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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
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次の行動

「金も用意できるのか? さっきも言ったが一日――なんだぞ。まあ最初の一日は――でいいけど」


 雪嶋との関係について答えた分も、約束通り計算に入れてくれているようで、最初の一日が半額になっている。といっても結構な額なのだが、そんな事はどうでもいい。ある程度事情を知っている有馬に告発者を探して貰えるというのは大きなメリットだ。


「もちろん、お支払いしますよ。その倍額出してもいいんで、すぐに取り掛かって欲しいんですけど、可能ですか?」

「すぐに?」

「はい。急ぎなので」

「わかった。それで決まりだ」

「さすがに手持ちは無いので、ATMに行って来ます」


 俺が立ち上がろうとすると、有馬が手振りで制止する。


「ちょっと待て。一つ聞くが、それは親の金か? そういうので揉められても迷惑だからな」

「いえ、自分で働いて得たものです」

「そっか。それならいい。だけど、せっせとバイトして貯めた金を、こんな訳の分からない事に使うのか?」

「駄目ですか?」

「いや自由だよ……しかし、やっぱり変わってんな」


 呆れ顔で言われるが、本当の事を話すことも出来ない――事故みたいに唐突に転がり込んできたお金だとは。


「よく言われますよ――じゃあ、今度こそ行って来ますね」


 再び立ち上がろうとすると、今度は符滝が口を開く。


「いやいや待ってくれ、戸山君」

「何ですか?」

「俺が出すよ。俺に出させてくれ。これは俺の問題だからな」

「払って頂けるなら助かります。ですけど、符滝さんが依頼した次の日に陸浦さんが逮捕されたって話ですし、符滝さんと告発者はまったく関係してなかったと思いますよ」

「でも元はといえば、俺の過去を調べてくれてる訳だろ? 俺も真実が知りたい。だから俺が出す」


 符滝は財布を取り出すと、指を舐めて札を数え始めた。

 やはり資金力が違う。ここはお言葉に甘えよう。

 そんなことを思ってると、気遣わしげに成り行きを見ていた有馬が口を開く。


「先生に払わせるのは気が引けますね。それならボランティアでやってもいいですよ。そんなに手間も掛からないでしょうから、元より大幅に利益が出る計算でしたし」


 おい!


「いや、満額きっちり払わせて貰うよ。だから一刻も早く見つけ出してくれ」

「わかりました。じゃあ、この件は何よりも優先します。今から取り掛かりますよ」

「悪いな。バタバタさせて」

「いえ、八年越しの謎の解明です。いつも不倫だの離婚だのクソだるい話に付き合わされてると、こういうのも悪くないと思えますよ」


 そう言った有馬は、颯爽さっそうと部屋を出て行く。

 聞き捨てならないことを言っていたが、四の五の言わない姿勢は男前だ。

 ――と思ってると、再びドアが開き、有馬がちょこっと顔を出した。


「戸山、一つ頼みがある――エリカちゃんに『僕が無理なお願いをしたんで有馬さんは店に行けなくなりました』とでも言って、さりげなくポイントを稼いでおいて欲しい」

「わかりました」

「悪いな」


 まったく悪びれずに言う有馬の背中を見送った。

 小深山母の離婚は英断だったと言わざるを得ない。

 まあ、今は独身なのだ。自由である。


 ――さて。

 色々な事実が判明して、話が大きく動いた以上、俺達も時間を持て余してる暇は無い。

 ここは切り上げて次の行動に移るべきだ。


「取り敢えずは一段落ってところですね。あとは有馬さんの調査結果を待ちましょう。じゃあ、僕達はそろそろ――」

「待ってくれ。ちょっといいか? さっきの話の続きなんだけど」


 と、符滝。

 このタイミングで話し出したのは、有馬がいなくなるのを待っていたという事だろう。


「何ですか?」

「俺が握られていた弱みってのは、もしかしたら能力に関することじゃないかと思うんだが、どうだろうか?」


 符滝は不安げな顔で訊ねてきた。


「そうですね。符滝さんが自分の能力の露見ろけんを恐れていたってのは十分に考えられる話です――符滝さんが有馬さんに『正攻法で真っ当に弱みを握りたい』と言ったって話がありましたけど、あれは能力を介在させずに解決したいという意味合いがあったんじゃないでしょうか」

「なるほど。それなら筋が通るよな。良かった。剛村君の言うように途轍とてつもない事実が出て来たらどうしようかと思っていたんだ。君達のお陰で今夜は落ち着いて眠れそうだよ」


 記憶が無いというものは、それだけ不安なものなのだろう。


「記憶はなくとも、符滝さんは符滝さんですよ。それほど異常な行動に出るとは思えません」


 ……とは必ずしも言い切れないのだが、この場を納めるには嘘も方便ほうべんである。


「ああ、ありがとう」

「じゃあ、俺達はそろそろ帰りますね」

「え。もう帰るのか? 一度に色んな情報が出て来て、俺の中で処理が追いついてないんだ。もう少しだけ話に付き合ってくれないか?」

「それはまた今度にしてください。その時、じっくり聞きますから」

「何か用でもあるのか? 何ならウチで晩飯でも食べていけば良いんじゃないか? 何でも好きなものを言ってくれ、出前を取るから」

「すいません。こちらもこちらで調べないといけない事があるんですよ」

「何をだ?」

「陸浦さんについてです」

「陸浦について調べるって……どうやって?」

「孫に話を聞いてみようと思います」

「陸浦の孫?」

「はい。知り合いなんですよ」


 陸浦一華のことである。

 七原によると、陸浦一華が能力者になったのは陸浦栄一の収賄事件が原因じゃないかという事だ。だとすれば、重要な記憶は残っていないのだろうが、それでも孫となれば幾らかは話を聞き出せるだろう。


「お前ら、どんだけ顔が広いんだよ……わかった。そんなに言うなら俺も行くよ」


 そんな事は一つも言ってない。


「向こうとしても初対面の人がいたら話しづらいと思うんで、今回は遠慮して下さい」

「いや、でも――」



 それでも食い下がってくる符滝を何とか納得させ、符滝医院を出た。

 能力者というものは大体しつこい。まあ、そういう執着がなければ、能力者にはならないのだろう。


 取り敢えずと、駅の方へ足を進める。


「でも陸浦さんに会うって、居場所を知ってるの?」


 横で七原が問い掛けてきた。


「いや、知らないよ。三津家に連絡して陸浦一華の所まで連れて行って貰おうと思ってる。だけど、符滝医院にいた事は知られたくないから、取り敢えず駅の方に向かおうかな、と」

「なるほど。そういう事ね」


 そして数分歩いた後、三津家に電話を掛けた。

 ワンコールもしない内に通話状態になる。


「戸山さん! どうして逃げたんですか。今どこに?」


 息が荒い。

 血眼ちまなこで俺達を探していたようだ。


「駅の近くだよ。ちょっと三津家に頼みたいことがあってさ」

「逃げておいて何なんですか……まあ、聞きますけど。聞くしかありませんけど」

「陸浦一華に会わせて欲しいんだ」

「……ですが、一華さんは家族との面会もまだ決まってない段階なんですよ」


 話の内容が内容だけに小声だが、それでも精一杯に抗議の色をにじませている。


「排除能力者として、どうしても会っておかないといけないんだ、今すぐに」

「……わかりましたよ。上と掛け合ってみます。まあ、古手の戸山さんの要求なら聞き入れられるでしょうけどね」

「ありがとう」

「駅の近くなら、駅まで来て下さい。迎えに行きますから」




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