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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
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条件


「なるほどな。ミツヤの目的は十分に理解出来たよ」


 ミツヤが是が非でも居座るというなら、彼女を無害化する為の策を講じなければならないという事だ。


「ありがとうございます。戸山さんが協力的で本当に助かります」


 ミツヤのほっとした表情からはあどけなさが垣間かいま見える。


 だが、これで終わらせる訳にはいかないのだ。


「いや、まだ話が済んだとは言ってないけど」

「え?」


 ミツヤの顔から一瞬にして戸惑いがあふれ出る。

 彼女はころころと表情が変わって本当に面白い。


「ミツヤの提案を受け入れるに当たって、こっちも一つだけ条件を出したいんだ。いいかな?」

「は、はい。そうですね。こちらの事情を押しつけている形ですし、可能な事ならば、お応えしますよ」

「ありがとう――じゃあ、ミツヤには俺に無断で排除の力を使わないと約束して欲しいんだ」

「は? 私に排除をするなって事ですか?」

「いや、排除する時は俺に確認を取ってくれってだけの話だよ。それならば文句は言わない。今回だって、本来なら玖墨と陸浦を排除するのは俺のはずだった。なのに、ミツヤが横から来て勝手な事をした。そういう事が困るから、やめてくれって言ってるだけだ」

「……まあ、私が排除した事で、二人は更生施設に送られる事になった訳ですけど」

「それもあるけど、それだけじゃない。俺達にとって、第一の目的はもちろん排除だけど、もっと大局的に見なければならない場面もあるんだよ」

「どういう事ですか?」

「能力の性質からいえば、玖墨は様々な情報を握っていたはずだ。俺にはその情報が必要だった」

「玖墨さんの能力……ですか」

「ああ。玖墨は自分には未来予知の力があるなんてうそぶいていたけど、本当は単なる『遠くの声を聞き分ける力』だった。まあ、それでも街全体を覆うほどの強い聴力があったんだ」

「なるほど。玖墨さんのあれは、やはりそういう事だったんですね……」

「納得するって事は、やっぱり大きかったか? 耳が」

「そうですね。大きかったです。あまりに大きな耳で、肩まで垂れ下がっていました」


 この手の身体的な変化は夏木の前例がある。

 その大きな耳が直接的に聴力を上げていた訳では無いんだろうが、より強い力を欲する中で、耳殻じかくも発達していったのだろう。


「玖墨は、その力でこの街にいる能力者の情報を得ていたんだと思う」

「玖墨さんは何故そんなことを?」

「俺の推測では、仲間になりそうな能力者や使えそうな能力者を物色していたって所かな……まあ、今となっては真相は闇の中だ。玖墨が握っていた情報を得られる機会も永遠に失われてしまった」

「……そういう事だったんですか」


 玖墨は今日の一件で、俺達に関しても沢山の情報を得たはずだ。

 それを考えると、口封じが出来たという面では、ミツヤが排除してくれて良かったともいえる。

 最悪なのは俺が玖墨を排除した後、ミツヤが到着して、玖墨から色々と情報が漏れるケースだったので、それを避けられただけでも偶然というものに感謝しなければならない――そんな裏事情を隠しながら、ミツヤに話を続ける。


「ミツヤには確かに実力はあるんだろうと思う。それでも、ミツヤに玖墨や陸浦の排除は出来なかったと思うよ。あんな状況でなければ、玖墨は聴力によって近づいて来るミツヤに気付いていたはずだし、陸浦だって他人から認識されなくなるなんて力を持っていた。返り討ちに遭うか、取り逃がしてしまうかのどちらかだったろう。今回排除出来たのは運が良かっただけだよ」

「じゃあ、聞かせて貰いますけど、戸山さんには何か策があったんですか? 私が排除してなかったら、どうやって排除するつもりだったんですか?」

「話し合いだよ」

「無策で能力者のアジトに乗り込んできたんですか!?」


 ミツヤは目をつり上げた。


「いや、話し合いは立派な策だろ。まあ、無策だったとしても、今はそういう行動を取るべきだったんだよ。玖墨の能力の所為で、こっちの動きは全部知られていた。行くも行かないも同じだっただろうし、逃げ腰になって相手をつけあがらせるより、攻めの姿勢を見せる事で、展開を優位に進める事が出来たはずだ」

「戸山さんは軽すぎます! それだけで、敵のアジトにノコノコとやって来たんですか? せめて楓さんに力を借りるとか、方法があったはずでしょう?」

「楓には司崎を施設に連れて行って貰うって仕事があったんだよ」

「楓さんに会ってたんですか?」

「ああ、ここまで送ってくれたのも楓だよ。でも、あえて楓の手は借りなかったんだ。楓がいたら、玖墨は話しに応じてくれなかっただろうから」

「ですが、玖墨さんが逆上してしまったらどうするつもりだったんですか?」

「玖墨は最初から正面切って俺達と争うつもりは無かったと思うよ。司崎の力なんて使わなくても、陸浦の透明化の力を使えば俺達を追い詰める事は簡単だ。なのに、玖墨と陸浦は何も行動しなかった」

