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伯爵令嬢は普通を所望いたします  作者: 桜井 更紗
第三章

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思いの丈

 



「 殿下はわたくしのものなのですから気安く触らないで! 」



 ソアラは凹んでいた。

 何でこんな事を言ってしまったのかと。


 言うべきでは無かったと。



 ルーナがルシオの事を好きだと思った事から、あんな事を言ってしまったが。


 ルーナにはブライアンと言う婚約者がいて、ブライアンともずっとラブラブだった……筈。



 我が国の王太子殿下をお慕いするのは、国民ならば当然の事である。


 このドルーア王国の老若男女の皆が、殿下を好きだと言っても過言では無い。


 だから……

 ルーナが献身的に殿下に尽くすのは何もおかしい事では無いのだと。


 寧ろ……

 殿下の婚約者なのに、何の世話もしない自分の方がおかしいのでは?と。


 侍女の役割が今一分からないソアラなので、そう思ってしまうのだった。



 なのに……

 殿下に気安く触らないで!とルーナに言うなんて……


 私の為に、()()()侍女の仕事を頑張ってくれているルーナを傷付けたかも知れない。

 彼女のフレンドリーさは見知っていた事なのに。



 言うべきでは無かった。

 あれは、嫉妬丸出しの愚かな婚約者の姿を露呈しただけでしか無い所為だ。


 お妃教育では……

 妃の嫉妬はご法度だと言う事を学んだと言うのに。



 何も言わなければ……

 殿下に、嫉妬深い女だと思われずに済んだ筈だ。


 ルーナは……

 友達の婚約者を取ろうとしていると、皆から思われてしまったかも知れない。



 言わずに後悔するよりも、言って後悔する方が凹み度が大きい。

 時には…

 相手を傷付けてしまう事になってしまうからで。



 だけど……

 言わずにはいられなかった事も事実だ。



 庭園に行く道すがら……

 ソアラは後悔のあまりに、どんどんと心が削られて行くのだった。


 ルシオに優しく手を引かれていても。




 ***




 離宮の庭園は、王宮の庭園と比べたらかなり薄暗い。

 夜会が開催されない事から、灯りを点ける必要が無いからで。



「 あの……折角カール様とお飲みになる所だったのに……申し訳ありません 」

 楽しくお酒を飲もうとしていたのだ。


 そこにお喋り上手なルーナが交じったら、どれだけ楽しい場になった事だろう。


 それを邪魔したのは私。



「 わたくしは部屋に戻りますから、今からでも()()とお飲みになって下さい 」

 そもそも夜這いなど、淫らな事を考えたのが間違いだった。


 いくら()()()()に煽られたとしても。


 ソアラは自分の所為を恥じた。



「 眠いか? 」

「 えっ!?……いえ…… 」

 ソアラはカッと顔が熱くなった。


 いい歳をして眠いかどうかを心配されるなんて。


 さっきはルーナにも心配された。

 こんなお子ちゃまな自分が情けない。



「 だったら少しだけ良いか? 君に伝えたい事があるんだ 」

「 ……はい 」

 殿下の伝えたい事?


 この日は色んな事が有り過ぎて、身も心も既に擦り切れそうだった。


 心臓の音だけが激しく波打っていて。



 薄暗い小道を、ルシオに気遣って貰いながら歩いて行くと、昼間に事件のあったガゼボに到着した。


 ガゼボは丘の上にある。

 月明かりに照らされてここだけが少し明るかった。


 今宵は満月だ。

 満天の星空が美しい。


 そう。

 早くに就寝するソアラは、こんな素敵な夜空を見る事も無い。


 だから……

 ロマンチックな大人の時間を過ごす事も無いと言う。


 そんな私が()()()だなんて。


 ソアラの思考は振り出しに戻り、更に更に落ち込んで行くのだった。



 ルシオはソアラを長椅子に座らせた。


 そして……

 テーブルを挟んだ向かいの一人掛けの椅子に座るのかと思いきや、ソアラのすぐ横に座った。


 良かった。

 殿下に私の顔を見られなくて済む。

 きっととても醜い顔をしてる。



「 先ず……ルーナ嬢の事だけど…… 」

 ソアラは膝の上にある自分の両の手を合わせて、固く握った。


 何を聞いても言いようにと。



「 ルーナはお祖母様の部屋へ行かせたから、もう僕の部屋に来る事は無い 」

「 !? ………王太后陛下の所にですか? 」

 想像出来なかった話に、ソアラは咄嗟にルシオを仰ぎ見た。


 ルシオは優しく微笑みながら頷いた。



 確か……

 ダンスのレッスンの時にルーナが言っていた。

 陛下に気に入られたから陛下の側に行くと。


 それはそう言う事だったのかと、ソアラはその時初めて理解した。


 昨日の今日でそんなにも気に入られるとは……

 ルーナの社交性には畏れ入る。



「 だから……もう、心配しなくても良いよ 」

 ルシオはそう言ってソアラの顔を覗き込んで来た。


 ルーナが……

 もう殿下の部屋でお世話をする事は無い?


