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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第八章
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登校


 思考を巡らせる――までもなく、一瞬で答えは出た。

 優奈は常に疑いの目で俺を見ている。麻里奈の申し出を断ってしまえば、俺が双子の居ない所でバレたら困る事をしていると言っているようなものだ。

 まあ、しているのだが。


「じゃあ、ホットサンドの方を貰うよ」


 そう言うと、麻里奈がニンマリと笑った。


「お兄ちゃん、ありがと。お兄ちゃんなら、分かってくれると思ってたよ」

「優奈と麻里奈が決めた事なら、文句は言えないだろ」

「じゃ、協定成立だね。お兄ちゃんがお兄ちゃんで本当によかった」

「あ……ああ」


 あざとさが(とど)まる事を知らない。

 俺が特別な訓練を受けていなければ、心を持って行かれていただろう。

 危ない危ない。


 ――さて。

 で、このホットサンドは、もう食べていいのだろうか。

 そういう空気でもないのだろうか。


 そんな事を考えていると、麻里奈が口を開いた。


「これからは何かあったら、実桜さんだけじゃなくて、私達にも連絡してね」

「わかってるよ」

「話の続きは、またお昼でいい? 文芸部の部室に集合って事で」

「けど、麻里奈は学校を休むんだろ?」

「うん。わたしは休むよ。でも、優奈ちゃんが行けば大丈夫でしょ?」

「確かにな」


 優奈が来たら、麻里奈も来ているのと同じ事である。


 さて。

 話はもう終わったのだろうか。

 ホットサンドはもう食べていいのだろうか。


「私は放課後に合流するからね」

「合流? 優奈がいればいいんだろ? わざわざ来なくても」

「駄目だよ」

「何でだよ?」

「だってお兄ちゃんと一緒に居たいんだもん」

「でも、体調は?」

「だから、それは心配するような事じゃないんだって。ほら、肩だって仕上がってるし」


 麻里奈がブンブンと肩を回す。


「何で肩が仕上がってんだよ。鍛えるなら下半身から鍛えた方がいいらしいぞ」


 そういう問題でも無いと思うが、一応指摘しておく。


「そっか。お兄ちゃんは、そういう子が好みなんだね。わかった。頑張るよ」

「好みの話はしてねえから」

「そうだね。お兄ちゃんは上半身専門だったね」

「その言い方やめろよ」

「まあ、とにかく。放課後はお兄ちゃんのとこに行くから、待っててね」


 今朝、ウチまで迎えに来たのは、自分が元気だという事を示す為か。

 麻里奈のあざとさも色々と芸が細かいようだ。


「そこは優奈と相談してくれよ。俺が勝手にOKしたら、俺が優奈に怒られるだろ」

「わかった。そうするよ」


 麻里奈は若干の苦笑いを浮かべて、そう言った。


 もう、ここら辺で話を切っても良いだろう。

 さて、さて。

 もういい加減、ホットサンドに――。


 俺が口を開こうとすると、麻里奈は視線を外し、遠くを見つめる顔をした。


 芝居がかったそれは、まだ話が続いている事を示している。

 勿体ぶって言わなければならない事があるのだろう。

 仕方なく、俺は麻里奈の言葉を待つ。


「でも、お兄ちゃんが心配してくれるのは本当に嬉しいんだよ。この頃さ、思うの。お兄ちゃんには本当のお兄ちゃんになって欲しいなって」


 計算し尽くされた上目遣いが俺の方を向く。


 どう答えるか迷うところだが、この場において俺が何を考え、何を話すかは麻里奈にとって、さして重要な事ではない。

 麻里奈は、俺が自分の思い通りに動いてくれる人間かどうかを推し量っているだけなのだから。


「それもこれも全部、優奈次第だよ」


 これで麻里奈も満足のはずだ。


 さて、さて、さて。

 そろそろ頃合いだろう。


「で、もう食ってもいいんだよな? せっかく麻里奈が作ってくれたんだから、冷める前に食べたいんだよ」


 麻里奈はハッとした顔をした後、俺に微笑みかけた。


「あ。そっか。ごめんね。話に夢中になってたみたい。もちろん、食べて。お兄ちゃんの口に合えば、嬉しいな」



 さすがに、そのホットサンドは最高だった。

 色々な事にカタが付いたら、もっと食の方面の探求を進めていきたいものだ。


 麻里奈に礼を言って、上月宅を出る。

 エントランスを通り、道路に出た所で、七原が待っていた。

 手を振る七原を見て、ふいに心が安らいだ自分に気がつく――が、それを悟られるのは照れくさいので表情を固めた。


「戸山君、おはよう」

「おはよう。来てたんだな。言ってくれたら、早く出てきたのに」

「大丈夫だよ。私も来たばっかりだし」

「そっか。なら良かった。行こうか」

「うん」


 七原と学校に向けて足を進める。

 昨日も色々あった所為だろう、一年ぶりくらいの登校、一年ぶりくらいの七原という気がした。


「体調は、もういいのか?」

「うん。単に疲れが出たって感じだったし。ってか、疲れた顔をしてるのは戸山君の方だよ。大丈夫?」

「ああ。昨日は、あの後からも色々あってさ」

「色々?」

「優奈、楓、麻里奈と代わる代わるに、あれこれと問い詰められたんだよ」

「あ、そうだったんだ……私も色々と聞きたい事があって来たんだけど……」


 七原は言いづらそうに、そう話した。


「いや、七原は別枠だよ。ってか、七原には、その話を話しておきたかったから」

「そっか。うん、わかった。聞かせて」


 七原は身構えるでもなく、自然に受け入れてくれる。

 七原の加勢は本当に幸運だったなと思いつつ、昨夜、家に帰ってからの出来事を話した。



「――なるほど、今日も、また大変な事になってるんだね」

「栄一さんの件もそうだけど、一番ヤバいのは双子が首を突っ込んで来るって事だよ。あと少しで、核心に辿り着けるって所なのに」

「そっか……でも、こうなる気はしてたよ」

「え? そうなのか?」


 七原は小さく溜息を吐く。


「本来は私が言う事じゃないと思うけど、こういう状況だから、ぶっちゃけるね」


 七原の表情は複雑だ。

 俺が気づいてない部分で、何か思うところがあったようである。


「何だよ」

「麻里奈ちゃん、戸山君の事が好きだよ。演技とかじゃなくて本当に」

「ほえ?」



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