98.パルエッタ邸へ向かいます。
「え、と。それはどういう……?」
お母様はにこにこと微笑みながら、首を緩やかに傾ける。
「だって、あなた自分で動かないと不安になってしまうのでしょう? なら、あなたがパルエッタ伯爵家に出向いて、無理やりにでもラヴィニア・パルエッタに会ってくれば良いのではないかしら? どの道警戒態勢なのだもの。敵も迂闊に手は出せないでしょう? あなたを侮って手を出してくれば、返り討ちにしてあげれば良いわ。女の子で子供の貴女が動くことで、敵が釣られて出てくるかもしれないわよ? 動きやすい服を着ていくと良いわ」
それは……。凄く魅力的。
良いのかな。
「ラヴィニア・パルエッタは貴族の娘なこともあって影響が強いでしょう? 使用人一人の証言だけで迂闊に罪人として捕らえることはできないの。だから名目上は保護だけれど、実際は捕獲ですもの。罪人として王宮に連れて来られると思うわ。王宮に入れられてしまえば早々に手は出せないから、色々知ってしまっているラヴィニアを消したくて敵もヤキモキしていると思うの。パルエッタの屋敷は騎士が取り囲んでいて手は出せないでしょうから、何かするとしたら移動中になると思うの。あなたなら、戦えるでしょう?」
胸の奥が、熱くなってくる。
うん。戦える。だって、私、強いもの。
「わたくしもあなたに危ないことはして欲しくないけれど、抑え込んだらあなたはもっと危ないことをしてしまいそうだもの。それなら知らないところで危ないことをされるより、分かった上で危ないことをされる方がまだいいわ。せめて一発、ラヴィニア・パルエッタを殴っていらっしゃい。罪人として捕らえられた後では殴らせて貰えないわよ? フレッドもパルエッタ家に行くように伝令を出しているから、あちらで落ち合いなさい。敵がのこのこ現れるなら、たとえ隣国相手でも構わないわ。陛下の許可は頂いています。やっておしまいなさい」
お母様は、私に紙を一枚差し出した。くるりと丸めた紙には、陛下からの勅命を示す記載がある。これでパルエッタも私を拒めない。
「ありがとう、お母様……!」
私はお母様に駆け寄って、ぎゅっと抱き着いた。
お母様が、優しく髪を撫でてくれる。
「気をつけて、行ってくるのよ?」
「はい――!」
私はビアンカの枕元へと、歩み寄った。
すぅすぅと、ビアンカは静かに眠っている。枕元には、私とお揃いの鉄扇。
私はビアンカの扇をそっと手に取った。
「ごめんなさいね。鉄扇、また借りていくわ。力を貸して頂戴。あなたの敵、討ってくるわ」
小さな声で話しかけ、お母様に頭を下げてから、私は急ぎ部屋へと戻った。
そのままコルセット無しのワンピースに着替えさせて貰う。
髪は高い位置で一つに纏めた。
足元は、動きやすい編み上げのブーツにしてもらう。
ワンピースのベルトに扇を二本差し込んで、準備万端。気合は十分。
私は馬を一頭用意して貰い、パルエッタ邸へと急いだ。
***
パルエッタ邸に近づくと、騎士団の一人に止められた。
まぁ、見張り中だものね。単騎で馬を駆る私を警戒するのは当然だろう。
「アウラリーサ・ブランシェルです。陛下より許可は頂いております」
「は、少々、お待ちを……」
目を瞬いた騎士は、すぐに騎士を統括する団長さんを呼んできてくれた。
現在、パルエッタ邸には騎士が二人、中へ通されているらしい。
パルエッタを囮に、黒幕が何か接触をするのを見張っている状態だそうだ。
だが、流石に黒幕も警戒しているらしく、未だ動きはないとのこと。
私はお母様から伝えられた話を団長さんに説明し、私がラヴィニアを連れ出せたら、最低限の人数で馬車の護衛をしてくれることになった。残りの騎士は先回りをし、周囲を警戒しておいてくれるそうだ。
団長さんと話をしていると、フレッドも到着をした。
「お嬢様」
「フレッド……!」
うん。これで、もう百人力。
私はフレッドと共に、パルエッタ邸へと向かった。
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