 殿下がそれをしてくれた。

 私が嫌がっているのを知ったから。



 やっぱり……

 あの時、聞かれていた。


 殿下に、私の醜い心を知られた。

 友達であるルーナを妬んでいる事を。

 ずっと妬み続けていた事を。


 ルシオのサファイアブルーの綺麗な瞳を見れなくなって、ソアラは俯いてしまった。



「 ルーナの事は気付かずに悪かった。だけど……フレディ殿にでは無く、僕に言うべきだった 」

 ルシオは怒っているような口ぶりでそう言った。


「 …… 」

 その事で怒りたいのは私の方だわ。



「 ………言ったわ。ルーナが侍女になるのは嫌だと、私……殿下に言ったわ! 」

 旅に出る前にちゃんと言ったじゃないと言って、ソアラはルシオを睨んだ。


「 それに……先に言われていたら、絶対に断った!」


 ソアラは完全にキレた。

 自分の怒りを抑える事が出来ない。


 ソアラにしては珍しい事だった。



「 私の侍女を決めるのに、私に秘密裏にして、ルーナと2人で決める殿下の方がおかしいわ! そんなサプライズ誰が喜ぶと言うの? 」


 ソアラの怒りは止まらない。


「 ましてや、既に侍女養成学校まで通わせてるなんて聞いたら、もう、嫌とは言えないじゃない! 私は……私は…… 」


 ソアラはそこでぐっと言葉を飲み込んだ。

 目には涙をいっぱい溜めて。



「 ソアラ……続けて……」

 ルシオの声が頭上から優しく降って来た。


「 あの……雪の日の朝に……殿下は「 これからは()()()この国に足跡を残して行こう 」って言ったのに! なのに…… 」


 あの時……

 ルシオの言ってくれた言葉がソアラはとても嬉しかった。


 忘れられない大切な思い出となっていた。



()()()って言ったのに……」

「 ごめん……ごめんソアラ……ごめん…… 」

 ルシオは俯くソアラを両腕でそっと抱き締めた。


 ルシオはわざとソアラを怒らせるようにしたのだ。

 こんなにぶちギレるとは思わなかったが。



 旅の間中ソアラの様子がおかしかったのは、ルーナを侍女にすると言ったからだと言う事が、ソアラとフレディとの話から分かったのだが。


 ソアラの心の奥にある気持ちをもっと聞きたかった。


 ルーナが嫌だと言う理由だけじゃ無いような気がして。



「 ごめん……ソアラ。僕が間違っていた。君の為だからと……君が喜ぶと思って…… 」


 そうだ。

 ()()()歩いて行こうと言ったのは僕だ。


 僕は……

 あの時の気持ちを踏みにじった事をしてしまった。


「 本当にごめん……()()()決めるべきだったね 」

 目の前で、何度も謝罪するルシオを目にしたら、怒りから次第に罪悪感が湧いて来た。



 そう。

 私の為だった事は分かっている。


 殿下は優しい。

 ルーナを妬み続けていると言う、こんな私の醜い心を知っても、ちゃんと私の方を見てくれている。


 私の事を何時も考えてくれている。



 そこにいない者とされて来たソアラにとっては、ルシオこそが救世主だった。 


 それも王太子殿下と言う最強の救世主なのである。

 


 殿下が好き。

 殿下の事が大好き。


 この想いを伝えたい。

 どうしても……今。



「 殿下……あのね……私……今、伝えたい事があります 」

 夜這いなんかをするよりも……

 先に伝えなきゃならなかったのだ。



「 私達は……王命によって決められた結婚だけど……」

「 ソアラ……? 」

 ソアラは横に座るルシオの方に身体の向きを変え、ルシオの瞳を真っ直ぐに見すえた。



 月明かりで黄金の髪がキラキラと輝いて、その美しい顔がとても綺麗だ。


 月の精も見惚れてしまう程に。


 こんな美しい王子様に……

 この普通顔()()()の伯爵令嬢が、畏れ多くも告白する事を許して欲しい。



「 私の想いは迷惑かも知れませんが……それでも知っていて欲しいのです 」

「 ソアラ! ちょっと待って!」

 ルシオはソアラの熱のこもった瞳を見て、慌てて止めようとした。



 だけどソアラは止まらない。


「 私は……殿下の事を…… 」

「 好きだ!! 」

 ソアラの声に被せるようにルシオは叫んだ。



「 …………えっっ!? 」

「 君が好きだよ……ソアラ。僕は君のことが好きだ 」



 ルシオは……

 自分の気持ちを、初めてソアラに告げた。
















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― 新着の感想 ―
[一言] ルシオ頑張った! よかった~言えて! 続きを楽しみにしています。
[一言] やっと! やっと言えた!! 今日のお酒はきっと美味しいです。
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