侍女は侍女
「 驚いた? 」
「 はい……とても…… 」
カラカラと走る馬車の中で、2人は向かい合って座っている。
王太子殿下専用馬車はとても乗り心地が良い。
ルシオはご機嫌だ。
良い事をしたから誉めてとばかりに、尻尾を振っている犬みたいにソアラを見つめている。
「 ……経緯を聞いても宜しいですか? 」
「 勿論だ 」
ルシオはルーナを侍女にする事になった経緯をソアラに説明した。
「 ずっと君の侍女を探していたバーバラが、君の友達の中で侍女になる令嬢がいないのかと聞いて来たから、僕はルーナ嬢が侍女にピッタリだと思ったんだ 」
彼女はよく気が付くし、気配りも出来るし、明るくて、そこにいるだけで皆の癒しになるからねと言って。
「 君もそう思うだろ? 」
「 ええ……ルーナは天使みたいな子ですから 」
「 君の幼馴染みで親友だから、君にとっての良い侍女になると思ったんだ。だから彼女に侍女になってくれないかと頼んだんだ 」
殿下からルーナに頼んだの?
「 それで……ルーナは何て? 」
「 二つ返事で引き受けてくれたよ。君の力になりたいと言って 」
本当に彼女は優しくて良い子だねと言って、ルシオは眉尻を下げた。
「 でも……ルーナには婚約者がいて、もうすぐ結婚をするのよ? 」
「 結婚しても侍女の仕事は出来るよ。母上の侍女も結婚しているし、バーバラも……まあ、バーバラは結婚して子を産んだから僕の乳母になったんだけどね 」
時期が合えば、ルーナに乳母になって貰うのも有りだなと言いながら、ルシオはウンそれが良いと頷いている。
「 婚約者のブライアンは知らなかったようですが…… 」
「 えっ!? そうなのか? 彼女はブライアンにも秘密にしていたのかな? 」
「 ………も? 」
「 君を驚かせたいから、君には秘密にしようと彼女が言ったんだ 」
どう?驚いただろ?と言って、ルシオはソアラの顔を覗き込んで来た。
サプライズが見事に成功したと。
「 これがサプライズだったのですね? ええ……サプライズは成功よ。でも……友達が侍女になるのは嫌だわ 」
「 大丈夫だよ。彼女は侍女養成学校にも通ってるんだよ。学校の講師達が彼女は優秀だと誉めてたよ 」
だから心配しなくて良いとルシオは優しく微笑んだ。
「 侍女養成学校? 」
「 そうなんだ。だけどそれだけじゃ無いんだよ 」
ルシオは更に瞳を綻ばせた。
「 彼女はね。学校だけで無く、王太子宮に来てまで僕の侍女達からレクチャーを受けてたんだ 」
早く一人前の侍女になりたいからと、兎に角彼女は熱心に頑張っていたんだと。
「 ソアラは良い友達を持ったね 」
そう言ったルシオは、ソアラの手を握ろうと手を伸ばして来た。
その時……
ソアラは咄嗟に手を後ろに引いた。
思いっきり。
「 ? ……何か問題があるのか? 」
「 私が……嫌だと言っても? 」
「 !? 」
ルシオは驚いた。
まさかソアラが拒否するとは思わなかった。
ルーナは喜んで引き受けてくれたのにと。
あんなにソアラの為に頑張ってくれているのにと。
「 これも君の為なんだよ? 」
昔。
母親に言った事がある。
「 お母様! 私はルーナと一緒にお勉強するのは嫌なの 」
皆がルーナばかりを褒め称えるのだ。
横にいるソアラがまるでそこに居ないかのように。
嫌に決まっている。
「 ルーナちゃんのお母様からも、ソアラちゃんはしっかり者だからルーナと一緒にいて欲しいと頼まれているのよ 」
だから、ちょっと位嫌な事があっても我慢しろと母親が強くソアラを叱ったのだ。
「 貴女の為なのよ 」
もしかしたらお母様は……
先生達からそんな理不尽な事をされてるのを知っていたのかも知れない。
貴族の子供達のその行動範囲は限られている。
自分の気の合う友達などは自分では選べない。
タウンハウスでの同じ年頃の令嬢は、ソアラとルーナだけだった。
だから……
私の遊び相手はルーナしかいなかったのよ。
だから……
我慢しろとお母様は言ったんだわ。
別にルーナ自体は嫌いでは無かった。
2人でいる時は楽しくお人形遊びをしたりして。
歌を歌ったり。
母親が風邪で臥せったり、何かの用事で不在の時には、ルーナの侍女と一緒にピクニックに行ったりもした。
自分には侍女がいなかったから、大人の女性が常に側にいるのは安心感があった。
「 そうですね。友達ですね…… 」
「 最初は戸惑うだろうが、友達だからこそきっと君の癒しになると思うよ 」
「 お気遣い有り難うございます 」
ソアラが頭を下げてお礼を言うと、ルシオは満足そうに頷いた。
もうルーナは侍女養成学校にまで行っているのだ。
これは決まった事なのだと。
