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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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がむしゃらの謎

 



 アメリアとリリアベルからの贈り物を、バーバラに処分するように命じたルシオは、ソアラの部屋に向かった。


 朝の散歩は今では二人の日課だ。

 何時もよりは少し早い時間だったが、居ても立っても居られずに。


 ソアラに贈り物は処分したと伝えたかった。

 ずっと置いてあった事の、どんな言い訳をしようかと考えながら。



 ソアラの部屋のドアをノックしたが返事は無かった。


 この時間はソアラの侍女はまだ出勤して来てはいない。

 ソアラが散歩を終えた時には侍女がいるから、そう言う取り決めになっているのだろう。



 王宮には巨大な建物の他に、国王宮、王妃宮、王太子宮の3つのプライベートの宮が隣接している。


 それぞれの宮の出入口の警備は厳しくしている事から、各部屋の鍵は掛けられてはいない。

 中で何かあった時に直ぐに対処出来るようにと。



 ルシオは部屋の中に入りソファーに座った。

 きっとソアラは寝室の奥のパウダールームで朝の支度をしているのだろうと。


 ルシオは部屋を見回した。


 書棚に沢山の書物が並べられている位で、まだ本格的に引っ越して来た訳では無いので、ソアラの私物はあまり持って来てはいない。


 二人の新居になる王太子夫婦の部屋は既に内装は終わっていて、結婚式に合わせて引っ越しを待つばかりである。



 ふと窓を見やると、窓枠にはサボテンが置かれていた。

 以前ルシオが外出していた時に、ソアラのお土産にと買って帰ったものである。



 ソアラは、ルシオが外出先から買って帰ったこのサボテンを大切にしている。


「 出先で、私の事を思い出してくれた事が嬉しいの 」

 そんな事を言っていたと、彼女の侍女が教えてくれた事を思い出した。


 その時は……

 そんなに喜んでくれるのなら、もっと良い物を買って帰れば良かったと思ったのだが。



 その時、寝室の部屋のドアが開いた。

 ソファーに座るルシオを見て、ソアラの足が止まった。


「 !? ルシオ様……わたくしは時間に遅れましたか? 」

「 君は時間通りだよ、僕が早く来すぎたんだ 」

 君に早く会いたくてと言って、ルシオはソアラに駆け寄った。



 ソアラが手に持っていた帽子を素早く手に取って、ルシオはソアラに被せた。

 顎の下でリボンを結ぼうとすると、ソアラは結びやすいように顎を上げる。


 これは……

 キスの姿勢?


 リボンを結び終えたルシオは、そのままチュッとソアラの唇にキスをしてお早うの挨拶をした。



「 今日も天使みたいに可愛らしい 」

 そう言って破顔する、その誰よりも美しい顔を見ながらソアラは思った。


 ルシオ様って……

 美しいものを見すぎて感覚が麻痺しているのでは?



