの代表である彩・J・クラークの二人で」

「どうでもいいけど、名前の付け方が、いよいよって感じになって来てるな」

「え?」


 遠田が怪訝な声を出した。

 遠田も遠田で斬新な価値観を持ってるなと思う時がある。


「とにかく、遠田には、また色々と頼むと思うから宜しくって事が、今回の電話の用件だよ」

「わかった。話し合いが終わったら、すぐにでも連絡をする」

「ありがとう。でも、この話は、今、抱えてる問題が解決してからって事になるから、焦らなくていいよ」

「そっか。安心したよ。でも、問題を先延ばしにするのは性に合わない。迅速な解決を目指すよ。それじゃあ」


 そう言って遠田は電話を切った。

 俺が息を吐くと、七原が心配げに俺の顔を覗き込む。


「何かあったの?」

「CSFCが内輪揉めの最中らしいよ」

「そっか。昨日は、そんな感じしなかったけどな」


 七原は頬を膨らませ、首を捻った。


「さすがの七原でもSNSでは違和感を見つけられないよな」

「そうだね。無理だと思う」

「まあ、揉めたところで、問題は無いよ。メンバーは減るかも知れないけど、CSFCには協力を頼む事になると思う」


 七原の隣で、それ見たことかという顔をしていた優奈が、口を開く。


「そんなクレイジー集団に頼らなくても、私達の助力があれば十分だと思うけどね」


 遠田への事前確認を怠っていたのは失策だったなと思うが、まあ、大した問題では無い。

 まだまだ優奈達のモチベーションを落とす方法は幾らでもあるはずだ。


 そんな風に生温い目で優奈を見ていると、横で携帯の画面を見た七原が、焦り顔に変わった。


「あ。今、大変な事に気づいちゃった」

「何だよ?」


 七原は携帯を俺に見せ、時計を指さす。


「お昼休み、もう終わっちゃいそうだよ」


 目の前には、まだ手を付けていない弁当が置かれている。

 フタすら開けてない状態だ。


「……だな。限られた時間でこそ、真の力ってものが試されるんだ。急ごう!」


 俺達は慌てて箸を取り、昼食を()き込むのだった。





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