ソアラは窓から外を見やった。
沿道には沢山の人々がいて……
皆が馬車に向かって手を振っていた。
ルシオが手を振るとキャアキャアと黄色い歓声が上がる。
「 ソアラも手を振って! 」
こう言う事も慣れなくちゃと、ルシオはソアラを見て破顔した。
ソアラは胸の前で小さく手を振った。
***
王都の街並みから一変して、辺りは木々が生い茂った林に入った。
これから宿まではこのような道が続くと言う。
馬車の待機出来る広い平地に出た所で休憩する事になった。
馬を休ませる事も出来る小川も流れているこの平地は、旅の馬車の休憩スポットになっている。
ルシオとソアラが馬車から降りると、ドレスをフワリと翻しながらルーナがやって来た。
手にはお茶セットを持って。
風に吹かれて、ルーナの香水の甘いバニラのような香りがする。
「 ルシオ様! お疲れでしょ?」
はい、どうぞと言ってカップをルシオの手に渡した。
お互いの指が少し重なって。
ルシオがカップを受け取り、ゴクゴクとお茶を飲んだ。
「 冷たくて美味しいよ 」
「 以前よりは上手になったでしょ?」
「 うん。こんな場所だからかな? 」
そう言ってルシオがルーナに向かっておどけた顔をした。
「 まあ!? ルシオ様ったら! 」
ルーナがプゥっとほっぺを膨らませた。
それがとても可愛くて……
まるで息の合ったコンビのように、ポンポンと2人の会話が弾んでいる。
2人は何度も会ったのだろうか?
キラキラと瞳を輝かせながら……
ルーナが更にルシオに話しかけようとした所で、ルシオは自分が飲んでいたカップをソアラに渡した。
「 ソアラも飲みなさい 」
「 !? 」
ソアラは驚いてルシオを見やった。
「 ルシオ様! それは…… 」
それをソアラが飲むと間接キスだ。
ルーナが慌ててソアラにも別のカップを渡した。
「 そなたが中々ソアラに渡さないから、カップは1つしか無いと思ったよ 」
「 ……も……申し訳ありません 」
「 これからは、先にソアラに渡して欲しいんだ 」
ソアラはまだ馬車の移動に慣れて無いから、疲れているからねと言って。
「 はい。分かりました…… 」
ルーナは顔を赤くして、ペコリと頭を下げて他の侍女達がいる所まで下がって行った。
皆はカールや侍従達、騎士達にもお茶を出している所だ。
「 彼女はまだまだ侍女の勉強をしなければならないね 」
ルシオはお茶をコクリと飲みながら肩を竦めた。
こんなシチュエーションは今までにも何度もあった事で。
ルーナの横にソアラがいるにも関わらず、皆の目は可愛いルーナに釘付けになり、ソアラはスルーされるのが常だったのだ。
殿下は……
本当に私の事を大切にしてくれる。
ソアラはまた1つ……
ルシオを好きになったのだった。
***
その後は、ルーナは侍女の仕事をよくやっていた。
元来、よく気が付く性格だ。
痒いところに手が届くので、皆が彼女といると心地よく感じる事になると言う。
休憩や昼食の時間になると、騎士達はルーナの側に行き楽し気に話をする。
騎士達の周りを可憐に動くルーナはとても可愛らしくて。
そんな中。
ソアラはルーナとブライアンが話す姿を見てホッとした。
あの時はブライアンが怒っているように見えたのだ。
そりゃあ、怒るだろう。
婚約者のブライアンに相談も無しに、侍女になる事を決めたのだから。
そして……
そんな思いはソアラの中にもあった。
時間が経てば経つ程に。
モヤモヤとして来るのだ。
いくらやり過ごそうと思っても。
殿下は私の為に、ルーナに侍女になるようにお願いしてくれた。
ルーナは私の為に殿下のお願いを聞いてくれた。
皆が自分の為にしてくれたのだと何度も自分に言い聞かせても、心のモヤモヤが晴れない。
私の知らない所で2人で会い。
勝手に2人で相談して。
私に何の断りも無く2人で決めたのだ。
私の事なのに。
驚く顔を見たかったと言った殿下とルーナの気持ちは分かる。
だけど……
殿下とルーナの2人で決めた事が嫌だった。
泥々とした感情がソアラを蝕んで行く。
「 ブライアンはどうやってルーナを許したの? 」
ブライアンとルーナが仲良く笑い合う姿を見ながら……
ソアラは独り言ちた。
ルシオのソアラへの愛はぶれませんが……
やはりポンコツで(笑)
現代で言うなら……
自分の婚約者と親友が、自分の知らない内にL○NEを交換して連絡を取り合い、2人で秘密裏に会って大事な事を決めたって事になりますかね?
それがいくら自分の為だからと言われても……
これをやられたら本当に傷付きますよね(-_-;)
物語はクライマックスに向かっております。
この続きも宜しくお願いします。
読んで頂き有り難うございます。




