予期せぬ来場者
この話から第2章です
王宮の正面玄関口のエントランスにはクリスマスツリーが飾られ、宮殿は一気にクリスマスムードになった。
ソアラの仕事の財務部での調査も、何重もの同じ請求書と支払い書が見付かった事から、カールが支払い先の特定をしている所である。
そして……
貴族達の納税も終わり、納税場所として使われていた謁見の間も片付けられた。
ソアラの代わりに手伝いに来ていたルーナも、経理部に戻って行ったと言う。
謁見の間にあった荷物が財務部の部屋に運び込まれて来たのを見て、ソアラは肩の荷を下ろす事が出来た。
「 私のやるべき仕事が終わった…… 」
この後はどうなって行くのかの見当も付かないが。
目の前に迫ったクリスマスパーティーを乗り越えなければならない事だけは確かな事。
王宮で開かれるクリスマスパーティーは公爵家の四家が招待される。
王家と四家の結束を図る為に毎年開かれていると言う、ごく内輪だけのパーティーである。
しかし内輪だけと言っても……
ドルーア王国の四大貴族が集うのである。
それはもうきらびやかなパーティである事は確かだ。
ルシオは12月の公務はあらまし終えてはいたが、突如入った年末の公務などで忙しくしていた。
昼間は中々会えなかったが……
それでも2人は毎日会っていた。
そう。
ルシオが早起きをして、ソアラと一緒にウォーキングをしているのだ。
ソアラは夜の9時に就寝する為に、8時には湯浴みをして寝る支度を始める。
しかしだ。
色んな人達との会談や長引く会議をしなければならないルシオは、とてもじゃ無いがそんな時間には終わらない。
だからルシオは頑張って早起きをしていると言う。
眠い目を擦りながらも……
毎朝庭園に続くドアの前にある応接室で、ソアラが来るのを待っているのだ。
ソアラは……
ルシオにとって、そこまでしてでも会いたい存在になっていた。
***
財務部で帳簿の整理に追われていたソアラだったが……
あっと言う間にクリスマスパーティーの日がやって来た。
内輪だけのパーティである事から王族の格式張った挨拶などは無く、会場は宮廷楽士が奏でる音楽が流れていて和やかな雰囲気で行われると言う。
フローレン家も招待されていた事から、ソアラは一足先に会場に入った。
極秘調査をしている事もあって、自宅に帰ったあの日以来家族には会っていなかった事から、約1ヶ月ぶりの再会だ。
ソアラが2人を探してキョロキョロと会場を見渡していると……
ダニエルとメアリーは会場の1番隅にいた。
小さく小さくなって。
そりゃあそうだろう。
公爵家や侯爵家の中に伯爵家がいるのだから。
それも領地を持たないただの文官の家系の伯爵家。
場違いな場所に呼ばれて……
会場の隅で小さくなっている2人の姿を見てソアラは泣きそうになった。
そして……
自分は紺の地味なドレスを着ているが……
それは一目でお高い生地を使っていると分かるドレス。
あの王室御用達店で買ったのだから当たり前だ。
しかし……
母親の着ているドレスはどう見ても安いドレス。
ソアラが見た事の無いドレスだからこの日の為に新調したのだろうが。
父親は……
もう何年も着ている夜会服だ。
私は……
殿下からも王妃陛下からも……
沢山の高級なドレスを贈られて喜んでいたと言うのに。
王宮に呼ばれる事なんて今まで無かった事なのだ。
そう何着もドレスなど買える筈がない。
ソアラは自分の唇を噛み締めるのだった。
普通の生活を送ることを何よりも望んでいる私達が、何故こんな事になってしまっているのかと。
今更ながらに思わずにはいられない。
『 出る杭は打たれる 』
出なければ打たれる事は無いのだと。
それがフローレン家の家訓。
出てる杭である幼馴染みが何時も側にいた事もあってか、ソアラは家族の誰よりも普通を望む令嬢だった。
***
会場には続々と公爵家の面々が入場して来ていた。
会場の隅にいるフローレン家の3人には誰も気付かないでいて。
3人は会場の1番隅にあるテーブルに座って、頭を寄せあって近々あった事の報告会をしていた。
何時も自宅の夕食後にしていたように。
フローレン家は年末に引っ越しを控えている。
カールが手配したフローレン家の新しい住まいだ。
ソアラもこのクリスマスパーティーが終わると、引っ越しの準備の為に一旦実家に帰る事になっている。
ソアラの殆どの荷物はそのままフローレン家に置いてあるのだ。
そもそも入内した時は、王太子妃になると言う考えも無かったからで。
極秘調査の為に呼ばれた偽装婚約者候補だと思っていたのだから。
「 ソアラ〜! 」
その時に誰かがソアラの腕に抱き付いて来た。
鈴の鳴るような可愛らしい声にバニラのような甘い香り。
ソアラに抱き付いて来たのはルーナだ。
ピンクのドレスを着て。
何故ここにルーナが?
