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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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侍女達の確執




 モーリスの処遇は、王宮から取り調べ官が来るまでウエスト公爵邸で預かる事となり、彼は騎士達に連れられてウエスト領地に向かう事となった。


 ソアラはその事を昼食を共にしたルシオから、その事の詳細を聞かされた。


 

「 王太后陛下は大丈夫でしょうか? 」

「 ……ショックを受けるだろうな 」

 この後にビクトリアに伝えに行くのだと、ルシオは少し辛そうな顔をした。


 ビクトリアがこの離宮に移って5年以上もの間、ずっとモーリスが執事としてこの離宮の管理をして来た。


 離宮で寂しい晩年を送らなければならないビクトリアは、モーリスに絶大な信頼を寄せていたのである。



 ずっと裏切られていたなんて……

 お辛いに決まっている。


 ソアラはどうやってビクトリアに慰めの言葉を掛ければ良いのかを考えていた。

 きっとルーナならば、上手く慰めの言葉が言えるんだろうと思いながら。


 ルーナの……

 誰彼構わずフレンドリーな態度には辟易する所もあるのだが、彼女の良さはソアラはちゃんと認めている。


 経理部では、ヘマをして叱責されて凹む同僚達に率先して声を掛け、優しく励ましていたのはルーナだった。


 彼女が皆から天使のようだと謳われていたのも頷ける。

 自分は気の利いた言葉の一つも言えないのだから。



 離宮での滞在の最終日のこの日は、ウエスト公爵領地の者達と近隣の領主達や貴族達を招いて、晩餐会と舞踏会が開かれる予定だった。


 しかし……

 諸々の事を考えて、急遽晩餐会は取り止めて立食パーティーの舞踏会に変更された。


 憔悴のビクトリアが、何時でも退室しても構わないようにと気遣ったルシオの命により。



 そして……

 昼食を食べ終わったタイミングで、ソアラはショッキングな事をルシオから聞かされた。


 昨日の暴漢事件の依頼主はモーリスであり、その狙いはルーナでは無くソアラだったのだと。


 少しでも会計監査の調査を遅らせる為にが、その理由だと聞かされた。



 モーリスは、シリウスがヨルネシア語を話せるかも知れないと懸念した。


 シリウスはこの5年の間、隣国に留学したままだったが、その間に色んな国を旅行している事は耳にしていて。


 そのシリウスが書棚の本の調査をし出したのだ。

 裏帳簿を潜ませてある書棚を。



 いきなりルシオにこの執務室を占拠された事から、モーリスはこの裏帳簿を取り出す事が出来なかった。


 帳簿と言っても数字は書いて無い事から、帳簿だと見破られる事は無いと言う自信はあったが。


 シリウスがヨルネシア語を読めるのならば、もしかしたら見付かってしまうかと青ざめた。



 焦ったモーリスは、王太子の婚約者が怪我をすれば調査は中止されると考えた。


 ビクトリアに……

 その日の午後のガゼボでのお茶会を提案したのはモーリスだった。


 昼時に街へ出掛けた時に、賭け事に負けたと嘆いていた男達に大金をちらつかせた。

 警備が厳重な離宮だが……

 モーリスが手引きをすれば侵入させるのは簡単だ。


 そして……

 男達には『 地味な令嬢を襲え 』と命じたのだ。



 その時の事をソアラは思い出した。


「 随分と可愛らしいネーチャンだな?言われていたのとは、随分と違うぞ? 」

 棒を持っていた男がルーナを見てそう言っていた事を。



 狙われたのは私だった。

 男達は私を侍女だと思ったのだ。


 彼等はこの離宮に誰が住んでいるのかも知らないようで。

 だから……

 依頼されたターゲットが、王太子殿下の婚約者だと言う事も当然ながら知らなかった。



 ルーナがビクトリアと親し気に腕を組んで現れた時には、ソアラもルーナの方が婚約者みたいだと思った程で。


 ソアラとルーナの顔も知らない男達ならば、間違える事も仕方が無いとソアラは思うのだった。


 どう見ても地味なのは自分の方なのだからと。



「 それからモーリスは……君を……その…… 」

 ルシオが言いにくそうにしている。


「 彼もわたくしを侍女だと思っていたのですね? 」

「 まあ……そう言う事だ 」

 彼は目がかなり悪いからとルシオは言ったが。


 私の顔を知らないあの男達ならばまだ分かるけど……

 彼にはちゃんと紹介をされたと言うのに。


