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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第二章

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隣国からの客人

 




「 そなたの国は面白いですわね 」

 この騒ぎを見ていた者達がいた。


 廊下の大きな柱に凭れて立っていたのは……

 ソアラに跪き、手の甲に口付けをしながら挨拶をしたシリウス・ウエスト公爵令息だ。


 そして……

 その彼の側には1人の令嬢が寄り添っていた。



 シリウスが庭園に一緒に行ったと夫人達から言われていた令嬢が彼女だ。


 よく見るとその身長はかなり高い。

 顔はシリウスが隠すように立っているから見えないが、ガタイも良いのでまるで男みたいに思えた。


 いや、男みたい……では無かった。

 その令嬢の正体は令嬢に扮した男。


 彼は変装をしなければならない男であるのだ。



 その男の名はフレディ・モスト・ラ・マクセント。

 ドルーア王国の隣国であるマクセント王国の王太子殿下なのである。



「 殿下……女言葉は止めて下さい。気色悪いです 」

「 あら?ドレスを着ている以上はわたくしは女ですわ 」

 フレディはホホホと扇子を広げて口元を隠して笑った。


「 全く……そこまでして我が国の未来の王太子妃を見たいですかね? 」

「 当然だよ。そなたも彼女を見る為に帰国したんだろ? 」

 そう言って笑うフレディ王太子はシリウスと同じ黒髪だった。



 ただ、瞳の色はシリウスは灰色だが、フレディはグリーンの瞳。

 甘い顔のシリウスよりはかなり精悍な顔をした王太子だ。


 シリウスの母方の曾祖母は隣国マクセント王国の貴族だった事もあって、シリウスは隣国に永く滞在しているのであった。



 フレディは王太子でありながらも旅をする事が好きだった。

 変装をして自国を抜け出しては、他国でフラフラと旅をしていると言う。


 そんな王子だから、26歳でありながらも未だに独身で、国王と王妃のみならずマクセント王国の国中の者達が頭を痛めていた。


 他国の同年代の王太子は皆婚約や結婚をしていると言うのに。


 きっと王太子妃になる女性は他国の令嬢だと。

 貴族の令嬢ならばまだ良いが……

 平民……それも娼婦などだったらどうしようかと。



 頭が痛いのはウエスト公爵家も同じで。

 シリウスも公爵家の嫡男だが、隣国に留学してからは全く自国には寄り付きもしないのだから。


 シリウスがマクセント王国に留学してから5年。

 経営学を学ぶ為に留学をしているのだが、実はこのフレディ王太子と一緒に各国を旅していた。



 シリウスが留学をしてまもない頃、マクセント王国の夜会で出会って意気投合してからの付き合いだ。


 フレディもシリウスも型に囚われないタイプであった。


 しかしだ。

 シリウスは兎も角、一国の王太子がそれでは困るのだが。



 そんなシリウスが自国であるドルーア王国に帰国した事から、シリウスを追い掛けてフレディがお忍びでやって来たと言う訳だ。




 ***




 シリウスはウエスト公爵家の嫡男だ。

 納税は当主の大事な責務。


 帰国した直後にあった納税に、やがては当主になるシリウスも同行した。

 父親からガミガミと説教された事もあって。


 納税が行われている謁見の間には()()()()()がいると言って、ウエスト家の執事達が騒いでいた事も気になった。


 一体どんな女官なのか顔がみたいと。



 実際に目の当たりにした女官の仕事っぷりは噂以上のものだった。


 6人の男達にテキパキと指示を出して、次々に書類とお金をチェックして行く彼女の姿がそこにあった。


 そして最後に……

 紐で書類を綴じながらその女官は言った。


「 流石はウエスト家ですね。完璧です 」

「 私は財務部で働いていましたから 」

 ウエスト家の執事とこんな話をしながら、女官は嬉しそうに笑った。


 その笑顔が妙に印象的で。


 ぼんくらノース家にも()()()()()がいたのだと。

 女官の仕事っぷりに感銘を受けたのだった。



 フレディが言っていたように、シリウスが帰国したいと思った大きな理由がルシオの新しい婚約者候補を見る為だった。


 ドルーア王国の王太子の婚約者候補の取り止め騒動は、隣国であるマクセント王国でもちょっとした騒ぎになっていて。


 隣国の麗しのルシオ王太子が、見目麗しい2人の公爵令嬢のどちらを選ぶのか?と言う話は、マクセント王国の国民達も興味津々だった事もあって。



 あの美しいアメリアとリリアベルを侍らして……

 ハーレム状態を楽しんでいた王太子の新しい婚約者候補は、一体どんな令嬢なのかとシリウスも興味があった。


 同じ公爵家である事から、小さい頃からアメリアとリリアベルとルシオの3人の姿を見て来た。


 何時かは2人のどちらかが王太子妃となり、やがてはドルーア王国の王妃になるのだと言う事を覆すものなど何も無かった。


 それが……

 この期に及んで血が濃いから婚約者候補を外すなどと言われても、中々受け入れられるものでは無い。



 シリウスは前政権のウエスト家の嫡男。

 自分の将来は前国王の崩御と共に代わることは分かっていた。


 しかしだ。

 まさかウエスト家の者が全て排除されるとは思ってもみない事だった。


