14.国王陛下は意地悪です。
「お願い、お父様! 私、死罪なんて嫌です!」
「……アリー……」
困らせてるよね。わかってる。でも、嫌なもんは嫌だ。
「アウラリーサ嬢……」
メイナード子爵の瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。
うん。私、勘はめっちゃ良いんだよね。
ぱっと見で何となく苦手って思う人は大抵気が合わないし、なんか良いなって思う人は、大抵好きになる。
恋愛って意味でなく。
私の勘は、子爵は良い人だって告げているもの。
夫人。やっぱりあなたは馬鹿だ。大馬鹿だよ。
だってこんなに素敵な旦那様、泣かせたりするんだもの。
あなたの為に苦しんで、あなたの為に爵位まで捨てようとして。今もこうして泣いている。
「……アリー。わかったよ。確かにお前の言う通り、死をもって償うよりも、一生かけて償う方がいいね。お父様もそう思うよ」
!!!
期待を込めて、お父様を見つめる。子爵も息を呑んで、お父様を見つめてる。
「――陛下に、もう一度謁見をお願いしてみよう。お前の気持ちは、お父様がちゃんと陛下にお伝えするよ。……でもね。アリー。国の決定というのは、幾らお前が拒んでも、お父様がどんなに頑張っても、簡単には変えられないんだよ。イザベラ・メイナードに下される罰は、変わらないかもしれない。それは、分かってくれるね?」
……うん。わかってる。
私はコクリと頷いた。
メイナード子爵は、よろめきながらこっち側に回ってくると、へたりとまた膝をつく。そのまま、すがるようにお父様の手を両手で握り、その手に額を押し当てた。
「ありがとう……有難うございます……ッ!! たとえイザベラがこのまま死罪となったとしても、この御恩は一生忘れません! アウラリーサ様がイザベラを庇って下さったこと、何があっても忘れません……!!」
――いや、別に庇ったわけじゃないんだけどね……?
なんかすごい慈悲深い子のように思われると、それはそれでちょっと気まずい。
まぁ、それでも、子爵の心が少しでも軽くなるなら良いか。
悲しみの涙は痛ましいけど、喜びの涙なら大歓迎だ。
***
この日の夕刻、お父様は再度王宮へと呼ばれ、翌朝になっても戻ってこなかった。
お父様大丈夫かな……。
まさか国王陛下の決定に異議を申したてたせいで捕まっちゃったとかないよね……。
ううう……。胃が痛い。
どうして私ってば、こう後先考えないで行動しちゃうんだろう。
お父様が心配で中々寝付けず、結局、目が覚めても、ラジオ体操の気分じゃなく、お散歩も中止。
窓に張り付いてお父様の帰りを待った。
お昼を過ぎても帰ってこない。
お母様のマナーと刺繍のレッスンは受けたけれど、集中できずに失敗ばかりしてしまった。
お父様がようやく戻ってきたのは、あたりが暗くなり始めたくらいになってから。
馬車の音が聞こえると、私は部屋を飛び出して、急いで玄関ホールへ向かう。
扉の前にはウォルターが居て、私が駆け寄ると、笑って扉を開けてくれた。
お母様も階段をゆっくり降りてくる。
転がるように外へと駆け出すと、丁度お父様が馬車から降りるところだった。
「お父様ぁっ!」
「お、アリー」
私が飛びつくと、お父様は私を抱き上げ、頬にキスをくれた。
心配で仕方がなかった私は、お父様の首にぎゅぅっと抱き着いて頬ずりする。
「お帰りが遅いので、心配しました。私が我儘を言ったから、お父様が捕まっちゃったらどうしようって」
「はははははっ。まさか。皆アリーを褒めてたぞ。まだ小さいのに、優しくて賢い子だって」
「お父様、メイナード夫人はどうなるんでしょう? やっぱり死罪になっちゃうんですか?」
「そのことでね。陛下がお前に会いたいそうだ」
「……国王陛下が?」
え――。
私に会ってどうすんのよ。
みゅぅっと眉を寄せて、お父様に抱っこされたまま屋敷の中に入ると、お母様が待っていた。
ぱぁ、っと笑うお母様。そんなお母様を見て嬉しそうなお父様。
「おかえりなさいませ、あなた」
「ああ、アイリーン。今帰ったよ」
お母様が寄り添うと、お父様が抱き寄せて頬にキスをする。
うちの両親はラブラブだ。
お母様も、私の前じゃ大丈夫よなんて笑ってたけど、やっぱり心配だったんだろうな。
花が綻ぶみたいな笑顔って、こういうのを言うんだろう。
「随分と掛かりましたのね。陛下はなんて?」
「緊急の議会が開かれてね。アリーの訴えを検討すると仰られていたよ。明日、アリーを連れて登城するようにとの仰せだ」
「まぁ」
お母様が私の顔を覗き込む。
ふふふっと悪戯めいた色が浮かんだ気がするけど、気のせいかな?
「それじゃ、明日は早起きをしなくてはね? 今日は早めに休むのよ? 本を読むのは明日お城から戻ってからになさいね?」
うぇぇっ!? 噓でしょ!?
今日は心配で続き全然読めてなかったのに――!
……もぉ……もぉ……。国王陛下の、ばかっ。
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