表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/140

閑話─乳母の一念




「 バーバラ! フローレン邸に行き、ソアラ嬢を連れて来て頂戴 」

 祈りを中断したエリザベスが、後ろに控えるバーバラを呼び寄せて耳打ちをした。


 かなり冷えて来ている事から、王太子の疲労が大きいからと言って。

 祭祀を終えて出て来た王太子が喜ぶだろうと。



 ソアラを神殿に連れて来たのはバーバラの一存だとソアラは思ったが、そうでは無かった。


 当然だ。

 王家の祭祀に、ただの侍女でしかないバーバラが口を挟めるものでは無いのだから。

 いくら彼女が王太子の乳母だとしても。


 バーバラは命じられた通りに直ぐにフローレン邸に向かった。



 バーバラ・ハミルトン侯爵夫人。

 彼女はノース家所縁のハミルトン家に嫁いで来た侯爵令嬢である。


 エリザベスが懐妊した時に、既に第3子を妊娠中だったバーバラが、生まれて来る王子か王女の乳母に任命された。



 バーバラはルシオより1ヶ月早く娘を出産していて、自分の娘とルシオとは乳兄弟になるのだが、バーバラが、そのままルシオの侍女となった事で自分の娘とは疎遠になった。


 ルシオには1ヶ月後に生まれた婚約者候補のアメリアがいた事から、バーバラの娘とルシオは共に過ごす事は滅多に無かった。



 ルシオ王子が生まれてから、王妃であるビクトリアと王太子妃であるエリザベスの確執が露になった。


 ビクトリアは、自分の最愛の息子に夜這いをしたエリザベスを許す事は出来なかった。

 サイラスに王太子妃にはエリザベスを選ぶつもりだったと言われても。



 ルシオ王太子を巡っての嫁と姑の確執を、ルシオの侍女となったバーバラは身近で見て来た。


 エリザベスが、血が滲む程に自分の唇を噛み締めて耐えているのを何度も目撃した。


 前国王が崩御して……

 今は離宮で暮らすビクトリアに、エリザベスが会いに行く事は決して無い。



 ルシオの婚約者候補であったアメリア公爵令嬢とリリアベル公爵令嬢を外し、新たに選ばれたのがソアラ伯爵令嬢だと言う事に王太子宮の侍女やメイド達は動揺した。


 将来自分達が仕える主はアメリアかリリアベルだと思って、この3人の事を見守って来たのだから。



「 殿下と何の面識も無い彼女が選ばれたのなら、わたくしの娘で良いのでは? 」

「 わたくしの遠縁の娘の方が…… 」

 若い侍女達は、自分を選んで欲しかったと涙した。


 そう思うのも当然で。

 王族に仕える侍女は侯爵家か伯爵家の者と決まっていて、ソアラよりは身分の高い令嬢か、財力のある令嬢達ばかりなのだから。



 それはバーバラとて同じだった。


 昨年、ルシオの乳兄弟である自分の娘は他家に家に嫁いだ。


 しかし……

 こんな事になるのなら……

 自分の娘もルシオの婚約者候補にして貰いたかったと言う欲が出たのも確かだ。


 アメリアやリリアベル以外なら、自分の娘が王太子妃として一番相応しい地位にいたのだから。



 そして……

 自分の娘がルシオに恋焦がれていたのを知っていて。


 娘には寂しい思いをさせた。

 もし……

 娘が王太子妃として王宮にあがるような事になれば、これからは娘の側にいられるのだと。


 娘が他家に嫁いだ今となっては、もう後の祭りとなってしまったが。



 そんな気持ちがあった事から、ソアラに対してはあまり良い感情は持ってはいなかった。

 決して彼女が悪いわけでは無いが。


 やはり自分が育てたルシオにはもっと相応しい令嬢がいると思って。



 しかし……

 この新しい王太子妃となる令嬢を、王妃は事の他気に入っていて。


 彼女の世話をしている侍女達はエリザベスの侍女達だ。

 彼女達の話では王妃陛下は彼女をとても気遣っていると聞く。


 嫁と姑の激しい確執は、この2人に限っては起こらないのかも知れないとバーバラは思うのだった。



 何よりも……

 殿下が彼女をお好きなようだ。

 それはもう手に取るように分かってしまう程に。

 彼女が入内してからの殿下は本当に楽しそうで。


 これはアメリア様やリリアベル様には無かった事。


 これはもう誠心誠意仕えるしかない。



 今はまだ仮の入内だからと、王妃の侍女がソアラの侍女をしているが。


 ソアラを正式に婚約者として確立されれば、王太子の侍女長であるバーバラがソアラの面倒を見る事になる。


 彼女に新しく専用の侍女をつけたりと。



 バーバラは自分の邪念を捨てて、ソアラ・フローレンと言う令嬢に尽くそうと思うのだった。




 ***




「 僕が出てくるまで待っててよ 」

「 ……早く湯に浸かって温まって下さい! 」

 あれから2人はルシオの部屋に行き、浴室の前で揉めている。


「 僕が寝るまでだよ。寝るまで僕のベッドの横にいてくれなきゃ駄目だからな! 」

 そう言ってソアラに甘えるルシオは、侍従と共に浴室に入って行った。



 良かった。

 殿下の身体が温もって行く。


 あんなに冷たい身体でどうなるかと思ったが。

 ソアラはようやく胸を撫で下ろす事が出来た。



 部屋の壁際に控えるバーバラは、寝室に引き入れようとする殿下に彼女はどうするのかを見ていた。


 いくら婚約者だと言っても……

 彼女はこの段階で殿下の寝室に入るような令嬢なのかどうかを。


 殿下のあの美しい顔で懇願されたら、拒む女性など何処にもいないのも確か。



 しかし……

 バーバラのそんな考えも他所に、ソアラはルシオが湯浴みをしているうちにあっさりと帰ってしまった。


 ウォーキングをする為に。


「 新年の朝に歩くのはとても気持ちが良いのですよ 」

 ……と、言って。



 殿下の甘い誘惑よりも……

 ウォーキングを取ったわ。


 バーバラは爽やかに帰って行くソアラを見送りながら思った。


 きっと……

 王太子宮の皆が彼女を好きになるわ。



 浴室から出て来てガックリと肩を落とすルシオを見ながら、バーバラはクスクスと笑った。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