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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第四章 司崎肇編
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一時退避

「ある程度の距離は稼げた。もう歩こう」

「ああ」

「そうだね」


 俺の提案に、二人は息を上げながら返事をした。


「でも、やっぱり今のはおかしいだろ。あんなのは正義じゃない」


 と、遠田。


「自分でも汚い事をやってると思うよ。だけど俺に出来るのは、こういう事しかない。これが俺の限界なんだ。分かってくれよ」

「……分かった。今はそうする事にする」


 遠田はそう呟くと、外していた視線を俺へと戻した。


「――で、雪嶋さんは本当に大丈夫なのか?」

「確認の為に、しばらく様子を見てただろ? 司崎は雪嶋に何も出来なかった。大丈夫だよ」

「鉄パイプ軍団みたいなのが現れたらどうするんだ?」

「それは相当に運が悪いな……まあ、そうなったとすれば司崎は雪嶋を守ると思う。そうでなければ、何があっても雪嶋に手を上げられないなんて事にはならない。さすがに、危機が迫れば雪嶋も司崎に協力するだろうし」

「そうか……でも、やっぱり私だけでも残った方が良かったんじゃないか?」

「策があるって言っただろ。それには遠田が必要なんだ――大丈夫。雪嶋の犠牲は無駄にしないから」

「いや、犠牲って言っちゃってるからな」

「今はそんな事を議論してる場合じゃない。こっちも、うかうかしてられないんだよ」

「何故だ?」

「どうやら玖墨には俺達がいる場所がわかるらしいからな。雪嶋が振りほどかれた瞬間、司崎はあのスピードで俺の所に向かってくるだろう」

「なるほど……そういう事か」

「だから、その前に最大限準備をしておきたい」

「排除できそうなのか?」

「そんな事、やってみないと分からないよ」

「そんな適当な」

「適当でも何でも、今は動くしかない――ところで、遠田。受験の前日に辻平と揉めたと言ってただろ? あの時はどんな服装だったか覚えてるか?」

「は? 服装? 制服だったと思うけど、それがどうしたんだ?」

「その制服は残ってるか?」

「ああ。家のどこかに」

「じゃあ、家に帰って、それに着替えてくれ。それから辻平もいた方がいいな。呼んでくれないか?」

「なぜ辻平を?」

「詳しい事情は後で説明する。どうせ遠田の事だから、辻平とはきちんと話をつけるつもりなんだろ?」

「まあな。あんなたくらみをしてたんだ。しかも、約束を破って夏木に近付いた。あいつの事は絶対に許せない」

「じゃあ、今日でも良いじゃないか。『お前が今夜やっていた事は全部知ってる』とでも言えば、辻平は大慌てでやって来るだろ?」

「そうだろうな。わかったよ」

「あと、受験前日の時の事を出来るだけ思い出しておいて欲しい。再現できる事は再現したいから。例えば辻平の髪色とか」

「あの頃、辻平の髪は黒かったよ」

「それなら黒染めスプレーが必要だな。俺達はちょっとドラッグストアに行って来るよ」

「わかった」

「じゃあ、俺は今から逢野姉に電話しないといけないから、ここから別行動って事にしよう」

「ああ。じゃあ、後でな」



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