表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
164/232

招待


 霧林には申し訳ないが、施設から七原宅に到着するまで、俺達三人は三人とも熟睡してしまっていた。

 霧林の運転が上手く、心地よいのがいけないのだ。楓なら一秒たりとも目を閉じる事が無かっただろう。


 すっかりアイマスクにも慣れ、ひたいに着けたまま自宅へと帰っていく七原を見送った後、霧林が夕飯に誘ってくれたが、それも丁重ていちょうに断った。

 飯になんて時間を掛けてはいられない。

 家に帰ったらすぐにでも寝よう。


 霧林と三津家に礼を言って車を降り、やっとの事で家に辿り着くと、どさっとソファに倒れ込む。

 もういいや……このまま眠ろう。


 そう思ったところで、携帯が鳴り出した。

 画面を見ると、上月優奈と表示されている。


 出たくないな……聞かなかった事にしようか。

 ついついそう考えてしまうが、そんな面倒事一つ一つに応えてこそ信頼を勝ち取れるというものだ。

 多少無理をしてでも出なければと、何とか応答ボタンを押した。


「何だよ。何かあったのか?」


 出来る限り明るいトーンをつくろう。


「今日、お母さんが早く帰って来てるの」


 と、優奈。

 優奈達の母親は名前を上月こうづき蓮子れんこという。

 いつも仕事で帰ってくるのが遅く、この時間に家にいることはまれだ。


「そっか。珍しいな――で、それがどうしたんだ?」

「お母さんが『望君も一緒に晩御飯どうかな』って言い出してて……どう?」


 優奈の口調には躊躇ためらいがある。

 昨夜、優奈に『俺達は出来る限り会わないようにするべきだ』と言ったからだろう。


 ――さて、どうしたものか。

 優奈達を萎縮いしゅくさせてしまうのはあまり良い事ではない。

 俺が好き放題言える存在でいなければ、優奈達は孤立感を深めてしまうだろう。それが能力の深化を促してしまうかもしれない。

 こういうのは上手くバランスを取っていくのが大事だ。


「俺達はお隣さんで親同士が仲が良いし、俺の親は海外赴任中だ。ここで食事に呼ぶってのは不自然でも何でも無い事だと思う。普通なら、お言葉に甘えてると思うよ。だけど、今日はちょっと疲れてて、今から寝ようかなってところで……」

「だったら来て」

「は?」

「疲れてるとか、どうでもいいからすぐに来て。断る権利なんて無いから」

「ですが、昨日今日と新参者の相手が大変だったので、明日からの英気を養う為にも遠慮しておきたいなと……」

「それじゃ話が済まないから。あんたがこのタイミングで帰って来たのが悪い」


 俺が帰ってくるのを偶々たまたま窓から見ていたか。

 玄関ドアを開け閉めする音を聞いたのか。

 どちらにしても最悪である。

 出来ることなら行きたくない。一刻も早く一分でも長く眠りたい。

 だが、それを聞き入れてくれるはずも無いのが、あの連中だ。

 今日は、ある意味一番タチが悪い上月蓮子がいるのが運の尽きである。


「そっか。じゃあ行かせて貰うよ」


 大人しく。

 ただ大人しく聞き入れよう。


「そう。よかった。お母さんが喜んでるから、すぐ来てね」


 俺は深い溜め息を吐くと、身体を起こし上月宅へと向かったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