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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
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楓の正体


 まさかまさかの早瀬と楓の登場である。


「早瀬と楓に繋がりがあると思わなかったな」

「そうだね。ってか、この写真を見るとさ。もしかして、この二人は……」


 七原の言おうとしている事は直感的に分かった。

 この写真で見ると、楓と早瀬は余りに似ている。似すぎているのだ。

 血縁があるのではないかと思うには十分な程である。


「そうだな。もしかしたら二人は姉妹なのかもしれない」

「戸山君は知ってた?」

「知ってたら、七原にも話してるよ。それくらいに重要な問題だ」

「楓さん本人に聞いてみたら?」

「今まで言わなかったことを、俺が問い詰めたからといって答えるとは思えない」

「私だったら嘘を見破れるかもしれないよ」

「確かにな。話してみる価値はある。しかし、相手は楓だ。ここで衝動的に電話するのもどうかなと思う」

「そうだね。少し考察してみよう」

「だな」

「戸山君。そう言えば、ずっと聞けてなかったんだけど、早瀬先生がいなくなった日――あの日、何があったの?」


 七原が言ってるのは委員長と早瀬の排除をした日の事である。

 今なら話せる。

 というか、七原を巻き込むと決めた日から、話せと言われれば話せた話である。


「実は、俺の力不足で早瀬の能力を排除する事が出来なかったんだよ」

「そうだったの?」

「ああ。早瀬の力を排除したのは楓なんだ」

「でも、楓さんは新式なんでしょ? ということは、早瀬先生の能力を完全に排除する事は出来なかったって事だよね」

「ああ、そういう事だよ」

「何でそんなに焦って排除したの? 戸山君が排除した方が良いはずでしょ」

「それだけ早瀬が危険な状態にあったって事だ。まあ当然の話だよ。早瀬の能力は何も無い所から炎を作るんだ。しかも、怒りというコントロールしづらいものがトリガーとなっている」

「早瀬先生がそんなに危険な状態だとは思えなかったけど」

「例えばガソリンとかガスとか、身の回りでも少しの火の気で大変な事になる物は沢山あるだろ? それだけじゃない。一番問題なのは人体発火だ。ほとんどの場合、パイロキネシスの発症者は自らの身を焼き尽くしてしまう」

「確かに早瀬先生って悩みを抱え込んでしまうタイプって感じがするもんね」

「そうだな。一人で勝手に大惨事になる。しかも、早瀬の場合は最悪な事がもう一つあった」

「何?」

「おそらく早瀬は一度新式で排除されていたんだよ。所々記憶が抜け落ちてるって言ってたからな」

「能力の再発症って奴ね」

「ああ。新式で排除された能力者が隔離されるのは、能力と一度結びついている分だけ、能力が急激に深化するからだ。新式での排除を重ねるほど、その傾向は強くなる。楓は何としてでも俺に早瀬の力を排除させたいと思っていたはずだ。しかし、早瀬の再発症が早過ぎたんだよ。だから、楓は自分で排除すると決断をせざるを得なかった。あの時の楓の苦々しい顔は忘れられないよ」

「なるほど。そういう事だったんだね。楓さんの思い描いていたシナリオが、ようやく理解できた」

「ああ。楓は最初から――俺を排除能力者にした時から、早瀬と出会わせるつもりだったんだと思う」

「全ては妹の為って事か。まあ妹と確定したわけじゃないけどね」


 そう言って、もう一度写真を見る。

 どこからどう見ても姉妹だ。

 今は早瀬が眼鏡を掛けていて、楓は赤髪にしている。それがなければ、もしかしたら気付いていたかもしれない。


「不覚だよ。楓とは一年以上の付き合いだし、早瀬とは毎日学校で顔を合わせていた。何で気付けなかったんだろうと思う。すべては俺の思い込み……」

「思い込み? 戸山君。今、何を言いかけたの?」


 七原が首を傾げる。


「いや、別に良いんだ」

「何? 聞かせて」

「別に良いから」

「そんなこと言うなら、心の声を聞くからね」


 今の七原は本当にそれをしそうな気がする。


「妹が姉より胸が大きいはずが無いという浅はかな思い込みがあったんだよ。多分そこで無意識に二人が姉妹だという可能性を排除してた。そうじゃない例なんて幾らでも知ってるのにな」

「聞くんじゃなかった。損した」


 七原はゲンナリとした顔で言った。


「とにかく、楓の目的を推測できたのは大きな進歩だと思うよ。おそらく、楓が一番優先しているのは早瀬の日常を守ることだ。その為に俺達を利用している」

「真偽を確かめてみないとね」

「そうだな。これだけしっかりとした理由付けが出来るなら、ほぼ正解で間違いないだろう。それに、たとえ二人が姉妹じゃなかったとしても、楓には確かめないといけない事がある――陸浦一華が能力者であった以上、陸浦市長も能力者だったのかもしれない」

「だね。楓さんに電話してみよう」


 俺は携帯を取りだし、楓に電話を掛けた。

 スピーカーモードに切り替えた電話からは呼び出し音が鳴り響く。


「出ないな」

「うん」

「意図的に出ないのか。それとも、出られる状況にないのか」


 呼び出し音が延々と鳴り続けてる事から考えれば、前者の可能性が高いように感じる。


「どうする?」

「出るつもりが無いんだろう。それなら、自分で答えに辿り着くだけだ。むしろ、その方が良い。与えられた情報をそのまま利用しているだけでは、自分の言葉にはならない。相手を説得できない。俺がやってるのはそういう事だ」

「……あの……盛り上がってるところ悪いんですが、この部屋に僕もいるのを忘れてませんかね。ってか、僕のこと見えてますか?」


 符滝が弱々しい声でそう言った。

 いかめしい顔をしているが、意外と繊細らしい。


「いやいや、見えてますから、そんな卑屈にならないで下さいよ」

「俺には一瞥いちべつもくれず、ずっと二人の世界に入ってただろ。本当に見えてないかと思ったぞ」

「いやいや」

「写真一枚で、よくもこんなに長々と話せるもんだな」

「この二人の両方が知り合いだったんですよ。しかも別々の場所で会っていた」

「話を聞いてれば分かったよ。だけど、先走りすぎだ。この写真に関しては、まだ説明が終わってないからな」

「どういう事ですか?」

「この写真には裏があったんだよ」




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