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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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閑話─どうやらそうではないらしい




 カール・ノース公爵令息はノース公爵家の嫡男だ。

 王妃エリザベスの弟である宰相ランドリアの息子である彼は、同い年のルシオ王子とは従兄弟同士であり、幼馴染みでもある。


 なので、ルシオとアメリアとリリアベルの三人の関係も、近くでずっと見て来た立場だ。



 カールも多くの者達と同じように、ルシオが選ぶのは同い年のアメリアだと思っていた。


 学園時代の生徒会の会長と副会長であった二人には、未来の国王と王妃の姿が予測出来たからだった。


 二歳年下のリリアベルは、やはりかなり不利な立場だった事は否めない。



 しかし、リリアベルが学園に入学してからは、ルシオはアメリアにもリリアベルと同じ距離を保つ様になったのである。


 今アメリアを選べば、二歳年下であるリリアベルが学園に居ずらくなる事を考慮しての事だと、カールも皆と同じ様に思っていた。



 ルシオが何時も言っていた言葉がある。


「 どちらかの一人が正式な婚約者となれば、きっと愛するようになるだろう 」


 だからそれまではアメリアとも距離を置いているのだと。


 

 カールとしては、()()男爵令嬢との事はルシオの良い教訓になったと思っている。


 ルシオは男女の区別をつける事はなかった。

 彼にとっては、皆が皆同じ自分の民であるのだから当然の事で。


 なので、学園時代はかなり多くの令嬢達を誤解させて来た。


 学園では、ルシオと生徒達の距離はどうしても近くなる事もあって。

 この美貌の王子様に優しくされて、勘違いの夢を見てしまう令嬢達が続出したのだ。


 だだ……

 皆が皆、礼儀をわきまえた貴族令嬢達であった事から、平民上がりの()()男爵令嬢みたいにはならなかっただけで。


 公爵令嬢アメリアの存在を恐れなかった令嬢は、()()男爵令嬢だけだったと言う。



 あの時のアメリアの叱責により、女性との境界線はしっかりと引かなければならない事をルシオは学んだ。


 ただしっかりと学んだ筈なのに……

 ルーナの件では自分の想いが空回りして、ソアラに辛い思いをさせる事になってしまったのだが。



 その後は……

 リリアベルが学園を卒業しても、正式に婚約者を決める事はなかった。


 そうこうしている内に、公爵令嬢達を王太子の婚約者候補から外すと言う事態になったのである。



 これはルシオだけでなく、カールとしても青天の霹靂だった。

 ルシオに同行していた領地の視察から帰城すると、伯爵令嬢が新しい婚約者になっていたのだから。



 不思議だったのは、ルシオがそれをすんなり受け入れた事だ。


 まだ正式に王命が下された訳では無い事から、いくらでも拒否をする事が出来たのだ。


 それに、血が濃いと言う理由ならば、既に婚約者候補のいる今でなくても、ルシオの子供の時からでも良かった筈。



 それどころか、アメリアとリリアベルのどちらかを選ぶ必要がなくなった事を、まるで安堵をしたかのように、彼は新しい婚約者に興味を示した。



 因みに……

 王太子妃は、国王が決めて欲しいとサイラスに告げていた事はカールは知らない。


 二人共に自分の事を好いている事を知っていた優しいルシオは、どちらかを選ぶ事は出来ずに苦悩していたのだ。



 その後のルシオは、兎に角マメにソアラに会いに行った。

 それはとても楽しそうに。

 忙しい公務の合間にも必ずや顔を見に行くのだ。


「 ソアラは僕の婚約者なんだ。将来は僕の妃になる存在だから、大切に思うのは当たり前だ 」


 ソアラが婚約者に決まってからは、ルシオはずっとそう言っていた。



 そしてカールも最初はそう思っていた。


 二人いた婚約者候補から一人の婚約者に絞られたのだ。

 きっと、アメリアかリリアベルのどちらかに決まっていたとしても、そんな風になるのだろうと。



 しかしだ。

 どうやらそうではないらしい。


 ルシオは、ソアラ・フローレン伯爵令嬢に恋をしたのだ。


 アメリアやリリアベルのどちらにも、終ぞ抱かなかった恋心を彼女に抱いたのである。

 


「 殿下がソアラ様を見るお目は、明らかにアメリア様を見るお目とは違いますわ! 」

 それは侍女達がキャアキャアと騒いでいるように。


 ルシオのソアラへの所為は限りなく甘く、そしてその想いがいじらしい。

 それが面白くて思わずからかってしまうのだが。

 


