89.西の温室の噂
一度頭を冷やす為、皆でお茶を一杯飲みほしてから、気になることを挙げていく。
「ラヴィニア様とユーヴィン様の関係が気になりますね。どういう繋がりで婚約が結ばれたのかしら?」
「あの方って言葉で一足飛びしてしまったけれど、その前に浮かんだのはユーヴィン様ですわ」
「誰が怪しいか、はおいておきましょう? 温室の事をビアンカ様に教えたのはラヴィニア様かしら? アメリアに教わる、というのは少し不自然ですもの」
「では、まずはCクラスへ行ってみて、ラヴィニア様の事を調べてみましょう? ……シャーリィ」
「むぁいっ」
大口を開けてマフィンを頬張っていたシャーリィがもぐもぐしたまま返事をする。
「フレッドは分かるわね?」
「だいじょぶ、わかりますっ!」
私はシャーリィに話しかけつつ、フローラから紙を一枚受け取り、サラサラとペンを走らせる。
フレッドに、パルエッタ伯爵家とストムバート伯爵家について調べて頂くように、お父様に手紙を運んで貰う。
流石にことが大きすぎるもの。貴族の家の裏側まで探る力は、子供の私達にはない。
大人を頼るしかないんだ。
ビアンカに起こったこと、アメリアが白状したことも書き記しておく。
きっと王宮も動いているはずだ。
「これをフレッドに渡して頂戴。お父様にお知らせしてと伝えて?」
「分かりましたぁー、まかして!」
四つに畳んだメモを差し出すと、シャーリィはクッキーを一つ口に投げ込んでから、紙を受け取り飛び出して行った。
「わたくしは一度Aクラスへ戻りますわ。ヴァイゼ殿下とユーヴィン様……。会って参ります」
キリリと表情を引き締めて、ヴェロニカが立ち上がる。
「ええ、分かったわ。フローラ。わたくしたちはCクラスへ参りましょう」
「はい!」
***
Cクラスへ再度突撃すると、あからさまにビビられた。
うぅ……。すみません。
「先ほどは失礼いたしました」
私が深く頭を下げて謝罪をすると、Cクラスの生徒達は、わたわたと慌てる。
「実は皆様にお願いがありますの。どなたか、西の温室の噂をご存じの方はいらっしゃいまして?」
お願いポーズで尋ねると、手を取り合って隅っこで震えていた女子生徒が三人、顔を見合わせ、おずおずと挙手をした。
「あの……。それでしたら、わたくしたち、存じ上げておりますわ」
三人は、ね。と顔を見合わせ、頷きあった。
やった!
そわ、っとしながらも、焦るなと自分に言い聞かせる。
「どなたにお聞きになったのかお聞きしても?」
「ええと……。その、ラヴィニア・パルエッタ伯爵令嬢から、ですわ」
「あの……。俺もその話、聞きました」
「俺も」
男子数名もおずおずと挙手をする。
これは、来たんじゃないか? ビンゴ?
「ラヴィニア様はなんて?」
「ラヴィニア様もお友達から教えて頂いたと仰っていたのですが……。西の温室にある、とても珍しい花が咲きそうだと。十年に一度しか花を咲かせない、とても珍しい花だと。きっと明日には咲くのだけれど、自分は用事があって見られないから、もし見に行くならどんなだったか教えて欲しいと言われました」
「その話をどなたかになさいました?」
「お友達には何人か……」
「Aクラスのビアンカ・ブランシェルにそのお話をされた方は?」
「ぁ」
先ほど聞いたと手をあげた男子が、小さく声をあげた。
「何かご存じなのでしょうか?」
「えっと……。その……」
気まずそうに一度周囲を見渡してから、男子生徒はおずおずと私に近寄ってきた。
「大きな声ではちょっと……。お耳を拝借しても宜しいでしょうか……っ」
かぁ、っと赤くなりながら、ぎゅっと目を瞑る男子生徒。
貴族が女性に耳打ちする距離で話す、なんて、通常は無いからねー。
特に私、公爵令嬢だし。
つっても周囲に人は大勢いるから、不埒な真似ができるはずもないから問題ないとおもうけど。
「お願いいたします」
私が少し顔を横に向け、耳を傾けると、ぺこぺこと小さく頭を下げながら、男子生徒が私に耳打ちした。
「実は、宰相子息がビアンカ・ブランシェル様を西の温室に誘っていらしたのを聞いてしまいまして……」
ユーヴィンが?
なんか、嫌な予感しかしない。
「ですが、ビアンカ様にすぐ断られて。そうしたら、すんなり分かった、と。これでけじめがつきましたって、愛の女神の加護があるそうだから、殿下と見に行かれるといいと仰って、今まですみませんでしたって謝罪をして去って行かれました」
ずっと、接触を断っていたのに?
なんで、今になってまた?
しかも、そんなに都合よく?
……怪しすぎる。
まさか、ヴェロニカ、一人でユーヴィンに会ったりしないよね?
ヴァイゼ殿下と一緒なら、安心なのだけれど……。
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次は明日の朝、8時に更新行けるかなー。
遅くても夜9時くらいまでには更新する予定です。




