表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/140

大切なのはプロセス




 ルシオは公務が終わるとカールと飲む事が殆どだが、最近ではここにシリウスも加わっている事が多い。


 何時もならサロンで飲むのだが、この日はルシオの部屋にカールとシリウスが呼ばれた。


 相談があると言って。


 シリウスがルシオの部屋に入るのは子供の頃以来だ。



 シリウスは、鉱山採掘プロジェクトチームの代表に任命されていた。


 何十年も続く国家プロジェクトなので、若い彼が相応しいとして。

 何よりも、この採掘事業の始まりはウエスト政権下での事。

 このプロジェクトを立ち上げた者達が、ウエスト一族には沢山いるのだから。



 国王サイラスには、四家の公爵家の確執を取り除きたいと言う思いがあった。


 シリウスはルシオとカールの幼馴染みだ。

 今なら偏見無しで上手く行く筈だと。


 何よりも……

 他国を旅していたと言うシリウスのスキルは見逃せない。

 彼の見て聞いて来た世界は、きっとルシオの糧になると思って。


 ルシオの御代には……

 この小さな国ドルーア王国が、更なる発展を遂げる為の基盤作りをしているのである。



 そして……

 鉱山採掘プロジェクトのメンバーにはソアラの名前があった。


 ソアラのスキルが認められて、通訳と会計監査役として名を連ねたのである。


 まだ女性の社会進出の少ない時代。

 やがて王太子妃となるソアラが、このプロジェクトに名前を連ねる事は画期的な事だった。


 ソアラは……

 働く平民女性は勿論、働く事が枷となっていた貴族女性達の希望であり礎となったのだった。



 サイラスはそれを狙ったのだった。

 ソアラ・フローレンを選んだ事は、間違ってはいなかったと、国民、いや世界に知らしめる為に。


 そしてそれは……

 ソアラの為でもあった。


 何の後ろ楯も無いソアラには、国民と言う最も強い後ろ楯をつける必要があったのだから。




 ***




「 ソアラが変なんだ 」

 ルシオが肩を落として、飲んでいたグラスをテーブルの上にコトンと置いた。


「 ソアラ様が? 変? 」

「 ああ、何か変なんだ 」

 ソアラは財務部の仕事をこなしながら、鉱山採掘プロジェクトの会計の仕事もこなしていた。


 勿論、お妃教育も現在進行形だ。



 鉱山採掘会議がある時は殆ど出席している。

 財務部のアンソル、ポンドリア、タンゾウと一緒に。

 そう()()アンポンタン達だ。


 お金の数え方も知らなかった彼等は、ソアラの熱心な指導により、今では立派な税理士兼会計士となっていた。



「 僕がお休みのキスをしようとソアラの部屋に行くと……彼女は何時も起きているんだ 」

「 ? ……殿下を待っておられるのでは? 」

「 ……… 」


 ルシオは首を横に振った。


「 仕事をしてる 」

 この夜も仕事をしていたから、仕事を取り上げて、無理矢理ベッドに押し込んで来たのである。


 諦めたソアラは、ルシオに従って眠りについたが。



「 ソアラは何時も規則正しい生活を心掛けている。仕事も時間内にキッチリと終わらせるから、部屋に仕事を持ち込むなんて事は……おかしいんだ 」


 それは最近始まったのだと。



「 確かにそうですね。昼休憩に行くのも、業務の終了時間もキッチリ時間内でしたね 」

 手際が良くて仕事が早いと、財務部の奴等は感嘆してましたからと、カールが腕を組んでうんうんと頷いている。


「 シリウス! 採掘事業は、部屋に持ち込んでしなければならない程忙しくは無いだろ? 」

「 そうですね。今の所は…… 」

「 財務部の仕事も、忙しいのは納税の期間だけですしね 」



 ルシオは飾り棚にある時計を見た。


「 夜の9時には必ず寝ていたのに 」

「 えっ!? 夜の9時に……寝ている? 」

 早すぎ無いか?