 同じ政略結婚であっても、幼い頃から共に過ごした歳月があるあの二人よりも、このいきなり降って湧いたソアラに本気の恋をした。


 それは……

 王太子殿下の婚約者への寵愛を、国中から祝福される程に。



 この事から、小さい頃に親同士が決める婚約が見直されるようになったと言う。




 ***




 秋もすっかり深まり……

 結婚式を3日後に控えたこの日。

 カールは徹夜で仕事をしていた。


 結婚式に招待された要人達が、続々と来国していた事から、王太子ルシオとの会談が分刻みで行われていて。

 その資料作りに時間がいくらあっても足りない程だった。

 カールの秘書官達も総出で頑張っているのだが。



 自分の執務室には浴室もベッドもある事から、徹夜で仕事に勤しむ事も何ら問題はない。


「 これで明日の会談は大丈夫だ……いや、もう今日になってしまったな 」

 独り言を呟きながら、カールは窓にかかるカーテンを開けた。


 まだ夜明け前だから外は薄暗い。



 今から一眠りしようとあくびをしながら、何気に窓から外を見れば……

 何やら動く白いものが目に入った。


「 白馬? 」

 白馬は王太子殿下の馬だ。


 パカッパカッと言う蹄の音と共に、白馬が木々の間を走っている。



「 えっ!?……殿下!? 」

 辺りはまだ薄暗い事から見間違えかとも思ったが、間違いなく白馬に乗っているのはルシオだった。


 白馬に乗った王子様は、そのまま裏門に向かって駆けて行った。



「 えっ? ……1人? 」

 ルシオの後に続く騎士はいなかった。


 カールは上着をむんずと掴んで部屋を出て、階段を転げ落ちるように下りて厩舎に向かった。



 行き先は分かっていた。


「 それでも1人で行くなんて…… 」

 カールは馬に飛び乗りルシオの後を追った。


 騎士舎に待機している騎士を呼ぶよりも、その方が早かったからで。


 カールが向かった先はフローレン邸だ。



 ソアラは一週間前からフローレン邸に戻っていた。


 結婚式に招待した王族や要人達が続々と来国して来ていて、王宮はかつてない程に人々で溢れ返り、皆が皆慌ただしい毎日を送っていた。


 そんな事から花嫁となるソアラは自宅に戻っていたのだ。

 この慌ただしさを避けて、ゆっくりと家族と過ごして貰う為で。


 予定では……

 結婚式の当日まで、二人の会う時間は取れない事になっていた。



 カールがフローレン邸に到着すると……


 まだ薄暗いフローレン邸の庭園を、ソアラと手を繋ぎ仲良く散歩するルシオの姿があった。


 フローレン邸の門番に聞けば、ソアラが戻って来た一週間前からルシオは毎朝来てるらしい。


 1人でこっそりと。

 内緒だと言って。


 カールは、王宮の門番にも直ぐに戻ると言い渡していた事を確認していた。



 そう。

 二人で短い時間の散歩を終えると、直ぐにルシオは帰城すると言う。


 夜遅くまで会議や晩餐会などが続いているルシオが、ソアラと会う時間は朝しか無かったのだ。



「 そんなに会いたいものなのかね? 」

 呆れたカールは肩を竦めながら呟いた。


 3日後の結婚式の後には毎日会えると言うのに。

 ましてや結婚式の後は、2週間の蜜月期間もあるのだ。

 まあ、その為にもルシオは頑張っているのだが。



 いつの間にか外は明るくなっていて。

 陽の光が二人を照らして、そこだけが輝いているように見えた。


 カールはそのまま静かに二人を見ていた。



 第一王子であるルシオは王太子となる自分の立場を幼い頃から理解していて、国の未来や国民の事を思う申し分の無い王子だった。


 やがては国王になると言う重い枷を背負い、それに相応しくあろうと努力する姿を、カールはずっと側で見て来た。



 その枷は……

 これからもっと重くなる。



 アメリア・サウス公爵令嬢は、隣国マクセント王国から王太子妃に迎えたいと正式に申し出があった。

 国を挙げてラブコールをされているらしい。


 リリアベル・イースト公爵令嬢も他国の王族との婚姻話が進んでいると聞いた。


 王妃になる為に生きて来た彼女達を、他国の王族達が放っておく筈が無いのだ。

 貴族の中には、我が国の宝が奪われると嘆いている者も少なからずいる。



 正直言って、カールとしては何が正解だったのかは分からない。



 だけど……


 こんなにも一途に恋い慕う婚約者(ひと)と、幸せそうな顔をしながら笑っている主君を見ていると……


 何だか鼻の奥がツンとして泣きそうになった。














次話で最終話となります。

最後まで宜しくお願いします。


読んで頂き有り難うございます。

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