表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/140

経理部の婚約者





 ソアラが自宅に帰ったら……

 フローレン家の皆は浮かれていた。


 新しい邸宅にもう直ぐ住めると言って。


 殿下は……

 引っ越しまでさせる事を申し訳無いと言って下さったと言うのに。



「 お嬢様。お帰りなさいませ! 新しい邸宅は1人で2部屋も使えますよ 」

 久し振りに帰って来たと言うのに、執事のトンプソンの第一声がこれで。


 通いだったメイドのクロエとノラは住み込みにすると言う。

 邸宅には侍女部屋がある。

 その侍女部屋が素敵な部屋なのだと。

 


 侍女になるには資格がいる。

 彼女達は侍女の資格を取ると張り切っていて。


 メイドが増えたらメイドの仕事をしなくても良くなる事から、資格を取る為に勉強を始めると言う。



「 旦那様がお金を出してくれると言ってくれてるのよ 」

 侍女の居ないフローレン家だったが……

 これからは舞踏会や夜会に出席する事が多くなる事を考えて。

 支度をするにも流石に侍女が居ない訳にはいかないとダニエルが決めたのだ。



 クロエとノラが今から資格を取るよりも、新しく雇った方が早いと思うが……

 母親のメアリーがやはり新しい侍女は慣れ親しんだクロエとノラが良いと言っているらしい。


「 2人が侍女になってくれると言ってくれて嬉しいわ 」

 そう言って喜ぶメアリーの後ろでクロエとノラが言う。


「 侍女の資格を取れば賃金が上がりますものね 」

 どうやら賃金アップが目当てらしい。




 ソアラ以外は皆新しい邸宅に見学に行っていて。

 父親のダニエルはカールが手配した内の一番小さな邸宅を選んだと言うが……

 それでもかなり広いらしい。


 元はとある侯爵家の邸宅だったが、訳あって王家所有の物件になったと言う。


「 幽霊が出ませんかね? 」

 シェフのリチャードは厨房の横にある井戸からただならぬ気配を感じると嘆いている。



 ダニエルとメアリーは広い庭でウォーキングが出来るから外には出なくて良いと喜んでいて。

 弟のイアンは自分の部屋の他に研究室が持てると言って喜んでいる。


 家で一体何の研究をするのだとソアラは眉をしかめた。



 しかし……

 今はそれどころでは無い。

 明後日の両家の顔合わせの時に着ていくドレスを買いに行かねばならないのだから。

 家族皆の分を。


 ソアラはカールに交渉して、この3ヶ月あまりの財務部での労働の賃金をたんまりと貰っていた。

 臨時ボーナスまでもぎ取ったので、良いものが買えるだろう。



 お相手の家族は国王陛下と王妃陛下、王太子殿下と王女殿下。


 我が国の王族なのである。


 ダニエルもメアリーも考える事を停止した。

 もう、何を着てもみすぼらしいのには違いないのだから、引っ越し前に荷物を増やしたく無いとソアラに言って。



 それでも行かない訳にはいかない。

 貴族の女性達にとってはその装いは大切な事だと、昨夜のクリスマスパーティーで嫌と言う程思い知ったのだから。


 ドレスの事で惨めな思いをしたくは無いし、家族にもそんな思いはさせたくは無い。 



 宮殿から乗って来た馬車を、買い物に行くと言ってフローレン邸の前で待って貰っていた。

 騎士付きで。


 自宅はすぐそこだからソアラは歩いて帰るつもりでいたが。

 ルシオに王太子妃になるのだからそうはいかないと、護衛騎士をつけられたのだ。



「 君のお妃教育を急がないといけないな 」

 お妃教育では、王族としての心得を学ぶ事が最も重要な事で。


 ソアラに欠けているものは、まさしくそれだった。

 侍女さえ居なかったソアラは、何処にでも1人で行こうとするのだから。  



 商店街に行くにも歩いた方が早いのだが……

 ソアラは護衛騎士の待つ馬車に、両親とイアンを押し込んで買い物に向かった。





 ***




 行き先は王室御用達の店。

 ソアラはもう1度行きたいと思っていて。

 勿論、ルシオ抜きで。


 彼はピンクのドレス以外を全部買うと言った、恐ろしくお金に無頓着な王子様なので。



 財務部で王族の支出を調査している時に、王族宛の衣装代の請求書を見たソアラは頭を捻った。


 いくらオーダーメイドだとしても。

 いくら上等な生地を使っていたとしても。

 腕の良い素晴らしいお針子さんが仕立てているとしてもだ。