 だけどシリウスはクスリと笑った。

 彼女らしいと思って。



 そんなに悩む問題かとも思ったが、確かに睡眠を削ってまで仕事をするのは何処かおかしいと思った。


「 何か……忘れたい事や、考えたく無い事があるのですかね? だからがむしゃらに仕事をするとか 」

 カールはそのお気持ちがよく分かると言って、うんうんと頷いている。



「 お前にそんなデリケートな感情があるのか? 」

「 もう、主がこき使うから毎日がヒリヒリしてますよ~ 」

 そんな事は初耳だとか何とかだと言って、にらみ合いながらルシオとカールはワチャワチャとしている。


 本当に仲の良い主従関係だ。



 そんな2人のやり取りを見ていたシリウスが、顎を触りながら口を開いた。


「 もしかしたら……マリッジブルーかも知れませんね 」

「 マリッジブルー? 」

 結婚前には、新たな生活への不安でいっぱいになる事もあると聞く。


 家族と離れる事の多い女性は特に。



 伯爵令嬢から王族になるソアラに不安が無い筈がない。


「 マリッジブルーで婚約を解消する事もあると言いますね 」

「 何だって!? 」

「 ソアラ様は殿下との結婚が嫌になってるとか? 」

「 !? 」

 シリウスとカールの言葉にルシオは青ざめた。



「 どうすれば良い? 」

「 そうですね……一概には言えませんが、やはりソアラ嬢の話を聞いてあげたり、悩みを吐き出させてあげるのも良いかも知れませんね 」


 ソアラは自分の中に溜め込むタイプだ。

 自分自身の事に関しては特に。



 あの時……

 フレディ(ディラン)に涙ながらに吐き出していた時の事が思い出された。


 果たして自分に吐き出してくれるのかと、ルシオは不安になった。


 ソアラから愛されているとは思うが……

 そこまでの信頼を得られているのかと言えば、自信は無い。



「 分かった……頑張って吐き出させてみるよ 」

「 えっ!? 殿下がカウンセラー? 」

 それは無理無理と言ってカールが笑い出した。


 自分と違って、悩みなぞ皆無だった殿下に、そんな事が出来る訳が無いと言って。



「 ……カール! 煩い! 」

 カールは何時も何気に失礼な奴だった。




 ***




 それからシリウスから恋愛のいろはをたっぷりと聞いた。

 カールも興味津々で。


 百戦錬磨のプレイボーイの男の話が、恋愛初心者と、恋愛未経験のこの2人に役立つかどうかは知らないが。



 お開きとなり、ソファーから腰を上げたシリウスがルシオに向き直った。


「 殿下……恋愛の先輩としてアドバイスをしても良いですか? 」

「 何だ? 」

「 この部屋にソアラ嬢も来られますよね? 」

「 ………ああ…… 」

「 でしたら……あの時計は処分した方が良いかと思われます 」

「 時計? 」

 ルシオはシリウスの視線の先にある、飾り棚にある時計を見た。



 薔薇の花の形をした時計だ。

 花の部分は赤色で、寒色系で統一されたルシオの部屋では一際目立っている。


「 ……あれは…… 」

 この時計は、ルシオの16歳の誕生日にアメリアから贈られた物である。


 赤はアメリアを象徴する色。



「 これは……アメリアから贈られたのですが、名のある飾り職人が作り上げた、珍しい品物ですよ? 」

 カールもこの時計が贈られた時の事を知っていて。


 ルシオの16歳の誕生日パーティーで、その精巧な造りに皆が感嘆したのを覚えている。



「 殿下とアメリアは、深い関係では無かったのですから、何も処分までしなくても…… 」

 勿体ないと言って、カールはオーバーに両手を横に広げた。


 シリウスは首を横に振った。



「 プレゼントは贈る人からの深い思いや、その時の思い出が付いていますので、新しい恋の為なら処分しなければなりません 」

 大切な贈り物であればある程に()()()()があるのですと言って。


「 私は、恋が終わると、その想い出に関わる物は全て処分しております」

 それが新しい恋人への礼儀ですからと言って。


 流石に恋多き男の言葉は重みがある。


 過去に苦い経験があるのだろうとぶつぶつ言いながら、カールは真剣にメモを取っている。



「 ソアラ様もそれを見たら不快になると思いますよ 」

「 不快…… 」

 ルシオには心当たりがあった。


 誕生日の夜に、ソアラが部屋にいなかった理由がそれだと思った。



 以前にもソアラは、ルシオの湯浴みを待たずに帰った事があるから、部屋に戻った事はそんなに気にも止めなかったのだが。


 翌朝も変わらずに、朝の散歩を一緒にした事もあって。




 ***




 プロセス。


 ルシオは、ソアラから貰った初めての誕生日のプレゼントを握り締めた。


 それは誕生日の朝に、2人で散歩をしている時にソアラがくれたのだ。



「 一番先にルシオ様に贈りたくて…… 」

 そう言って恥ずかしそうにソアラは、持っていた包みをルシオに渡した。


 一国の王太子の誕生日だ。