 今までも……

 初対面では、この何処にでもある普通顔を覚えて貰って無い事は多々あったが。


 これにはかなり凹んだソアラだった。




 ***




 その後は、ルシオはビクトリアの元へ報告に赴き、ソアラは舞踏会のドレスの支度の為に自分の部屋に戻った。


 取りあえずは調査を終えた事に安堵して、ソアラは侍女達と楽しくおしゃべりをしながら夕方から始まる舞踏会の準備を始めた。



 舞踏会のドレスは、ドレスの中でも一番豪華なドレスだ。


 華やかな社交界を彩る象徴であり、王族にもなるとダンスは一つの外交の手段としてなくてはならないものとなっている。



「 なので、ドレスは戦闘服だと言われておりますのよ 」

「 お妃様がより美しく輝けるようにお支度をするのが、我々王宮の侍女達のステータスの一つなのです 」


 その侍女達にもランクがあり、国王の侍女長が王宮の侍女の中でも最高峰の侍女だと言った。


「 最高峰は、王妃陛下の侍女長では無いのですか? 」

「 国王陛下の侍女長は陛下の乳母だった方ですから、公爵家から来た王妃陛下の侍女長は、当然ながらランクは下となりますね 」

 殿下の侍女バーバラ様と同じですと言って。



 フローレン家には侍女がいなかった事から、ソアラは侍女の事をよく知らない。


 国王宮の侍女長と王妃宮の侍女長。

 そこには妃達同様に確執がある事を初めて知ったのだった。



 その時……


「 ソアラ! わたくしよ。ルーナよ 」

 ドンドンとドアを叩く音と共にルーナの声がした。


「 はい。どうぞ 」

 ビクトリアからの何かの申し伝えかと思いきや、ルーナは大きなトランクを押しながら入って来た。


 可愛らしい声でうんしょうんしょと言いながら。



「 わたくしのドレスを持って来たわ 」

 ルーナはそう言って、ドロシーにトランクを開けるように言った。


「 えっ? ルーナ様は王太后陛下の侍女として、舞踏会のお手伝いをされるんじゃ無いのですか? 」

 ドロシーはストレートに物を言う。


 若いだけにまだまだ侍女の修行中だ。

 母親のサブリナが眉をしかめている。



「 それがねぇ~ルシオ様が、わたくしと踊って下さる事を約束してくれましたのよ 」

「 えっ!? 」

 皆がソアラの方を見た。


 彼女達の手にはソアラの支度の櫛やパニエを持ったままに。



「 バーバラ様達は、ずっとルシオ様に仕えてらっしゃったから、女性のドレスのお支度は出来ないっておっしゃるのよ 」

 ルーナはそう言って口を尖らせた。


「 ………でも、わたくし達はソアラ様の侍女ですわ 」

 ドロシーが嫌がる素振りをするのを横目で見ながら、ルーナはソアラの座る鏡の前にやって来た。


 そして……

 鏡に映るソアラに向かってニッコリと笑い、ソアラの耳に顔を近付けた。



「 昨日の男達は、貴女とわたくしを間違って襲おうとしたのでしょ? ルシオ様から聞いたわ 」

「 ……… 」

「 だからね。そのお詫びだって 」

「 ……お詫び?」

「 そうよ!だってあの男はわたくしに棒を振り上げたのよ? 貴女だと思って。凄く怖かったんだから 」

 ルーナはそう言って、両腕を抱き抱えるようにして震えた。



「 そう言えば……聞いていたよりも随分と可愛いってあの男が言っていたわね……あれはソアラと間違ったからなのね 」

 あの時は意味が分からなかったけれどもと言って、ルーナはクスクスと笑った。



 そうだわ。

 私の代わりにルーナが怖い思いをしたのは事実。


「 ごめんなさい。ルーナ……怖い思いをさせたわね 」

「 だから、ソアラからも言ってちょうだい。侍女達にわたくしの支度をするようにって 」


 ソアラはコクリと頷いてサブリナ達を見た。



「 サブリナ様、マチルダ様、ドロシー様……ルーナのお支度をお願い出来ますか? 」

 サブリナ達はお互いの顔を見合せた。


「 はい。承知致しました。ソアラ様の思し召すままに 」

 ドロシーは仕方無しにルーナの持って来たトランクを開けて、中からドレスを取り出した。


 それは……

 ショッキングピンクの華やかなドレス。


 初めから踊るつもりがないと、夜会用のドレスなんて持って来ない筈。

 皆は頭を傾げながら、トランクの中からルーナのコルセットなどを順に取り出した。


 用意周到なのは侍女として合格なのだが……

 ルーナの立ち位置が何だかよく分からないサブリナ達だった。



 大きな鏡の前にソアラとルーナが並んで座った。


 やはり……

 ルーナはとびきり可愛らしい。


 侍女達の手でどんどんと美しく仕上がっていく自分に満足して。

