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64.誰に仰ったのでしょう?

 シャリシールを追って、屋敷の外へと向かっていると、門のあたりで揉めている。


「あっ! アウラリーサさまぁ、聞いてください、この人お屋敷にいれてくれないんですぅ!!」


 ちょ――!


「なんであなたがここにいるの!!」

「公爵様のお屋敷大きいからすぐに分かった!」

「そうじゃなくて、何故あなたがここにいるの!!」

「私も王子様を探すんですぅっ!」

「邪魔よ! ついて来ないで!!」

「嫌ですぅ!! ぜ――ったい、ついてきますぅっ!!」


 走りながら怒鳴ると、シャーリィも怒鳴り返してきた。

 もう知らん。勝手にしてくれ。その代わり面倒見ないからね!!


 シャリシールは、時々足を止め、顔を上に上げるようにして、くんくんと鼻を鳴らしている。

 時々足を止め、耳を動かし、何かの音を聞き取ろうとする。


 時々、うろうろとしながら、シャリシールはどんどん進んでいく。

 街を抜け、郊外へと進んでいく。


 流石は元平民。結構な距離歩いているんだけど、シャーリィはケロっとついてくる。

 私は大分息が切れてきた。結構運動してたのに。

 そろそろ、陽が沈む。暗くなったら、厳しくなるだろう。


 やがて木立に囲まれて、秘匿されるように、小さな屋敷が見えてきた。

 貴族の屋敷にしてはかなり小さい、けれど平民にしては豪邸。

 別荘のような佇まいの屋敷には、篝火が焚かれ、見張りらしき人の姿が大勢見える。


 目視できるだけで、門の前に二人。門の奥に、五人、かな? 更に奥の扉の前にも二人。


 ヴァルターが、シャリシールの口を押さえ、身を隠すように茂みにしゃがむ。

 私も呼吸を整えて、同じように茂みに身を隠したフレッドの隣へと身を隠す。


「結構人が居るな……。多分ここで間違いなさそうだ」

「どうやって」

 ――潜入しましょうか。


 そう言いかけた時だった。


「あそこに王子様がいるんですね!! こらぁ――っ! 王子様を返せ――っ! 王子さまぁ! 今助けま――――すッッ!!」

「あっ!? こら、馬鹿ッッ!!」


 え――――ッ!?


 慌ててヴァルターが引き留めようとしたが時遅し。

 シャーリィ、そのまま大勢の見張りが居る屋敷目掛けて突っ込んでいってしまった。


 脳みそ無いの!?

 なんでそのまま突っ込むの!?

 相手剣持ってるんだよ!?

 馬鹿なの!? 馬鹿だった!!


 あっという間に気づかれる。

 当たり前だ。


 慌ててヴァルターが剣を抜く。

 フレッドも立ち上がり、剣を抜いた。


 私も釣られて立ち上がる。


「お嬢様は後ろへ!」

「アウラリーサは下がってな!!」


 私を庇うように前に出るフレッドとヴァルター。

 いち早く敵に接触したシャーリィは、きゃーきゃー悲鳴を上げつつも、器用に敵の攻撃を回避して奥へ奥へと駆けていく。


「おい! こら、戻ってこい! 一人で行くんじゃねぇッ!!」

「王子様を、お助けするのぉ――――ッ!! たぁッ!」


 シャーリィはヴァルターの制止を無視して、そのままアイアンフレームの施された門へ飛び蹴りし、屋敷の方へと駆けていく。

 シャーリィに突破された連中は、キャーキャー騒ぎながら逃げ回るシャーリィは無視して、こっちに剣を手に突っ込んできた。


「ヴァルター様ッ!! 目を離してはなりませんッ!」

「しま――ッ」


 シャーリィに意識を取られたらしいヴァルターが、一瞬目の前の相手から目を逸らしてしまった。

 キィンっと金属音が鳴り、ヴァルターの手にしていた剣が宙を舞う。


 私はスカートに挟んでいた扇をぎゅっと握って、ヴァルターの腕の下を掻い潜る。

 一瞬、フレッドの息を呑む音が聞こえた。


 夕闇に包まれ始めた空には、大きな月。

 その月をバックに、ヴァルターに向かい、剣が振り下ろされる。


 『力は要りません。剣に沿って、刃を添えて、軌道を変えてやるのです』


 フレッドと、何度もこっそり、練習をした。

 扇を敵の剣へと添わせる。金属の擦れる耳障りな音。

 急にヴァルターの陰から飛び出した私に、驚いたように目を見開く、敵の男。


 剣の軌道をずらしながら、深く踏み込み、扇の先で喉を突く。


「がほッッ!!」


 激しくせき込み、男が喉を押さえる。その手から剣が離れ、地面へと落ちていく。

 前のめりになる男を避けるように、斜め後ろに一歩引く。

 そのままビンタの要領で、顎先目掛け扇を振りぬいた。


 ぐるんっと白目をむいた男が、そのまま地面へ崩れ落ちる。


 もう一人の男と対峙していたフレッドも、その敵の男も息を呑んで静止した。

 ヴァルターは呆気に取られたようにぽかんと口を開け、硬直している。


 そう。これは、鉄扇。

 前世で、いつか覚えたいと思っていた、私の憧れの武器。

 漆黒の鉄の軸に薄い鋼で綺麗な百合の細工を施した鉄扇は、一見それとはわからないように、作って貰った代物だ。


 ふふん。私は優雅に扇をパラリと広げ、口元を隠した。


「――誰に、下がっていろと仰ったのかしら? ねぇ、ヴァルター様」


 屋敷に焚かれた篝火に、私の鉄扇がきらりと光を反射した。

いつもご拝読・いいね・ブクマ・評価・誤字報告、有難うございます!

次は夜、ちょっと早めで19時くらいに投稿予定です。

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