伯爵令嬢は救世主
1年に1度の税金の徴収期がやって来た。
秋の収穫期を終えた領主達が、税金を納めに王宮までやって来るのだ。
近くに領地を持つ領主は勿論の事、10日以上も馬車に揺られて遥々やって来る地方の領主達もいる。
なので、この期間の王都の街の宿泊施設は満杯になり、街を見物したりお土産を買う人々などで商店街通りは賑やかになるのであった。
ソアラが王宮に入内してから1ヶ月以上が過ぎた。
ルシオとソアラの婚約発表は、この納税の期間が終わりお金の流れが判明してから行われる事に決まった。
先ずはこの任務を全うしたいと、ソアラが希望した事もあって。
正式に婚約発表をすれば、この極秘の仕事がしにくくなるだろうと考えたからで。
皆はソアラの仕事熱心な姿勢に感銘を受けた。
ノース一族には無いものだと言って。
王家の財産がどんどん少なくなって来ている原因が分からずに、泣き付いて来た財務部のトンチンカンとアンポンタン達に、経理部のノウハウを伝授した成果を発揮する時が来た。
今回は納税の部屋として、王宮の謁見の間を使用する事となった。
これはソアラが提案した事だ。
「 税を納めると言う行いは、国王陛下に献上する重大な行いなのだと、領主達に認識させた方が良いと思われます 」
税金は領主が持参する事になっているのだが、執事などに持たせる場合もあると言う。
謁見の間は国王陛下にお目見えする場所なので、弛んだ領主達に緊張感を与えるには最高の場所だと、ソアラはルシオに進言した。
「 そうだな……それは良い考えかも…… 」
父上に伝えると言って、ルシオが眩しそうに目を細めてソアラを見た。
「 他にも改革したい事があればどんどん言って欲しい 」
「 そうですね……では、税金を納める期間も決めたら良いと思います 」
今までは特に期間は決めてはいなかった。
秋の収穫期が終わり、年内に納めに来たら良いと言う程度であっただけで。
中には年を越してから納めに来る領主もいた。
暖かくなった春にやって来る領主も。
「 その期間よりも遅れた場合は、罰則として追徴金を取る事をすれば、領主達に緊張感を持たせる事が出来ます 」
国民に税を納める事の重要さを分からせる為にも必要の措置であるとソアラが言う。
「 成る程……一理ある 」
王家の存在感を高める為にも良い事だとルシオは感銘を受けて、ソアラから提案された数々の事をルシオはサイラスに進言した。
その結果……
税金を納税の場所は謁見の間で行われる事になった。
期間は1ヶ月間と区切り、遅れると罰則として追徴金を取る事をサイラス国王から各領主達に通達された。
***
そうして……
納税の期間を指定したこの日の朝を迎えた。
すっかり準備の整ったソアラ達は、皆で円陣を組んでいた。
「 さあ!皆様、気合いを入れて下さいませね! 」
「 おーっ!! 」
ソアラと税理士戦士と化した財務部の6人が、エイエオーッと気勢を上げている。
外出をする前にこっそりと様子を見に来たルシオは、そんなソアラ達を見ながらクックと笑って。
ソアラ・フローレン伯爵令嬢。
彼女は……
夜会で着る1枚のドレスも無い、可哀想な境遇にある令嬢なのかと思っていた。
伯爵令嬢でそんな境遇ならば、大概が父親の庶子である可能性が高い。
もしかしたら身分の低い母親から産まれた彼女は、継母から虐げられているのかとも思っていた位で。
しかし……
彼女の家は暖かい家庭だった。
勿論、ソアラはフローレン夫婦の第一子である。
皆がソアラの事を思っていて、ソアラもまた家族の事を思っている家族だった。
ただ……
フローレン家の普通を望む姿勢には驚いたが。
彼等は欲が無いのだと。
家は狭いが……
狭いが故に少ない使用人達とも仲が良くて。
素敵な家族だと思った。
あの時母親のドレスを来ていたのは……
彼女が夜会に行かない事から、ドレスを着用する機会が無くて作らなかっただけだと言われた。
貴族ならば……
社交の場である夜会に行くのは当たり前だと思っていたルシオにとっては、青天の霹靂だった。
そんな貴族もいるのだと。
今までは高位貴族の令嬢しか知らなかったルシオは、ソアラと出会った事で自分の見識がどんどんと広がって行くのを感じていた。
トリスタン達とエイエオーとやっているソアラを見て、ルシオは顔を綻ばせる。
こんなお茶目な所もあったんだな。
いや、大の男にグーパンを食らわせた令嬢なんだから、意外と気が強いのかも。
「 グーパンか…… 」
その時のソアラを思い出してクスリと笑う。
ソアラの色んな面を知って行くに連れて……
自分の気持ちが、少しずつ変化をして行っている事に気が付いていた。
「 いよいよ今日からですね 」
こっそりと謁見の間を覗いているルシオの側に、カールがやって来た。
「 騎士達がいるからか、随分と物々しく感じますね 」
そう言いながら謁見の間をグルリと見渡している。
今回から色々とルールを厳しくした事もあり、何かあったら大変だと考えて、ここには警備員は元より騎士達も配備した。
例年では警備員がいるだけだったが。