 流石は王妃付きの侍女達だわと言って、ルーナはキャッキャッとはしゃぐのだった。



 しかし……

 反対にソアラはどんどんと顔が俯いていった。


 私は……

 誰もが侍女と思ってしまう地味な様相だわ。


 いや、それは侍女に失礼だわ。

 だってこの3人の侍女の方が、私よりも遥かに美人なのだから。



 仕方無い。


 ソアラはふぅぅとため息を吐いた。


 ルーナといると……

 ソアラは何時も、自己卑下の気持ちが強くなるのだった。




 ***




 コンコン。

 ドアが叩かれた。


 舞踏会の時間になった。

 晩餐会を中止にした事から、舞踏会の時間が早くなっていた。


 ルシオは何時も時間よりは少し早く来る。



「 殿下ですわね 」

 マチルダがそう言ってドアを開けに行くと……

 直ぐにルーナがドアに向かって駆け寄って行った。



「 ルシオさまぁ~! 」

「 えっ!? ルーナ? ……ソアラの部屋にいたのか? 」

 ソアラの前で抱き付かれたら大変だと、ルシオは後ろに下がった。


 アメリアの言っていたとおりに……

 ルーナは()()男爵令嬢に似ていると思いながら。


 今まではソアラの友達だと言う目で見ていたが。



 自分を避けるように後ろに下がったルシオにも、全くめげないルーナはその可愛らしい顔でニッコリと笑った。


「 ええ。ソアラと一緒に、舞踏会のお支度をして貰っていましたの 」

 ルーナはそう言って、ショッキングピンクのドレスをフワリと翻してルシオにカーテシーをした。



「 如何ですか? 」

「 ああ……とても綺麗だ 」

「 有り難うございます 」

 ルーナは恥ずかしそうに顔を赤らめた。


「 今宵はルシオ様と…… 」

「 ソアラ!! 」

 何か言い掛けたルーナの横をスッと通って、ルシオは奥で立っているソアラの元へ、その長い足の歩みを進めた。



 そしてソアラの前に立ち、愛おしそうに見つめると……

 ソアラの耳元に顔を近付けた。


「 僕は……君しか見えない 」

 その甘い囁きにソアラは顔を赤くする。



 朝から……

 僕達は恋人同士だからねと言って、やたらと甘い言葉を囁いて来るルシオに、ソアラは恥ずかしくてたまらなくて。


 そう。

 今の2人は……

 お互いの想いを伝え合ったばかりの、出来立てホヤホヤのカップルだ。


 何もかもが甘い。



 そんな風に……

 愛おしそうに見つめ合う2人に、侍女達はキャアキャアとハートを飛ばした。


 あまーい!

 甘過ぎるわ。


 今朝からの、この甘い雰囲気の2人を見ていると……

 何か特別な事があったのだと確信している。



 そうして……

 ルシオはソアラの手を取って歩いて行った。

 ルーナの前を通って。


 ルシオはその間もずっと……

 ソアラだけを見つめ続けていて。



「 それにしても……落ち着いた色が本当によくお似合いです事 」

「 2人でおられる姿も、すっかり自然になりましたわね 」

 サブリナとマチルダが、うっとりとしながら2人を見送っている。


 ルシオはモスグリーンの夜会服を着ていた。

 それは……

 ソアラとお揃いのペアコーデ。


 サブリナ達は……

 舞踏会をする事は聞いてはいなかったが、こんな事もあろうかと2人のペアコーデをバーバラと相談して持って来ていた。


 出来る侍女達は用意周到なのである。



 ルーナはガリリと爪を噛んだ。


 ルシオ様は、何時も黒か紺の夜会服を着ていらしたのに。


 それは……

 アメリアが赤のドレスで、リリアベルがピンクのドレスを着る事が多かったからなのだが。


 どちらと踊っても映えるようにと。



「 でも……良いわ! ダンスはソアラよりはわたくしの方が上手いんだから…… 」


 わたくしとルシオ様が踊れば……

 誰もが素敵なカップルだと思う筈。


 ドレスだけ合わせたソアラよりも絶対に。



 それに……

 王子様と踊れるなんて……

 夢の様だわ。


 ルーナは……

 ルシオと踊る自分の姿を想像して、うっとりとするのだった。

 















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― 新着の感想 ―
[一言] サブリナさん達、流石のグッジョブ! (^-^b ルーナがもはやみっともないぐらい物凄く痛々しいのはもちろんだけれども、 この子、ここまでおかしかったんだっけ??と、残念な気持の方が大きいで…
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