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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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ルーナとブライアンと、ソアラと

 



 ルーナの目的は……

 王宮の人々に、ルーナ・エマイラ伯爵令嬢がルシオ王太子殿下に相応しいと思わせる事だった。


 その根本には、ルシオが自分に一目惚れをしたのだと言う思いがあった。



 あの日、あの時に……

 わたくしの前で跪いて、手の甲に口付けをされた時の……

 ルシオ様のあの熱い眼差しは本物だった。


 喩えソアラと勘違いをしたのだとしても。



 ルーナも……

 永くルシオとアメリア、ルシオとリリアベルの2人が並ぶ姿を見て来た。


 だから……

 アメリアとリリアベルに匹敵する様相は、自分だと言う思いがあった。


 ルシオと2人で並んでいる姿を皆に見せれば、王太子妃に相応しいのはルーナ・エマイラ伯爵令嬢だと、国王陛下に進言してくれると思って。



 それが成功したのはシンシア王女だけで。


 しかし、今はシンシア王女は会ってくれなくなっていた。

 ルーナには何故だか理由は分からなかったが。



 フローレン家がタウンハウスから引っ越しをした事から、フローレン家の様子をルシオに伝えると言う名目が無くなり、ルーナはルシオの側に行く事が出来なくなった。


 どうしたものかと思っていた矢先に、ルシオに呼び出された。



「 ソアラの侍女を探している。そなたがソアラの侍女になってはくれないだろうか? 」

 ルーナは千載一遇のチャンスがやって来たと思った。


 きっとルシオ様はわたくしに会う口実を作りたいのだわ。


 ルシオは王命に従っているだけで、心は自分に向けられていると思っているのだから。



 ルシオとアメリアとリリアベルの関係は、勿論ルーナも見知った事だ。


 選ばれ無かった方の事を考えて、永く側にいたのにも関わらず、ルシオはこの2人の令嬢とはしっかりと線を引いていた事は、国民ならば誰もが知る事である。


 それ程までに誠実で律儀な男だから、王命が下ったソアラに対しては()()()()()をしているだけなのだと。


 誰かが声を上げてくれさえすれば。



 自分の婚約者であるブライアンの事は……

 もう、どうでも良かった。


 学園を卒業したら結婚をする筈だったのに、ブライアンは騎士として一人前になりたいと言って、ルーナに結婚を待つように言った。


 わたくしよりも騎士の道を選ぶの?


 ルーナはこの時……

 初めて小さな敗北感を覚えたと言う。



 今、ルーナはソアラの友達が侍女になると言う、特別なポジションを得た。


 そのポジションは、再びルシオと会う機会も得たのだ。

 今度は王太子宮にも出入り出来る程の。



 そして……

 ビクトリア王太后に会うと言う事は、自分を王太后に認めて貰うチャンスなのだと思った。


 ルーナ・エマイラ伯爵令嬢こそが、ルシオ王太子の妃に相応しいと王太后が国王陛下に進言すれば……


 ルーナの野望が始動した。



 ブライアンにソアラの侍女になると言う事は話してはいない。

 話さなければならないとも思わなかった。


 ブライアンはルーナの中では、既にどうでも良い存在になっているのだから。



 そして……

 旅の日の朝、ルーナは見てしまったのだ。


 騎士団で早朝訓練をするルシオに、タオルを渡す為に訓練をしている広場に向かう途中で。


 ソアラとブライアンが仲良く歩く姿を。



 その時……

 ルーナは初めて、ソアラがブライアンを好きだと言った日の事を思い出した。


 頭の片隅にも無かった事を。



 わたくしが王太子妃になれば……

 ソアラがブライアンと結婚すれば良いのでは?



「 ソアラの初恋の人は……ブライアンよ 」

 それは、そんなルーナの浅はかな企みから出た言葉だった。


 あの場にいた皆から、ドン引きされたのには気付いてはいない。



 こうして……

 泥々とした感情が湧き上がるのを、ルーナ自身も抑えられずにいた。


 誰からも愛され称賛されて生きて来たルーナは、天使のような良い子だった。


 だけど……

 ()()はルシオとソアラの足枷だけでは無く、ルーナの足枷にもなっていた。


 ()()があるから上手くいかないのだと。



 ソアラはエリザベス王妃陛下のお気に入りだと、国王陛下が言っていた。

 何故なのかは分からないが。


 だったら……

 自分は、ビクトリア王太后のお気に入りになれば上手く行く筈だと。


 ルーナはこの旅に人生を懸けていたのだった。




 ***




「 ソアラ……昨夜ルシオ様とお酒を一緒に飲んだ時に、つい言っちゃったの 」

「 ?…… お酒を……何を? 」

「 ルーナ!? 何を…… 」

「 ソアラの初恋の相手が、ブライアンだと言っちゃった 」

「 ルーナ!!言うな! 」



 馬車の中にいる3人のこの会話を、ブライアンは聞いていた。

 御者側の窓も開いていたので。



 ソアラの初恋が()


