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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
136/232

排除


「どういう事? この力は消したり出したり出来るようなものなの?」

「消す事は出来るけど、出す事は出来ない。俺は消す方法しか知らないからな」

「何で戸山君にそんな事が出来るの?」

「こういう能力ってものは、強い欲望や願望から形作られるものなんだ。しかし、そんな力が能力者本人の望まぬ結果を引き起こしてしまう事も多い。そうなると、能力者は不安定になっていき、その力で社会不安を引き起こしてしまう。だから、俺達みたいなのがいて、能力者の能力を消してるんだよ」

「本当に?」

「ああ、本当だよ」

「私が初めて打ち明けた相手が、偶然そんな事が出来る人だったって事?」

「どこまでを偶然というか分からないけど、俺としては沼澤が能力者だと感じたから、じっくり話を聞いてみようと思ったんだよ」

「そういう事だったんだね。だから、特別な力って言っても疑わなかった」

「そうだよ」

「戸山君は嫌われ者なのに、偉そうというか……いつも冷静に構えてられるのは何でだろうと思ってたんだけど、そういうバックボーンがあったんだね」

「偉そうにしたつもりはないけどな」

「それで、こういう能力はよくあるものなの?」

「そうだな。結構あるよ。能力者ってのは意外に近くにいたりするものなんだ。中々見つけられないけどな」



 現在の俺は、三津家に「沼澤の不安をやわらげる為に、こういう言い方をしたんだよ」と説明を加えた。

 能力者が大量にいてる事を知られるのもまた避けるべき事である。



「能力を消すのって大変なの?」


 と、沼澤。

 うつむいて顔が見えなくても、その声から沼澤の不安が十分に伝わって来た。


「簡単だよ」

「危険な事は?」

「ない」

「あとから、ひどいことには?」

「ならない。だから安心してくれ」


 出来るだけ、沼澤が不安を感じないように、いつもより少しトーンを上げて言葉を発した。


「お金とかは?」

「取るほどのもんでも無いよ。排除自体は五分も掛からないし、労力という労力も無い」

「身体は?」

「要求する訳ねえだろ。だったら、金を取るよ」



「……とか言って、生唾なまつば飲んだよね、戸山君」


 七原が真顔で問い掛けてくる。

 確かに、それに関しては紛れもない事実である――よく観察してるな。


「重要な場面だから黙って聞いててくれよ」

「だって、戸山君が猫なで声を出してるんだもん。こんな対応された事ない」


 本当によく観察してる。



「……わかった。お金ね。幾らくらい? ローンは可能? 金利は?」

「いや、焦りすぎだから。本当に何も取る気は無いから安心してくれ。それじゃあ納得できないっていうなら、文化祭で何かおごってくれ。それでいい」

「本当に?」

「本当だよ」

「戸山君のこと信じていいんだよね?」

「ああ」

「そう……わかった。じゃあ、私は何をすればいい?」



「まず服を脱ぎます――」


 七原が呟く。


「だから、そんなこと言ってたとしたら、俺は何を見せてるんだよ!」



 一年後に茶々を入れられる事は何も知らない俺が、神妙な顔で口を開く。


「能力を消すには能力者に能力と決別する意志が必要なんだ。能力を捨てる覚悟はあるんだろ?」

「うん」

「じゃあ、それを念じておけばいいだけだ。すぐに排除は終わるから――ちょっと待っててくれ」


 俺は掃除用具入れからホウキを出してくる。


「じゃあ、黒板の方を向いてくれ。そして集中して、能力を捨てたいと念じろ」

「そのホウキはどうするの?」

「俺なりの魔法の杖だよ」

「そんなのはいいから、どうするかを聞かせて」


 割と警戒心が強いな。


「身体的な感覚を通して、精神を変化させる。つまり――」

「ケツバットね」

「そうだよ。何でそこだけ勘が良いんだよ」

「何となく。いかにも戸山君のやりそうな事だから」


 どんな評価だよ、と心の中で呟く。

 まあ、それよりも話を進める事を優先しなければならない。


「少しだけ痛いかもしれないけど、それは勘弁してくれ」

「……まあ、この力で何人もたぶらかしたんだから、当然の罰だよね」

「そう思えるなら、それでもいい……いや、駄目だな。これは罰じゃなくて、あくまでも能力を消す為の手順だ。そう思わないと能力を消す事は出来ないと思う」

「わかった」

「じゃあ、集中してくれ」

「うん」


 ――そして、俺はホウキを振った。


「いたっ! 戸山君、力入れすぎだから」

「悪い。ちょっと気合いが入りすぎた」

「あーあ。きっとカタになってるよ」


 そんな事を言われると想像してしまうだろ。


「で、私の力は本当に無くなったの?」

「ああ、多分な。不安なら、試してみるか?」

「うん」


 俺は釈然しゃくぜんとしない顔の沼澤と目を合わせた。

 改めて、こんな事をすると照れくさいものである。しかも、教室で二人きりというシチュエーションだ――そんな事を考えていると、自然と心臓が高鳴っていく。頬が紅潮していってるのが自分でも分かった。


「全然治ってない!」

「失敗だな」


 お互いに慌てて目を背ける。


「こんな思いしたのに……」

「仕方ないだろ」

「この屈辱はどうしてくれるの?」

「俺の力不足だよ。ごめん」


 じとっとした目で見てくる沼澤。

 その目を見ると、鼓動が高まり、自分でもニヤけてくるのが分かった。

 慌ててこれは能力の所為せいなのだと自分に言い聞かす。

 じゃないと、道を戻れない気がした……。



「……本当に失敗なんですか?」


 三津家が問い掛けてきた。


「ああ、そうだよ」

「原因は何ですか?」

「それは後々の話に出てくるよ。それで分かるはずだ」

「戸山さんの力をもってしても排除できないという事は、相当に力が強いって事ですよね? 沼澤さんは危険な能力者って事じゃないですか?」

「これは一年近く前の話だ。その時の俺は排除能力者になったばかりって事を考慮に入れてくれよ」

「ですが……」

「沼澤の能力はそれ程のものでも無いんだ。問題だったのは沼澤の中にまだ能力に対する未練が残ってたって事だよ」

「未練が残っていたら駄目だというのなら、沼澤さんの力を排除するのは不可能ですよね? 無条件に愛して貰った方が人生は楽に決まってますから」

「程度の問題だよ。能力と決別する事に素直に納得できるくらい未練を捨てられれば、それでいい。今回の失敗は俺の説得が弱かったって事に尽きる。俺はまだ沼澤美礼を全く理解できてなかったんだよ」




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