 この請求書の額は異常だ。


 そして……

 ルシオと店に行った時に更に疑惑が湧いたのだった。


 値札が付いていないのがそもそも怪しい。

 王室だからいくらでも出すと思っているのだわ。



 ソアラは調査も兼ねて王室御用達の店にやって来た。


 ここは王室御用達の店だが、高位貴族が利用する店でもある。


 勿論、フローレン家も高位貴族の分類に入る立派な伯爵家だ。

 文官の家系で領地や邸宅もお金も無いだけで。



 当然の事だが……

 ルシオと一緒に来た時に対応した支店長の姿は無い。


「 いらっしゃいませ 」

 店員が怪訝な顔をしてやって来た。


「 当店は初めての利用ですか? 」

 どう見ても……

 この王室御用達の店に来るには不似合いな一行なのだから。



 ドルーア王国ではありふれた普通顔のソアラは、少し見ただけでは中々顔を覚えて貰えない。


 しかし……

 流石にあの時対応した店長やスタッフ達は覚えているだろうから、店長がいないのは助かった。



「 当店は一見様は現金でのお支払になりますが、よろしいでしょうか? 」

「 お金はありますから大丈夫ですわ 」

 ソアラは鞄から財布を出した。


 お金は今朝カールからたんまりと貰ったのだ。



「 父と弟にはスーツを、母にはドレスを見立てて貰えますか? 」

 明後日に必要ですから、店にある品物で結構ですわと言って。


 王族や高位貴族は自宅に招いてのオーダーメイドが基本だが、店にも数々のドレスが置いてある。


 ルシオがソアラに初めて贈ったドレスも、この店に飾ってあるドレスだったのだ。



 待っている間にソアラは店の若い女性に質問をした。

 若い女性は皆お喋りだ。

 ソアラの侍女をしているドロシーが良い例だ。


 彼女は他の2人の侍女と違って、宮中のあらゆる事を話してくれる。

 時にはソアラが知らなくて良い事まで。



「 ドレスには値札が無いのですが…その理由を知っていますか? 」

「 ……ウフフ……一見様は値段が気になりますよね~ 」

 若いスタッフがソアラの財布を見てクスリと笑う。


「 お客様によってお値段が変わるからですのよ 」

 ここだけの話ですよと彼女は小さな声でソアラに耳打ちをした。



 やっぱりだ。

 同じドレスであっても、王族だからと法外な値段を請求して来るのだ。


「 あのドレスを王族がお買いになられるとしたら、お値段はいくら位になりますの? 」

 若い女性スタッフとは家族の試着を待っている間に少し話をしていた事から、彼女はすっかり気を許してくれたようで。



「 0が1つ多い位ですよ 」

「 !? 」

 ドレスが10万ペナならば……

 100万ペナ請求して来ると言う事?



 とんでも無いぼったくり店だ。

 王族相手によくもまあ。

 いや、あのトンチンカンとアンポンタンが、請求書の内訳も見ずに数字だけを見て支払っているのだ。



「 王族は税金で成り立っている存在です! その王族からそれだけぼったくるのはどうかと思いますわ 」

「 ぼったくるとは言いようだな……取れる所から取るだけですよ 」

 後ろから若い男性スタッフが割り込んで来た。

 2人の話を聞いていたのだろう。



「 王族や公爵家なんかは値段なんて気にしたら恥ですからね 」

「 公爵家からもですか!? 」

「 まあ、流石に王族みたいに0が1つ多い訳じゃないですが……まあ、王族は公爵家とは違って請求書を確認しないで支払ってくれますからね。いくらでも上乗せ出来るんですよ 」


 これは商売上手だと言って貰いたいと、若いスタッフの2人が顔を見合わせて当然だと言う顔をした。



「 では、私どもは伯爵家ですのでお安いのかしら? 」

 それはそれで別ですよと言って、聞かされた金額にあぜんとする。


 全然安くない。


 うちは王室御用達店ですのでと言ってニヤニヤと笑う。


 この店のあくどさをカール様に報告するのは後にしても……

 今、このままスタッフの言い値で買うのは癪に障る。



「 少し()()()下さるかしら? 」

「 えっ!? 」

 2人が固まった。

 当店で値切られたのは始めてだと口々に言って。


「 相手によってお値段が変わるのなら、お安く出来る筈ですわ 」

「 それは当店の品位を保つ為にも、お値段を下げる事は出来かねます 」

 買えないのならば我が店に来るなとばかりに彼等は嘲笑う。



 買えないんじゃ無いわ!