 現国王サイラスの王太子時代の側近だった父親は、その任を解かれて領地に引っ込んだ。


 それを受けてシリウスは……

 隣国に旅立ったのである。



 新しい婚約者候補の令嬢は侯爵令嬢では無く、聞いた事も無い伯爵家の令嬢。


 そして……

 帰国して聞こえて来た話では、その令嬢を見たとたんに王太子が跪いて挨拶をした程の可愛らしい令嬢だと言う。



 成る程。

 やはり顔か……

 我が国の王太子殿下はその程か。


 身分の低い伯爵令嬢だと聞いた時から、そうでは無いかとは思っていたが。


 シリウスは……

 破天荒なフレディ王太子といるからか、自国の王太子がつまらない男に思えた。




 ***




 クリスマスを間近に控えたある日……

 親しい令嬢達にプレゼントをする品を買う為に訪れた王室御用達のあの店で、シリウスはルシオとソアラに遭遇した。


 あの暴漢に襲われた後に……

 ソアラがドレスのオネダリをしてルシオと2人で店に行った時である。



 シリウスが変装をしていたのでルシオには気付かれなかったが。


 直ぐに隣国に戻る予定である事から、面倒な挨拶をしたく無いと、シリウスは帰国してからはずっと変装をしていた。


 ドルーア王国の国民に多い茶色の髪のカツラをずっと被っていて。



 あの、納税の時も変装をしていたと言う訳だ。

 だから……

 ソアラが黒髪の本来の姿になったシリウスに気付かなかったのだ。



「 あの令嬢が王太子殿下の新しい婚約者だとはねぇ…… 」

 店のスタッフがヒソヒソと話をする。


「 アメリア様やリリアベル様に比べて……なんと貧相なお顔立ちなのかしら? 」

「 でも……王太子殿下は彼女を可愛らしい、美しいとベタ誉めですよね?」

「 王太子殿下はお目が悪くなられたのかしら? 」



 噂に聞いていた令嬢とはまるで違う令嬢が、ルシオ王太子殿下と一緒にいた。


 これと言った特徴の無い普通の令嬢だ。


 顔で選ばれたのでは無いとしたら?

 何故彼女が選ばれたのかが不思議に思ったシリウスが、ルシオが彼女をベタ誉めする理由を知りたいと思うのは当然の事。



 そして……

 彼女を何処かで見た事があると思った。

 この時は思い出せなかったが。



 そんな時にマクセント王国の王太子がお忍びで来国して来た。

「 わたしもルシオ殿の新しい婚約者を見たい 」と言って、変装してシリウスに付いて来たと言う。


 殿方と同伴で来る令嬢ならば……

 令嬢に招待状が無くても入れるからで。



 そして……

 ソアラを見たシリウスは確信した。



 ルシオ王太子殿下の婚約者は……

 あの納税の時にいた女官だ!!


 ピンクのドレスを着て王室御用達の店にいた時は気付かなかったが、紺のドレスを着たソアラを見てシリウスは気付いたのである。



 何処かで見た事がある筈だ。


 そうしてシリウスは……

 ソアラに挨拶をしに行ったと言う。



 シンシア王女がみっとも無い事をやらかしたのを見た時は呆れた。

 ドレスの色が子供のシンシアと同じだだったからと言って、責められるものなど何も無い事なのにだ。


 これが我が国の王女だと思うと……

 フレディがいる手前、シリウスは恥ずかしく思った。



 そして……

 丁度庭園から戻って来たシリウスとフレディは、廊下での騒ぎを見る事になったのだった。


 ドルーア王国の灯りの技術はかなり進んでいると言う話はマクセント王国にも聞こえていた事から、フレディは参考にしたいと思っていた。

 それでシリウスと一緒に庭園に行ったのだ。


 勿論、この騒ぎの原因の1つが自分達だと言う事は彼等は知らないが。



 ただ……

 ソアラがアメリアの前に両手を広げて立った姿に、シリウスは自分の胸が波立つのを感じた。


 身分の低い伯爵令嬢が……

 高貴な公爵令嬢を庇ったのである。


 それも……

 自分の婚約者である王太子殿下から。



 シリウスは自分の心に宿った何かを確かめる為にも、暫く自国に滞在しようと思った。




「 そなたの国の令嬢達は皆、顔の偏差値が高いね~。それに皆が凄く勇ましい 」

 我が国の令嬢達は皆が皆大人しくてつまらないと、フレディは肩を竦めて首を横に振った。


「 ルシオ殿の新しい婚約者も非常に興味深い。私はもう少しそなたの国に滞在する事にする 」

 軽い言葉とは裏腹に……

 フレディは隣国ドルーア王国の行く末を憂いた。



 この国。

 これから荒れるぞ。


 いくら王命であろうとも……

 国民の大半が納得出来ないものであれば、不満が湧き上がりその小さな不満がやがて大きな災の種に成りかねない。



 内政が混乱すると国が衰退する事は必須。

 ドルーア王国は我が国にとっては最も重要な国。


 その国が衰退すれば我が国に飛び火する恐れがあり、我が国も他国から狙われる可能性もある。



 長年の慣習を破り……

 身分の低い伯爵令嬢が王太子妃となり、やがては国の王妃となる道を選んだ国王サイラス陛下。


 公爵令嬢達から伯爵令嬢に代わった事が吉と出るか凶と出るか。


 ドルーア王国を見限るかどうかを見極めなければならない。



 こうしてシリウスと隣国の王太子フレディは、ドルーア王国に滞在する事になった。









お待たせしました。

いよいよ次話はルーナ視点の話です。


いや、待って無いですかね?(笑)

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