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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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閑話─僕は君のもの

 



「 で……殿下!? 」

「 な・ま・え! 」

 目を開けたとたんにソアラはすっとんきょうな声をあげた。


 名前を言わなかった事で怒られているが、今はそれ所では無い。



 覚醒したソアラの目の前に、麗しの王太子と言われる程の美しい顔が降って来ているのだ。


 そして……

 その腕にすっぽりと抱かれて……

 あろう事か王太子殿下の膝の上に乗っている。



 馬の蹄の音とガタゴトと言う音がするから、馬車の中にいると言う事は間違いない。


 うん。

 あの時確かに馬車に乗ったわ。

 そして……

 ルシオ様と話をしていた。


 一頭立ての馬車に乗ったのは初めてだとルシオ様が仰っていて。

 だけど……

 この馬車は明らかにあの時に乗った馬車よりも豪華で広い。



 ソアラはキョロキョロと目だけを動かして状況を確認している。

 その間もスッポリとルシオの腕の中にいて。



 可愛い。


 目の前にいる美しい顔は、その間もずっとソアラを見つめていた。

 これ以上ないと言う甘い顔をして。



「 これは……?……どう言う? 」

 ルシオはソアラの驚いた顔を楽しんでいる。


「 王子様のキスでも、お姫様が中々目覚めてくれないから心配したよ? 」

「 王子様の……キ……キス? 」

「 こんな風にね 」

 ルシオはチュッとソアラの唇にキスをした。


「 !? ☆*#※× 」

 最早何が何だか分からない。


 声にならない声を出してパニックになっているソアラを見て、ルシオは楽しそうにクスクスと笑うのだった。



 カールが用意してくれていたお水を飲み、ルシオからメディカルチェックをされた後に、この事件の説明をされた。


 勿論、ルシオの膝の上に乗せられたままで。


 自分の眠っている間に、とんでもない事があったのだと驚くソアラに……

 変な薬を飲む事になったのも、その額の瘤も、全てが自分の責任だと言ってルシオは自分を責めた。


「 あのお婆さん……とても親切そうだったのに 」

「 いや、かなりエグイ悪い婆さんだったらしい 」

 婆さんに殴られて、カールの目の回りが青くなっていたとルシオは肩を竦めた。



 馬車ごとソアラが連れ去られた事は、ソアラには言わなかった。

 馬車に追い付くまでは30分位の出来事だったのだが。


「 有り難うございます……私を守って下さって 」

「 王子様は姫君を守るものだよ 」

 嬉しそうに上目遣いでルシオに視線を合わせたソアラの額に、ルシオはチュッとキスをした。



「 い!……痛……い? 」

 キスをされた所に痛みを感じて額に手を当てると、ボコッとたん瘤が出来ていてそれがズキズキと痛い。


「 あっ!?瘤が出来てるんだった……馬車で逃げる時に僕の下手な運転で君が床に転げて、何処かで頭を打ち付けたみたいなんだ 」

 馬車の運転なんて初めてしたからと言って、ルシオは申し訳無さそうな顔をした。


「 ゴメン……君に傷を負わせてしまった。だから()()をもって君を僕の妻にするよ 」

「 はい……()()を取って下さいませ 」

 2人でおどけたような顔をしながら、クスクスと笑い合った。



 今までのソアラならば、()()などと言う言葉を言われたら、言葉通りに受け取ってしまっていた。


 こんな自分ならば、ルシオ様がそう思うのも仕方が無いとして。


 しかし……

 今は違う。

 ルシオの心が自分に向いていると分かっているから。


 王太子ルシオの、自分だけに向けられる真っ直ぐな愛は、自己評価が極端に低いソアラに少しずつ自信をもたらしていた。



 この夜……

 ルシオはソアラをフローレン邸には送らなかった。


 ソアラを医師に診せて、身体に異常がないと分かっても。

 因みに…

 額のたん瘤も直に治るだろうと診断されて。



 その夜。

 二人は初めて同じ夜を同じ部屋で一緒に過ごした。


 そこには、どうしてもソアラと離れたくないルシオの思いがあった。

 ソアラが馬車で連れ去られていた時間を思うと、それがあまりにも苦しくて。



「 今宵はソアラを僕の部屋に泊まらせる 」

「 承知いたしました 」

 バーバラや侍従、侍女達が出迎える中、ルシオに抱かれたままのソアラは顔をルシオの胸に埋めた。


 医師に診せるまでは心配だからと、ルシオはソアラをお姫様抱っこで運んでいて。


 皆はどんな顔をしているのだろうと思うと、この普通でない状況が恥ずかしくてたまらないソアラだった。




 ***




「 僕はソファーで寝るから 」

「 わたくしがソファーで寝ます 」

「 女性をソファーで寝させる訳にはいかない 」

「 いいえ、ルシオ様をソファーで寝させるなんて、とんでもないですわ 」


 湯浴みを終えて皆を下がらせてからは、2人で何処で寝るかの争いだ。


 暫くあーだこーだとすったもんだしたが……

 結局は同じベッドに2人で寝る事になった。



 ルシオのベッドは、大人の5人が寝れるだろうと言う位の広いベッド。


 ソアラはせっせとベッドの真ん中に枕を並べている。

 それをルシオは涼しい顔をしながら見ていて。



 無駄な事を。

 フッと笑ったルシオは確信犯だ。


 自分がソファーで寝たとしても、ソアラが眠ったらベッドに行こうと思っていたのだ。


 ソアラを抱き締めて眠りたい。



 灯りを消して、ドキドキしながら2人でベッドに横たわった。


 ルシオ様と一緒だなんて……

 もしかしたら朝まで寝られないかも知れない。


 枕の向こうではルシオが身体を横たえていて。

 ソアラはドキドキしながら瞼を閉じた。


 時間は夜の10時過ぎ。

 ソアラはあっと言う間に寝てしまった。



 ソアラの規則正しい寝息が合図だ。


 ルシオはムクリと上半身を起きあがらせると、先程ソアラがせっせと並べていた枕をポイポイと、ベッドの向こうに投げ捨てた。


「 邪魔だ! 」

 そして……

 ソアラの頭の下に手を差し入れ、ソアラを自分の胸に抱き寄せた。


「 ん…… 」

 モゾモゾと動くソアラは、自分の寝やすい位置を探していて。

 やがて満足したのかソアラは動かなくなった。



 可愛い。


 食べてしまいたいがそこは結婚するまでの我慢だ。

 親子二代で婚前交渉は駄目だから自重しろと、カールに口を酸っぱくして言われているのだ。



 ソアラの頭に唇を寄せて、ルシオはこの日の出来事を思い返していた。


 明日には国王サイラスとランドリアに報告しなければならなくて。

 頭の中で整理する時間が必要だった。



 ソアラは馬車に乗った所までは覚えているが、それ以降は全く覚えていないと言う。


 やはりあれは無意識でルシオを守ったと言う事になる。

 催眠剤が切れかけた時に、きっと外の喧騒を感じ取っていたのだろう。



 そして……

 カールから聞いた。

 エマは媚薬を所持していたと。


 いくら普通の人よりも耐久性があるとしても、流石に媚薬まで飲まされてしまったら、どうなっていたかは分からない。



 もしかしたらあのままエマと……

 それを考えたらぞっとする。


 ブルッと身震いしたルシオは、ソアラの柔らかな身体をギュッと抱き締めた。


 僕は君のものだ。



 ソアラの規則正しい寝息に誘われて、疲れていたルシオもいつの間にか眠っていた。















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