 ソアラとブライアンは幼馴染みだ。

 ブライアンの父親がソアラの父親の上司である事から、お互いに幼い頃から見知っていた。



 お茶会好きな母親が開くお茶会に母親に連れられて、ソアラもマーモット侯爵邸にやって来ていたのだ。


 そのお茶会には自分も含めて、兄達のお見合いも兼ねていた。

 貴族社会は早くから婚約をしないと、良い物件が無くなると言う事から。


 兄達は直ぐに婚約者が決まったが、取り分け乱暴者のブライアンは中々お相手が決まらなかった。



 ソアラは大人しく利発そうな令嬢だった。

 何時も控えめで、話した事なんて殆ど記憶に無かった。


 婚約者が決まって行く令嬢達の中で、ソアラが残っていて、それでソアラとブライアンを婚約させようと言う話しになっていた。


 勿論、当人達は知らない話なのだが。



 ある日のお茶会で、ソアラの幼馴染みだと言うルーナ・エマイラ伯爵令嬢がやって来た。

 自分で作ったクッキーを持って。


 凄く可愛い。


 ブライアンはルーナに一目惚れをした。

 親達も、その可愛らしさと明るさと、誰に対しても気配りが出来る彼女を気に入ったのである。


 当時彼女には、他の伯爵令息との婚姻話があったのだが、マーモット侯爵の力で無かった事にした。



 俺は……

 可愛いルーナにのぼせ上がって、ソアラの前でもルーナとイチャイチャした。


 他の男達からルーナを守れと言って、グーパンのやり方を教えた事もある。

 ルーナを逃がす為に。


 グーパンをしたソアラが、その後男達にどんな目に遇うのかを考えずに。



 ソアラが俺の事を好きだった?


 一体どんな気持ちで俺とルーナの側にいたのかと思うと……

 ブライアンは胸が締め付けられた。


 がさつで脳筋なブライアンも……

 大人の男になっていた。



 そんなソアラは王太子妃になる。

 自分の主君になるのである。



 騎士ブライアンは……

 命を賭してソアラを守ろうと思ったのだった。




 ***




 ブライアンはソアラの初恋の人だった。


 それはお茶会の時に儚く終わってしまったが。


 あの時……

 その初恋の人が、恋に落ちる瞬間をソアラは目撃してしまったのだ。


 自分の親友に、熱い眼差しを注ぐ初恋の人の姿を。



 気が付くと初恋の人と親友が婚約をしていた。


 ソアラの気持ちを知ってる筈のルーナからは、ソアラの告白は無かった事にされて。


 2人は自分の前でも平気でイチャイチャした。

 ルーナからは気遣いなども全く無く。


 それも仕方無いと……

 ソアラはその淡い恋心にそっと蓋をしたのだった。



 ブライアンに聞かれた。

 ブライアンに知られてしまった。


 何故ルーナは今になってそんな事を言ったの?

 あの時は無かった事にされたのに。



 しかし……

 それよりもショックだったのは、ルーナとルシオが言った言葉だった。


「 昨夜ルシオ様とお酒を一緒に飲んだ時に、つい言っちゃったの 」

「 ルーナ!? 何を…… 」

「 ソアラの初恋の相手が、ブライアンだと言っちゃった 」

「 ルーナ!!言うな! 」



 ソアラの頭の中では……

 ルーナとルシオの会話がリピートされていた。


 また、2人で会って……

 私に秘密の話をした。



 それはこの旅の間、ずっとソアラが思い悩んでいた事だった。


 自分の為に、殿下がルーナを侍女にしようとしてくれているのだと、何度言い聞かせても。


 ルーナが自分の侍女になる為に、学校にまで行ってくれているのだと、何度言い聞かせても。


 ()()()()()と、今までのようには完結する事が出来ずにいた。



 そんな思いを抱いて……

 王太子殿下御一行様は、ビクトリア王太后の住む離宮の門を潜った。



 そしてそこには……

 シリウス・ウエスト公爵令息がいた。



 正門玄関に立つシリウスは、皆を出迎えた。













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― 新着の感想 ―
[一言] ルーナを一刻も早く成敗して欲しいです ここまできたら、もう絶対親友じゃないでしようし
[一言] 早く! 早く! 「ざまぁ!」 を!
[一言] ルシオのソアラの為にという行動がずれてる。 ソアラを苦しませてどうする? いくらルーナのメッキが剥がれかけてても、こいつが 近くにいる限りソアラは苦しい訳で。 いっそのこと、おばあ様の前で全…
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