ルシオはソアラを守る為にも騎士達を配備した。
ここでは女官としているソアラだが、未来の王太子妃となる彼女を守るのは当然の事で。
しかしだ。
ここにいる女官姿のソアラが将来の王太子妃だと言う事を知らない騎士達は、ルシオから命令された時は何故なのかと思った。
騎士団の騎士達は王族を守る為の存在であり、お金の警備ならば警備員で事足りるのだから。
勿論、主君の命に何故は無いので、命令には従うだけなのだが。
今までなら、税金の徴収に関する事はルシオの関知しない事であったが、今回初めて色々と関わる事になった。
王太子が直接関わる事で、領主達からの反発が皆無だった事が何よりだと言って、ヒルストン達財務部の面々が喜んでいると言う。
「 殿下……帰りにソアラ嬢にお土産を買おうと思っていますか? 」
「 なっ!? ……そんな事思って……る…… 」
ルシオの考えは何時もカールに筒抜けで。
「 お前は何時も煩いぞ! 」
ルシオはカールの頭を小突いた。
心内を見せない事は、人の上に立つものとしての在り方だと教えられて来たルシオなのだが、事ソアラに関してはどうにも顔に出るらしい。
それをカールが楽しんでいる事が腹立たしくてならない。
「 あっ!? 殿下! ヤバいです! 出発する時間が過ぎてます 」
懐中時計を手にしたカールが、慌てて馬車まで駆けて行く。
ヒルストン達と並んで座り気合いの入った顔をしている女官姿のソアラに、ルシオは「頑張れよ」と小さく呟いて、謁見の間の王族専用の扉を閉めた。
***
謁見の間では、ソアラ達が気合いを入れて領主達の到着を待っていた。
しかし……
時間が過ぎても誰も来なくて、お茶でも飲もうと言っている所に、記念すべき第1号の領主が到着した。
「 イジリード侯爵様がお越しになりました 」
「 通してくれ! 」
皆にピリリと緊張が走る。
タンゾウとソアラが掌をクニクニと動かして、ウォーミングアップをし始めた。
この2人が金勘定をする担当だ。
「 ここに国王陛下が居られると思って、礼儀を重んじながら書類と税金をテーブルの上に出しなさい 」
「 ……はい…… 」
財務部の部長のヒルストンが、厳かにイジリード侯爵に告げる。
何だか宗教の儀式みたいな妙な雰囲気だ。
イジリード侯爵とお伴の者達は、今までに無い形態に落ち着かないのかキョロキョロとしていて。
イジリード侯爵が恐る恐る書類とお金の入った袋をテーブルの上に置いた。
タンゾウがお金の入った袋を女官の前に持って行き、彼が持参した詳細の書いてある書類を アンソルとポンドリアの前に置いた。
その時……
おもむろに袋を開けた女官が、バッと札束を扇形に広げてお金を数え始めた。
早い早い。
その手の動きにイジリード侯爵とお伴の者は目を見張る。
シーンと静まり返った謁見の間で女官のお金を数える音だけが響き渡る。
ザッザッザッ。
そして……
その女官はあっという間にお金を数えあげ、その金額を読み上げた。
テーブルの上にはイジリード侯爵家の帳簿が用意されていて、彼が持参した書類と照らし合わせながら、アンソルとポンドリアが不備は無いかとチェックして行く。
納める税は領地の大きさによって違うので、家別に今回新たに帳簿を作った。
そうすればその家の税に関する全てを把握する事になり、後々に見ることも出来るのである。
何時もはお金を渡すだけなのに……
お金を数えられた事にイジリード侯爵は驚いている。
自分の家の名前の帳簿が用意されていた事も。
「 お金と書類に不備はありません 」
アンソルがそう告げるとダルカンが領収書を発行した。
「 ご苦労様 」
全てを監視している財務部の部長トリスタンが告げた。
真面目で有名なイジリード侯爵は、真面目に税金を納めた。
当たり前の事なのだが。
素晴らしい流れ作業だった。
イジリード侯爵達は、テーブルに着いている男達と1人の女官を何度も何度も振り返りながら謁見の間を出た。
謁見の間のドアがパタンと閉められると、ソアラ達は歓喜の声を上げた。
「 さあ! この調子で頑張りましょう! 」
エイエイオーッ!!っと皆で勝鬨を上げた。
そんな財務部の面々を見る騎士達は、目を丸くして驚いていた。
こうして次々に訪れる領主達に、財務部の6人と凄腕の女官が見事な税理士振りを発揮した。
「 今回は金を数えて帳簿に記載している 」
「 凄腕の女官がいる 」
「 1ペナの間違いも許されないぞ! 」
税を納め終えた領主達からそんな話を聞いて、謁見の間の前で慌てて帰って行った領主も多々いたと言う。
サイラスが即位して新国王になって5年あまり。
王妃となったエリザベスは王太后となった前王妃に虐げられていた事もあり、新宰相となったランドリアは前政権であるウエスト一族を許さなかった。
彼は姉思いの弟だった。
そして……
前政権を担う重鎮達を根こそぎ交代させて、その全てをノース一族で担う事になった。
しかし……
彼等のお粗末な税の徴収は、他の貴族達から完全に嘗められていた。
素人集団だと陰で嘲笑われていて。
それを……
1人の凄腕の女官が払拭したのだった。