 頬を赤く染めながらも首を捻るソアラだったが、ルシオはこの帽子のリボン結びを大層気に入った。


 明日からは、帽子のリボンは自分が結ぼうと決めたのだった。




 ***




 二人は何時ものように庭園に出た。

 季節は初秋。

 朝は少し涼しい位だ。


 今日あった事を楽しげに話すソアラに相槌を打ちながら、どうやってプレゼントの話を切り出そうかとルシオはタイミングを計っていた。


 何時もよりも口数が少ないルシオに気が付いたソアラが、何かあったのかと思い始めた時に、ルシオが静かに口を開いた。



「 昨夜は、あれからちゃんと寝たの? 」

「 ええ……ベッドに横たわったら直ぐに 」

 そう言って、少し口を尖らせるソアラが可愛くて。


 無理やりベッドに連れて行って灯りを消したから、ちょっと拗ねているのだ。


 可愛いソアラに萌え萌えするのを我慢して、ルシオは本題を口にした。



「 君ががむしゃらに仕事をするのは、()()を見たからだよね? 」

「 ? 」

「 僕の誕生日の夜に、()()を見たから気分を害して部屋に戻ったんだよね? 」

「 ……… 」

()()をずっと置いてあったのは、気にも止めなかったからで……だけど君への配慮が足りなかったと思っている 」


 ガゼボまでソアラを連れて行き、ルシオはソアラと並んで椅子に腰掛けた。



「 あれ? 」

 ルシオを仰ぎ見るソアラが、不思議そうな顔をしている。


「 ……薔薇の花の時計 」

「 あっ! ルシオ様の部屋あった、あの赤い薔薇の時計の事ですか? 」

「 ……あの時計は処分するようにバーバラに命じて来た 」

「 えっ!? どうしてですの? あんなに素敵なのに? 」

「 どうしてって……? 」

 戸惑うルシオに、ソアラは食い気味に顔を近付けて来た。


 ちょっと嬉しい。

 いや、かなり。



「 あの時計の彫り師ってミケラン様でしょ? 」

 時計にその名前が刻まれているのを見た時には、興奮したと言って。


 ミケランは、ドルーア王国では有名な彫り師だと言う事はソアラも知っている。

 本を読む事が好きなソアラは、彼の著書も読んだ事があるのだ。



「 そんな凄い物をどうして処分する必要があるのですか? 」

「 どうしてって……」

 ルシオは言葉に詰まった。


 ソアラは……

 あれがアメリアからのプレゼントだとは思ってはいない?


 もしかしたら、赤がアメリアの象徴する色だと言う事を知らない?



