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33.ご対面です。

 身なりを整え、部屋で読書をしていると馬車の音がした。

 お見えになったようだ。

 すぐにウォルターさんが王子殿下のご訪問を告げに来た。


「リティ。ビアンカ。行きますよ」

「「はい、お嬢様」」


 私は読みかけの本を手にしたまま、リティとビアンカを連れて部屋を出た。

 ウォルターさんが王子の待つサロンへと案内してくれる。

 サロンに通されると、護衛を二人携えて窓際に立っていたアイザック王子がこちらを振り返る。

 

 殿下には、今日ビアンカを連れてくることは言っていない。

 連れて来れるかわからなかったから。

 立っていたところを見ると、王子も連れてくるかもって思っていたのかも。


「ご機嫌よう、アイザック殿下。お待たせして申し訳御座いません」

「一ヵ月ぶりだな、アウラリーサ。その子は?」


 アイザックが期待するように私の後ろに視線を向けている。

 わかりやすい顔しちゃってまぁ。

 私は肩越しに振り返り、ビアンカを私の隣に招く。


「アイザック王子殿下。新しい侍女見習いのビアンカです。いずれリティと一緒にわたくしの侍女についてもらう予定ですので、本日こちらへ連れてまいりました。ご挨拶を申し上げても宜しいでしょうか」


「ビアンカというのか。わたしはメルディア王国第一王子、アイザック・フェロー・ド・メルディア。もうすぐ七歳になる」


 ぅおーい。おうじさま――。私の時と随分と態度違いませんか――。

 普段ぼくなのに、何わたしなんて一人称使ってんの――。


 大丈夫。顔にも声にも出さないよ。しっかり猫は被ります。


 私がビアンカに頷いて見せると、ビアンカは顔を上げた。

 殿下と目が合うと、それはもう、嬉しそうに、にこーっと人懐っこい笑みを浮かべる。


 ――令嬢としてはアウトだけど、これは可愛いな……。


 ちらっとアイザック王子を見ると、目を丸くして、顔を赤くしてビアンカを凝視していた。


 チョロ!!

 即落ちか!!


「お初にお目にかかります、アイザック第一王子殿下。先日アウラリーサお嬢様に、お仕えすることになりました、ビアンカと申します。六歳です。第一王子殿下にお目に掛かれて光栄です」


 よし! 特訓の成果が出てる! できるじゃん、ビアンカ!

 ビアンカは教えたとおりに九十度、ちょっと勢いが付いちゃってるけど、しっかりと頭を下げ、一拍置いて顔を上げてから、照れたようにえへへと笑った。


 釣られたように、殿下も照れたようにふにゃっと笑う。


 この辺、素直に凄いと思うな。

 私とかは、心の中はあれこれ悪態吐いたりしても、表面上は猫何匹も被っちゃうし、行儀よくしなくちゃって思っちゃうけれど、ビアンカは王子であっても、他の人と態度が変わらない。


 言葉遣いを学ぶのは、淑女教育をする女性の方が早いから、矯正したお陰で口調はぶっちゃけ王子よりも丁寧な言葉使えるようになったけど、物怖じしないところは素のままだ。


 なんか、王子が惹かれるのもわかる気がする。

 私も今のこの子なら、貴族とか平民とか関係なく、お友達になりたいって思うもの。


 王子があれこれ質問をし、ビアンカがそれに答えていく。

 可愛いねー。ちっちゃい子が照れながら見つめあうの。

 やっぱヒロインと王子なんだね。

 少なくとも王子殿下、チョロ過ぎ感は否めないけど、見事ヒロインに攻略されたご様子。


 ――運命ってことだねきっと!


 けど私すっかり空気なんですが。

 王子? あなたの婚約者、一応まだ私なんですけどね?

 いつまで続くんだ、この桃色空間。


「……リティ。お茶を淹れて頂戴」

「……畏まりました。お嬢様」


 やめて。その大丈夫?と言いたげな顔。

 全然大丈夫だから! 寧ろ計画通りだから!


 リティにお茶を淹れて貰い、殿下が腰を下ろすのを待って私もソファに腰を下ろす。

 殿下の後ろには護衛の騎士が立ち、リティに促され、ビアンカもリティと一緒に壁際まで下がる。


 王子、視線がちらちらビアンカに流れてる。

 いいねー、アオハルだね。

 そういえば前世の私も初恋は幼稚園の頃。近所のおにいさんだったっけ。

 ちっちゃくてもいっちょ前に恋は出来るんだねぇ。


「アウラリーサはきれいだけど、ビアンカはかわいいな」


 ……おや。最初から塩対応だったから、王子からこんなセリフが出るとは思わなかった。


「お褒めにあずかり光栄です。……殿下。内密のお話をさせて頂きたいのですが……」

「え? ああ」


 殿下は軽く手で払うような仕草をする。

 護衛はほんの一瞬ためらうそぶりを見せてから、リティやビアンカと扉を隔てた反対側に下がった。


「――運命の出会いは果たせたようですね。おめでとうございます、殿下」

「やっぱり、ビアンカがぼくの運命の相手なんだな? 公爵家で引き取るんじゃなかったのか?」

「血縁ならともかく、ビアンカはネーヴェ男爵の姪です。すぐには無理ですわ」

「じゃ、どうするんだ?」


 私はビアンカにも話した計画を殿下にも説明する。

 ビアンカには、侍女としてスキルアップを目指して貰うこと。

 王妃教育に付き合わせること。

 学園入学時に養子に迎え入れたいと考えていること。

 婚約を解消し、ビアンカを殿下の婚約者に推薦すること。


「つまり、お前とのお茶会の時に、ビアンカに会えるのか」


「ええ。交流を深めて頂こうと思っています。ですが、私に会いにいらしている殿下が、使用人とばかり話すのが知れ渡れば、殿下の評価が下がりましょう。殿下もお付きの方に、ここでのことは他言無用にするように、命じておいてください。殿下とビアンカがお話できるのは、わたくしと殿下、二人で行うお茶会の時だけになります。ビアンカと二人きりにさせるわけにはまいりませんが、お邪魔は致しません。それと、近いうちに、ビアンカにも文字の読み書きを教えます。ですから、お手紙をお書きになってください。あて名はわたくし宛にしてくださいませ」


「手紙?」


「ええ。ビアンカの勉強にもなりますし、殿下のことを知って貰えましてよ。勿論、ビアンカのことも、お手紙でお尋ねになれば宜しいかと」


「そっか、良いな、それ。やってみる!」


「はい。では、後はどうぞ、ビアンカとの逢瀬をお楽しみ下さいませ」


 私は席を立つと、ビアンカを呼ぶ。


「わたくしと殿下のお茶会の時だけ、ソファに座ることを許可します。殿下のお相手をして差し上げて?」

「か……畏まりました。お嬢様」


 ビアンカがおずおずと腰を下ろすのを待ち、私は少し離れたサイドテーブルのある椅子に腰を下ろす。

 リティがお茶を運んできてくれた。


 よし、続き読もうーっと。


 小さな声で話しながら、くすくすと楽しそうに笑う声が聞こえてくる。

 上手くいったみたいだな。


 ここまで長かったけど、やっとスタートラインに立てた感じ。

 次は王妃教育か。

 王宮に上がるまでに、ビアンカをスキルアップさせないと。


 ……なんだか育成ゲームみたいになってきた。

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毎日、投稿するとすぐにいいねをつけて下さる方がお二方。もう、ほんっと嬉しいです……っ!

誤字多くてすみませんっ;感謝感謝です!

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