「何で玖墨さん達は何もしなかったんですか?」

「考えられる理由は二つだよ。まず一つは、玖墨と陸浦は自分達の手を汚すのを嫌がっていたからだと思う。汚れ仕事は全部司崎にやらせて、自分達は徹底して何もしなかったらしいし」

「もう一つは?」

「ここには今夜一度来てるんだけどさ。その時、玖墨は姿をあらわさなかったんだよ――それを何故かと考えたんだ。もちろん、自分の能力をかたる為の演出という面もあっただろう、陸浦の力が俺達に通用するかどうか確かめるというのもあったんだと思う。でも、それだけじゃない。玖墨は自分の変わり果てた姿を人前に晒すのが許容できなかったんだよ。高校時代に玖墨が頑なに写真に残る事を嫌ってたのも、家族を追い出して引き籠もってたのも、その耳が原因だと思う。まあ、高校時代は他人から分かるほどの大きな変化じゃなかったんだろうけど、それでも玖墨は気にしていたんだ。だから、玖墨は陸浦を自分の近くに置いておく事に固執こしつした。陸浦がいればいつだって透明化出来るからな」

「なるほど」

「玖墨の排除には、そこら辺を突っついていけば勝機は十分にあったはずだ。ミツヤも言ってたよな――玖墨は陸浦と喧嘩して、逃げる準備をしていたって。それほど動揺しているのなら、おそらく今夜中の排除は可能だったと思う。仮にそこまでは出来なかったとしても、幾らかの情報は引き出せただろう。もう攻撃の意思のない能力者を無理矢理排除するよりも、そっちの方が余程大きな収穫だったはずだ」

「そういう事だったんですか……」


 ミツヤはうつむき考え込み、そして再び口を開いた。


「……確かに戸山さんの言う事は筋が通ってると思います。でも、能力者を甘く見すぎているというのも事実ですよ。彼らは理屈では片付かないという事を忘れないで下さい。彼らは異常者です。自分の欲望を満たす為には何でもする。このスタンガンを当てるだけ――そんな簡単なプロセスでだって犠牲者は出ます。古手はもっと複雑な事をしなくてはならないんですよね? 人間なんて脆いんです。呆気なく事切れる。何の脈絡も無く、理由も無く、終わりは来るんですよ」

「わかってるよ。その上でやってるんだろ。俺もお前も」

「……そうですけど」

「今夜、ミツヤがやった事は、マイナスでしかない。そうじゃなくても、こっちは修行中の身だ。一つでも多く排除がしたい。だから、この街にミツヤが留まるというのなら、俺の指示に従って欲しいって言ってるんだよ。もちろん、俺が一人で無理だと判断した時には全力でミツヤの手を借りるつもりだ。俺はプライドとかそういう浅い行動原理で動いてる訳じゃないからな」

「……なるほど。分かりました。戸山さんの指示に従いましょう。便利に使って下さい」

「ああ、そのつもりだよ」


 どうやら、俺の出した条件に納得して貰えたようだ。

 良かった。

 一応ダメ押しに、感情にも訴えかけておこう。


 俺は倒れている陸浦に目をやった。


「で、こいつらはいつになったら目覚めるんだ?」

「どれだけ能力というものに浸食されていたのか。そういう事が目覚めまでの時間を左右します。先程の話に寄れば、割と能力が深化していたようですから、結構な時間が掛かるかもしれません」

「って事は、長期間施設から出られないという可能性もあるって事か?」

「……そうですね」

「そっか……大変だな。こうやって新手に排除された能力者を見ると、ずしんと心に重荷がのし掛かるよ。こいつらは確かに司崎を使って悪事を働いていた。だが、それだって記憶がある状態で罪を償わせるべきだった。新手の排除は失う物があまりにも多過ぎる。だから俺は、あくまでも自分で排除がしたいと思うんだよ」

「戸山さん……」


 ミツヤは何かを言いかけて、再び俯いた。

 思うところもあるのだろう。


「俺の言ってる事は分かってくれるよな」

「……はい」


 ミツヤは深く頷いた。

 これでミツヤは勝手な排除をしないはずだ。


「じゃあ、ここはミツヤに任せて俺達は家に帰っても大丈夫か?」

「大丈夫です。後は任せて下さい。車の手配も済ませてますから」

「そっか。じゃあ、俺達は帰るよ。いつまでも付き合いきれない」

「わかりました。では、またお目にかかりましょう」


 二度と会いたくは無いが、そうもいかないのだろう。


「そうだな。それがあまり近くない事を祈ってるよ。じゃあ、おやすみ」

「はい、おやすみなさい」




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