「 ……… 」

 そうだった。

 社交界に出ていなかったソアラは、アメリアが赤いドレスを着ていた事を知らないのだ。


 赤いドレスはアメリアが着る事が多いから、他の婦人や令嬢達が赤を着る事を躊躇していた程で。



 ドレスの色が王妃や王女と被らないようにするのは社交界の鉄則だったが、貴族間ではそのような決まり事は無い。


 しかし……

 アメリアだけは特別で。


 王妃エリザベスが、最近では赤を着ない事から、赤がアメリアのイメージカラーになっていたと言う。



 ソアラの異変の原因は、アメリアのプレゼントを部屋に置いてあったからでは無かった。


 だったら……

 今、余計な事を言って、わざわざソアラを嫌な気持ちにはさせたくは無い。


 二人からの贈り物はもう処分をしたのだから。



 しかし……

 処分した理由を言えと、訝しい目を向けて来るソアラに、何を言えば正解なのかが分からなくなった。


 生汗が出るとはこう言う事で。



 少しの沈黙の後にルシオは口を開いた。


「 あの時計は……アメリアから貰った物なんだ 」

 ルシオは正直に言った。


 二人で歩いて行こうと決めたのだ。


 ソアラがショックを受けたのなら、僕のソアラへの愛の大きさを伝えよう。


 こんなにも愛して止まない事を正直に。



「 ごめん……君が僕の婚約者になった時に、直ぐに処分するべきだった 」

「 ………… 」

「 でも、あの時計を見たからと言って、アメリアを思い出した事は無いんだ 」

「 ………… 」

 黙って俯いたままのソアラにルシオは慌てた。


「 不快だったか? 」

「 ………… 」

「 ただ時計として利用していただけなんだ 」

「 ……… 」

 おろおろとするルシオに、ソアラがクスクスと笑い出した。



「 ソアラ? 」

「 別に不快にはなっておりませんわ。ルシオ様とアメリア様とリリアベル様の事は、わたくしもずっと見ておりましたから 」

「 ……… 」


「 わたくしは、やはり同じ学年のリリアベル様推しでしたが、ルシオ様が選ばれるのはアメリア様だと思っておりましたし……それから……学園でお二人の…… 」


 ソアラは爆弾を投げて来た。



「 ソアラ! ちょっと待って!」

 ルシオは片手で両瞼を押さえながら、もう片方の手をソアラの肩に置いた。


 頭がクラクラとして。


「 もう、その話は…… 」

 ソアラの口から、学園時代の自分達の話は聞きたくない。



 勿論、彼女達には節度を持った対応をして来たから、やましい事は何一つ無いのだが。


 自分の知らない所で、ソアラが見ていた自分達の事を語られるのは、流石に勘弁願いたい。


 まるで拷問を受けてるようで。



 ソアラは口元を押さえながら、またクスクスと笑い出した。

 おろおろとするルシオがおかしくて。


 ルシオ様とお二人の間には、私の知らないお気持ちや、出来事があるのは当たり前だわ。

 ルシオ様が、どんなにお二人の事を大切にして来たのかも知っている。


 だけど今は……

 ルシオ様のお気持ちが私にある事は分かっている。


 ルシオのソアラへの揺るぎ無い愛は、ちゃんとソアラに伝わっていた。



「 でも……わたくしの事を想って、そうなされたのならば嬉しいです 」

 そう言って、ソアラはルシオの頬にチュッとキスをした。


 自分からキスをするのは初めてで、少し恥ずかしかったのだが。


 それだけ自分の事を想って、直ぐに対処をしてくれた事が嬉しくて。



 その後は……

 ソアラからの思わぬキスに喜んだルシオから、しつこくキスの()()()()をされると言う事態になってしまったが。


 恋愛初心者の二人の距離は、確実に近くなっていた。




 ***




「 あの時計が原因じゃないなら何なんだ? 」

 ソアラががむしゃらに仕事をするのは、これが原因だと思っていた。


 ソアラの異変の時期もこの頃だった事もあって。



 何よりも……

 忘れたい事や、考えたく無い事があるからと言ったカールの言葉が胸に突き刺さっていた。


 元カノからのプレゼントを、後生大事に持っている事にショックを受けたのだと。



 だけどそうではなかった。


 シリウスの言う通りにマリッジブルーならば、ソアラから悩みを聞き出したい。

 僕が解決出来る問題ならばどんな手を使ってでも。



 流石に朝の散歩での話はここまでだ。


 本心を聞き出すのは少しお酒に酔わせた方が良いと、恋愛の達人シリウス教わったので、ルシオは夜になるのを待つ事にした。


 ……が、公務が終わらなくて結局は夜の9時を過ぎていた。



 今日はもう寝てるかも知れない。


 ルシオはソアラの悩みが怖かった。

 それがどんな悩みのかは見当も付かないのだ。


 王族と貴族とではその地位はあまりにも違う。

 ましてや王太子と伯爵令嬢の差はあまりにも大きくて。


 ルシオがソアラの生活や考え方に驚くように、ソアラもまた王族になると言う事に驚きの連続に違いないと。



 ソアラの部屋に行くと彼女はまだ起きていた。

 夜に話があると伝えていたから、流石に仕事はしてはいなかったが。


 こんなに遅くなるなら、寝るように伝達をすれば良かったと思いながら、出迎えてくれたソアラと一緒にソファーに腰掛けた。



「 すまない……遅くなってしまった 」

「 最近は夜更かし出来るようになりましたから、大丈夫です 」

 遅くなったからお酒は持って来なかったので、ルシオはいきなり本題に入った。



「 何か悩んでいる事がある? 」

 ルシオは、シリウスが言っていたマリッジブルーの話をソアラにした。


 結婚前は不安になる事があるから、その不安を取り除けるのなら言って欲しいと言って。



「 不安だらけです 」

 いえ、不安しかありませんと言ってソアラはルシオを見据えた。


「 うん…… その不安を聞かせて欲しい。君が夜にまで仕事を始めた理由をだ! 」

 ルシオはソアラの顔を覗き込んだ。


 その優しくて力強い瞳で見詰められると、不思議と何もかも話さなければならないと思ってしまう。


 それが王子が纏うオーラ。

 ソアラとて必然的にひれ伏したくなるのだ。



 だけど……

 ソアラは困った。


 それを言ったからと言って、ルシオにもどうにならない事なのだからと。



「 あの……ルシオ様とわたくしの……2人の事ですが……だからと言って……それはどうにも出来ない事で…… 」

 歯切れの悪そうに切れ切れに言葉を繋ぐソアラに、ルシオはソアラの膝の上にある手を握った。



「 僕達二人の事なら、尚更聞かせて欲しい 」

「 ………はい 」


 そして……

 ソアラの話を聞いたルシオは、言葉を失ってしまうのだった。










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