「 殿下が招待して下さったのよ。納税のお仕事を貴女の代わりにしたから、そのお礼をしたいと仰ってくれたのよ 」
貴女の代わりに?
その言葉には棘があるが……
自分の後に引き継いで仕事をしてくれたのは事実だ。
だから殿下が彼女を招待した事も頷ける。
「 ソアラはあの後一度も来なかったのは何故? 」
何処で何をしていたのかと言って、ルーナが可愛らしく小首を傾けた。
勿論、極秘調査の事は言えない。
「 お妃教育をしていたわ 」
「 まあ!? 私だけに仕事をさせておいて? 王太子妃候補も大変ね 」
ルーナはそう言いながら肩を竦めた。
その所為がまた可愛らしい。
何気に棘のある言い方をするのが気になるが。
何時見ても可愛らしい顔をしているとソアラは思うのだった。
リリアベル様とはまた違う可愛らしさよね。
ルーナがやって来た事で、皆がチラチラとこっちを見るようになった。
よく通る声は鈴が鳴るように可愛らしい。
その声で余計に皆の注目を集めるのだ。
その時……
「 国王陛下、王妃陛下、ならびに王太子殿下がおなりになりました 」
サイラス国王にエスコートされてエリザベス王妃が入場して来た。
その後ろからはルシオ王太子殿下にエスコートされたシンシア王女が現れた。
シンシアは15歳。
社交界デビューのまだな彼女は、本来ならばお留守番の筈なのだが。
このクリスマスパーティーは身内の集まりだからと今年から参加が許されたのだった。
王族の4人の登場で会場は一気に華やかになった。
どっと会場が湧いた。
さっきまではルーナに注目が集まっていたが……
シンシアの登場で皆の注目はシンシアに集まった。
シンシアは誰もが愛する王女様。
国民達は皆、王女様の来年のデビュタントを楽しみにしていると言う。
シンシアは紺のドレスを着ていた。
王女としては地味な色だが……
スパンコールでキラキラと輝いていてとても華やかなドレスになっている。
クリスマスに相応しいドレスと言えよう。
しかし……
シンシアのドレスを見てソアラは青ざめた。
シンシアと同じ色のドレスを着ているからで。
公の場では……
基本は王妃とは被らない色のドレスを着るのが社交界のルールだ。
勿論、それは王女であるシンシアも同じだ。
まだデビュタントを終えて無くてもだ。
サブリナさん達は……
シンシア王女殿下はピンクのドレスを着ると言っていた。
シンシアのドレスを見て来たサブリナ達が、可愛い可愛いと言ってシンシアを褒め称えていたから間違いないのだ。
何処でどう間違えたのか。
でも……
大丈夫だわ。
こんな時は目立たない地味な自分が幸いする。
周りを見れば……
王族の登場で音楽が奏でられ、皆は思い思いの時間を過ごし出した。
この会場の隅でお父様とお母様と過ごしていればきっと問題は無いと思うわ。
ルシオからは2人の側にいるようにと言われた。
それは……
知り合いのいないフローレン夫婦を気遣ったからで。
その時……
一人の男性がフローレン家のいる会場の隅に歩いて来るのが見えた。
きっとルーナの所に来たのだわ。
ブライアンからルーナを守るように言われている。
ソアラは身構えた。
ルーナを見て優しく微笑んだ男性に、ルーナはとびきり可愛らしい笑顔を見せた。
「 凄く素敵な方だわ…… 」
ルーナはそう呟いて立ち上がった。
しかし……
その素敵な男性はルーナの前を素通りしてソアラの前で止まった。
「 未来の王太子妃にご挨拶を申し上げます 」
彼はそう言ってソアラの前に跪いた。
そしてソアラの手を取り……
手の甲にキスを落とした。
彼の名はシリウス・ウエスト。
ウエスト家の嫡男。
隣国に留学していた彼は、クリスマス休暇を利用して帰国して来たのだった。
その時ルシオは……
アメリアとリリアベルと話をしていた。
クリスマスパーティーが終わったら……
ソアラに婚約指輪を渡そうと、胸ポケットに指輪を忍ばせていて。
ソアラの前に跪いて……
そして彼女の手の甲にキスをして……
あの、間違った出会いをやり直そうと思っていたのだった。




