34.案外そうでもありません。
帰り際、帰りたくないと駄々を捏ねる殿下を、護衛の騎士が淡々と、しかもバッサリと一蹴し、殿下は渋々と帰っていった。
部屋へと戻りながら、ニッコニコのビアンカに声を掛ける。
「どうだった? 殿下との逢瀬は」
「とっても楽しかったです! ……ですがお嬢様。本当に、ほんっとーに、宜しいんですか? 後悔なさいませんか?」
自分の事しか考えなかった子が、私を気遣ってくれるなんて。
成長したね、ビアンカ……。涙出そう。
「後からやっぱりだめと仰られても返しませんよ?」
……ぁ。やっぱ自分の事か。
喜んで損した。
「言わないわよ。後悔するくらいなら最初からこんな七面倒くさい計画なんて立てないわ。殿下もあなたをとても気に入ったようだし……。リティ。どう思う?」
「侍女見習い、としてなら、問題ないかと存じます」
ぱあぁぁぁっとビアンカが目を輝かせる。嬉しそうにぺこーっと頭を下げた。
「ありがとうございます、リティさん! 私、とっても嬉しいです!!」
うん。リティが及第点を出すなら、大丈夫かな。
「なら、ビアンカの分も用意をしなくてはね。来月には王宮に移ることになるから」
「公爵家のお屋敷があるのに、お城で生活をなさるんですか?」
「そうよ。ここはタウンハウスなの。ビアンカも社交界は聞いたことがあるでしょう? お城で舞踏会が行われたりするあれよ。貴族は社交シーズンって言うのがあって、そのシーズン中だけ王都に来るの。メルディアでは、十一月から六月までがシーズンで、それ以外は領地に戻るのよ。公爵領は別にあるから、お父様とお母様はそちらにお戻りになるの」
「カシュオン様も?」
「ええ。カシー兄様も。お兄様は領地で公爵家の後継ぎとして領地経営を学ばなくてはいけないから。領地を見て回るのも、領主の仕事になるの」
「リティさんは?」
「リティは私の侍女だから、あなたと一緒に王宮に上がって貰うわ。それから、フレッドも私付きの護衛だから、私と一緒に王宮よ。カインはお兄様の護衛だから――」
「領地にお戻りになるんですね!」
「ええ。あたり。私は後二週間ほどで王妃教育が始まるわ。お父様たちが王都にいる間はこの屋敷から王宮へ通うの。リティ。明日の予定、どうなっていたかしら?」
「明日は、十時から奥様とマナーのレッスン、お茶会の際のホステスについてのお勉強、午後は十三時より歴史と情勢のお勉強、十五時よりカルトゥール語のお勉強です。十六時から楽器のレッスンで、十七時から――」
ビアンカが白目剥きそうになってる。
あ、因みに私には、マナーと所作と刺繍のお勉強以外は、まともな家庭教師が付きました。
教えるのが上手な先生だから、お陰でお勉強もサクサクと進んでいます。
「そうね……。朝のレッスンは明後日に回すわ。 明後日、乗馬と薬草学が入っていたでしょう? それを朝のダンスレッスンの前に回すから、その時間にあてて貰うように、お母様にお伝えしておいてくれる? それと、リティとビアンカの用意をしたいから、商人を呼んで欲しいとお伝えして?」
「畏まりました」
固まっちゃったビアンカが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
びっくりしたでしょ?
私が勉強中は別室でリティから侍女教育受けていたもんね。
私も最初この予定聞いた時は、ひぇぇぇってなったんだけど。
――でもね……。これ、めちゃくちゃハードスケジュールっぽいけど、私実際にやってみたら、体感的に日本の学校の教育レベルとあんま変わらなかったんだよ……。
高校の時で、大体授業始まるの九時ちょい前で、ホームルームあって、四時間目まで午前の授業、午後の授業が二時間あって、六時間目まで勉強すると十五時半くらい。
そこから十九時くらいまで部活普通にやってるやん……。
基本朝の十時から夜の十九時くらいまで予定詰まってるのザラなんだけど、密度的にも、思ったより苦じゃないんだよね、これが。
小学生や中学生なら、学校終わった後に塾が入ってたりするじゃない?
私も小学校の時は、学習塾とそろばん教室と合気道習ってて、帰るの二十一時とかだったし。
何なら前世の方がハードだった。
こっちは私がお子様ってのもあるんだろうけど、二十二時には就寝だもんね。
朝は早いと六時に起きるけど、八時まで寝てても大丈夫だし。
通学無い分楽。
まぁ、ぐだぐだで受けても何とかなった前世の勉強より、マンツーマンな分サボれないし、体罰有りなこの世界は、教育の仕方も割とスパルタで厳しいから、きつくないわけじゃないんだけど、勉強自体は正直結構面白い。
良かったわね。ビアンカ。
私たち、前世日本人で。
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残業してたら遅くなっちゃった……。




