81.考えがあるのです。
開き直ったユーヴィンは思った通り、しつこかった。
シャーリィのように至る所で張り込む真似はしないのだが、子供っぽいリボンや平民の暮らす街の屋台で売られたアクセサリー、リスの刺繍のハンカチ。
毎日のように何かを持ってきては、ビアンカに拒否されて、毎回そのままゴミ箱に投げ込んだり、その場に捨てて行ったり。
本当に、何がしたいんだろう。
一度ビアンカが、それを指摘すると、「貴女が受け取って下されば捨てる必要がなくなります」と言ってきた。
日を追うごとに、ユーヴィンが近づいてくると、ビアンカの表情が凍り付きそうなほどに冷たくなる。
ヴァイゼ殿下は、ユーヴィンが執拗にビアンカに絡むのを、黙って離れた場所から見つめていた。
ヴァイゼ殿下とユーヴィンの関係も、よくわからない。
ゲームでは、アイザックの側近候補だったユーヴィン。
今は、ヴァイゼ殿下の側近候補のような立ち位置だ。
「ヴァイゼ様が留学なさった際に、学園長から紹介されたそうですわ。以降ああして、ヴァイゼ殿下の側近のように傍についておりますの」
お昼に、ヴェロニカを誘い、個室で一緒に食事をとりながら、話を聞いた。
学園長か――。
好意で紹介をしたのか。それとも、何か思惑でもあったのか。
どうにも前学園長イコール敵、な認識が拭えない。
「ヴァイゼ殿下はどう思っておいでなのかしら?」
「それが、わたくしもその辺の話をしたことが御座いませんの。それなりにユーヴィン様との仲は悪くないように思えますが……。これはわたくしが感じていることなのですが、ヴァイゼ殿下は、何かを待っているようにも思えますわ。今のユーヴィン様を咎めるなどもしておりませんでしょう?」
「そう、ですわね……」
待っている、か。
私には、じっと観察をしているように見えるわ。
できれば、ヴァイゼ殿下とは敵対したくないなぁ。
何かあったわけではないんだけど、ヴァイゼ殿下の空気、だろうか。
悪い意味でなく、あの方は敵に回さない方が良いタイプだと思う。
まだ十四歳の少年とは思えないんだよね。
アイザック殿下も大分次期国王としての責任感みたいなのが出てきた感じだけれど、ヴァイゼ殿下は、既に出来上がってる感じがするというか。
ユーヴィンも切れ者な印象だったのに、実際はあんなサイコパスで何したいのかわからない変人だったから、私の勘も残念ながらいまいち信用できなくなってるから、実際はどうなのか分からないけれど。
「ビアンカ、大丈夫?」
「大丈夫ですわ。お姉様」
ふわりとビアンカが笑みを浮かべる。
ビアンカの所作は、私と並んでも、もう遜色がない。
私、ビアンカ、ヴェロニカで並んだら、私が一番下かも。
だけど、私は少しだけ、胸に小骨のように、ユーヴィンの言葉が刺さっている。
「ビアンカ。わたくしは、あなたの自由を奪ってしまったのかもしれないわね」
小さく漏らしてしまったら、ビアンカがくすくすと笑った。
「お姉様。平民にも、平民なりのルールやマナーがありますわ。確かに言葉遣いや所作といった部分では、厳しく躾けられることは稀かもしれません。ですが、それでも窮屈な思いをしないわけではないと思います」
……そうね。私は、ビアンカの言葉に頷いた。
「確かに、わたくしは、ずっとお姉様の仰るままに、動いてきたように見えるかもしれません。ですが、それはわたくし自身が、お姉様の助言に納得し、自分で変わりたいと切に願い、そうしようと思ったからです。お姉様に道を決められたわけではなく、お姉様が一本しかなかったわたくしの道を、沢山の可能性を持つ、自分で選べる道へと導いてくださっただけです。選んだのは、わたくしですわ」
「ありがとう。そう言ってくれると、気持ちが少し軽くなるわ」
後は、ユーヴィンのあのこれ見よがしに捨てる行為か。
平民の暮らしを知っているビアンカは、割と目線が平民の心情に寄りやすい。
簡単に物を捨てる行為が、ビアンカは嫌いだ。
ユーヴィンのあの態度に、ビアンカの表情が曇るのは何とかしたい。
「お姉様が何を考えてらっしゃるのか、見当は付きますわ。ですが、わたくしも、そろそろ面倒になってきましたから手を打とうかと考えてはいましたの。ここは今しばらく、わたくしにお任せくださいませ」
私とお揃いの鉄扇で、口元を隠し、クスリと笑って目を細めるビアンカに、私とヴェロニカは顔を見合わせた。
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