 この日は、国中の人々からプレゼントが届く日なのだから。



 誰よりも先に渡したかったと言うソアラのいじらしさに、ルシオはキュンキュンした。


 本当は侍従や侍女達から既に貰っていたが。

 誰に貰うよりも、一番嬉しいプレゼントはソアラからのプレゼントだ。



「 有り難うソアラ。嬉しいよ。着けてくれる? 」

 袋から取り出したプレゼントは、琥珀色の宝石が付いたドループ状のタイ。


 ソアラの瞳の色の宝石だ。



「 私の瞳の色はありふれた茶色だから……」

「 綺麗な茶色だ。僕はその瞳の色が好きだ 」

 ルシオが首を横に振ると、ソアラがルシオの首に手を回しタイをスッと留めた。


 二人はそのまま深い口付けを交わした。




 そして……

 このプレゼントにはその他にもプロセスがあった。


 ルシオの誕生日が近付いて来た事から、ソアラは侍女のサブリナとドロシーをお供に、王室御用達店にプレゼントを買いに出掛けた。


 王族や裕福な貴族は、直接商会が城や邸宅に来る事が殆どなのだが、ソアラの普通は自分で買い物をする事。


 なので自分で店に足を運んだのである。

 ショッピングは楽しいのだ。



 ソアラの訪問で揉み手になった店主は、値引きをすると言い出した。


 しかしソアラは……

 正規の値段で買うと言って、この店主と揉めたのだと言う。


 ソアラを王太子の婚約者だと知っていたからこその値引きに、ソアラはカチンと来て。



「 わたくしは何時も値切っている訳ではありませんわ! あの時は法外なお値段を吹っ掛けられたから、値引きを要求しただけの事! 」


 あれ以来、商品にはちゃんと値札が付けられるようになっていて。

 人によって値段が違うと言うような理不尽な事は、なくなっていたのだ。



 正直言って、値引きは嬉しい。

 だけどソアラにも意地がある。


「 わたくしは、商売人を困らせるような事は致しませんわ! 」

 ソアラはそう言い放って正規値段で購入したと言う。



 見たかったな。

 ソアラの武勇伝を。


 騎士から報告を聞いたルシオはクスクスと笑った。

 勿論、ソアラには何も言ってはいないが。



 そう。

 どんな物にもプロセスがある。

 それが愛しい人への贈り物なら尚更に。


 あの頃のアメリアはリリアベルとの差を模索していた。


 リリアベルのルシオへのプレゼントは、ブルーの宝石のアクセサリーが殆どだ。


 自分の瞳の色を着けて欲しいと願って。


 ……と言っても、二人共にブルーの瞳なのだが。

 ルシオがサファイアブルーの濃いブルーであるだけの。



 カールとシリウスが部屋から立ち去った後、ルシオは部屋を見渡した。


 改めて見ると部屋にはアメリアからのプレゼントが沢山あった。

 それは有名な画家の絵だったり、赤のルビー色の瞳の鷲の置物だったり。


 勿論、リリアベルから贈られた宝石類もまだある筈だ。

 飾り棚の引き出しに保管されているから目にしないだけで。



 翌朝、ルシオは侍女長バーバラに告げて、アメリアとリリアベルから貰ったプレゼントを処分するように命じた。



 バーバラはこの命を受けてある事に気が付いた。

 ルシオの誕生日の夜のソアラの異変を。


 当直は若い侍女達に任せている事から、バーバラは余程の事が無い限りは当直はしないので、翌日に当直の侍女からの報告を聞く事にしている。



 その時の侍女の報告を思い出したのだ。


 ソアラが時計を手に取って暫く見ていて、その後に部屋に戻ったと言っていた事を。


 勿論、バーバラはこの赤い薔薇の時計がアメリアからのプレゼントだと言う事は知っている。



「 殿下……申し訳ありません。片付けなかった私の責任です 」

 バーバラは腰を深く折って頭を下げた。


 ソアラと結婚をすれば、ルシオはこの王子部屋から王太子夫婦の部屋に移る事になる。


 引っ越しの時は、この部屋から必要な物を持って行けば良いと思っていて。

 部屋にある物には手を付けないでいたのだ。



「 いや、お前のせいでは無い。僕のソアラへの配慮が足りなかった 」

 シリウスに言われるまでは全く気にもしなかった。


 ルシオは……

 もうアメリアの事もリリアベルも事も思い出す事はあまり無い。

 彼女達には幸せになって欲しいと願ってはいるが。



 この時計で時刻は見ても、この時計がアメリアからの誕生日プレゼントである事も忘れていた。


 アメリアもリリアベルも元カノでは無いし、元婚約者でも無い微妙な関係だ。


 しかし……

 何時かは結婚する令嬢だと思って、彼女達に接して来たのは確かな事なのである。


 そして……

 彼女達との関係は国中が知っている事で。


 当然ながらソアラも知っている。



 そんな彼女達からの贈り物を、後生大事に持っているなんて……


「 嫌に決まっている 」

 ルシオは自分のポンコツさに頭を抱えた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