 買いたく無いのよ!

 その値段では!


 しかし……

 着替え終わって満足そうな3人を見てると、今更他店にするとも言えなくて。



 アハハハハハ……


 その時笑い声が店内に響いた。


 声の主は2人。

 見れば奥のソファーに座った男と女が腹を抱えて笑っていて。


 立ち上がった男はシリウス・ウエスト公爵令息だった。



「 またお会いしましたね 」

「 ……ウエスト公爵様…… 」

「 私の事はシリウスと呼んで下さい。これからは親戚になるのですからね 」


 親戚?

 そう公爵家は皆、王族の親戚だと昨夜改めて認識したばかりだ。


 貴族令嬢が値切る場面を見られてしまった。

 は……恥ずかしい。


 勿論、ソアラも値切ったのは初めてだ。

 これでも伯爵令嬢なのだから。


 そもそも買い物なんて街の本屋にはよく行くが、他の買い物は母親とウィンドーショッピングをする位だ。



 その時、騒ぎを聞き付けて店長が裏の部屋から顔を覗かした。


「 シリウス様! 」

 店長がシリウスの前で腰を折った。


 話し始めた2人を見てるソアラに、ソファーに座っている令嬢が手招きをして来た。



 とても美しい令嬢だが……

 何だか男性的で。

 まだクスクスと笑っている。


 側に行くとソアラに座るように促した。


 座っているのに目線がかなり上で。

 かなり背が高い令嬢だと思われた。

 いや、ガタイもかなり良い。


 もしかして女騎士なのかも知れないとソアラは思った。



「 貴女は何時も値切っていますの? 」

 ソアラがソファーに座るなり、令嬢は前のめりになってソアラの顔を覗き込んで来た。


 フワリと甘い香りがする。



「 いえ……ただ……この店の言い値で買うのが、癪に障っただけですわ 」

「 同感ですね。わたくしもそんな出鱈目に高い値段を、支払いたくは無いですわね 」

「 そうですよね! 買い手によって値段が違うなんて……それにいくら何でも高過ぎますわ! 」


 こう言うのをぼったくりだと言うのですわと、彼女が共感してくれた事が嬉しくて、ソアラは鼻息を荒くする。



「 大体、商品に対するお店側の利益とは…… 」と、数字に強いソアラがうんちくをペラペラと喋り出した。


 経理部魂の炸裂だ。


 専門用語を話すソアラに、目を丸くして驚いた顔をした令嬢がクックと笑った。

 口元に手をやって。

 


 彼女に笑われた事でソアラは我に返った。


「 スミマセン……見ず知らずの方にこんな難しい事を言ってしまって…… 」

 女性は皆こんな話は苦手なのだ。


 母親から何時も注意をされる所で。


 

「 フフフ……そうね。でも、その内に知り合う事になりますわ 」

「 えっ!? 」


 そうか……

 シリウス様の知り合いならば挨拶をしなければと、ソアラが自己紹介をしようと居住まいを正した。



 その時……

 バタバタと言う足音と共に、店長がソアラ達のいるソファーの横に駆け寄って来た。


「 フ……フローレン伯爵令嬢様だとは知らずに大変失礼を致しました 」

 腰を深く折る店長が、スタッフ達を呼び寄せて皆に頭を下げさせた。



「 彼女は王太子殿下の婚約者様だ 」

「 えっ!? 」

 ソアラに接客していた若い2人の顔が青ざめた。

 腰を90度に折り曲げて。


 この場合は完全にソアラの方が迷惑客なのだが。



 その後……

 店長が見せて来た請求書に書いてある金額は、先程聞いた値段では無く、良心的なものだった。


 支払いは後で良いと言う店長を説き伏せてソアラはお金を支払った。



「 一見様ですから 」と言って意味深な顔をしたソアラに、若い男女のスタッフは震え上がる。


 そう言えば……

 王太子殿下の婚約者様は()()()()()()()だと聞いた。


 とんでも無い事を彼女にくっちゃべってしまったと、彼等は項垂れるのだった。



 店を出る時に……

 ソアラが店内を見渡すと、既にシリウスと令嬢は居なくなっていた。


 また直ぐに会えるわよね。

 彼女もそう言っていたし。



 ソアラは女性騎士みたいな令嬢がとても気になった。

 何処かで見たような気がして。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