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61 カジノの闇

「クフフフフフ」


「そのキモい笑い方やめなさいよ」


カジノからの帰り、朱夏が何とも失礼なことを言ってくる。確かに、俺の笑いが気持ち悪いことは認めよう。

ただ--


「お前も相当ニヤついてるぞ?」


「あ、バレた?」


それはもう、そんな恵比寿さんみたいな顔をしていたらね。まあ、朱夏に限らず、パーティーメンバーは、大体がこんな顔になっているのだが。


何故こうなったかだが、それの原因は、当然カジノにある。

天界から無理やりベルザを引き摺り下ろし、下界に連れてきた俺は、その能力を利用してカジノに挑んだ。


結果は火を見るよりも明らか。バカ勝ちバカ勝ちの連続だ。ルーレットを回せば、百発百中で、俺のベットした場所にボールが止まった。ストレートアップだろうが何だろうが、お構いなしに決まる女神様のありがたいお力のおかげで、億を軽く超える額の金が手に入った。


「これが笑わずにいられるかよ」


「それもこれも、全部私のおかげなんですからね? 分かってますか?」


ベルザが、自身の存在をアピールするように手を挙げ、そして、その薄い胸を目一杯張った。普段はこの上なくウザいその仕草も、今は愛らしく見えてくるから不思議だ。

やっぱり金って良いね。心まで豊かにしてくれる。


「もちろん分かってるよ。ちょっと前までお前のことをポンコツと思っていたけど、それは間違いだったらしい」


俺が頭を撫でると、ベルザは気持ちよさそうに目を閉じた。


「正式に信者になってもいい。むしろ、信者にしてください。っていうくらいには、感謝してるよ」


「ほ、ホントですか!?」


「ああ、ホントホント」


「ちょっと望、調子良すぎ」


「でも、そう思っちゃっても仕方ないですよね。それくらい、今日のことは、ベルザ様のおかげですし」


「まあ、それはそうね」


心なしか、パーティーの人間関係まで良くなった気がする。


「むぅ……」


しかし、そんな中で浮かない顔をしている人物が一人。


「どうしたヤエ?」


「いや、カジノの連中がのう……あそこまで金を毟り取られている姿を見ると、心が痛いんじゃが……」


「なるほどな。でも、それは仕方のないことなんだよ。向こうだって客から大金を巻き上げることだってあるし、お互いルールの中でやってることなんだから」


そう、これは仕方のないことだ。俺はルールを破らず挑み、結果、勝利した。ただ、それだけのこと。『女神の能力を使ってはいけない』なんて規則はないのだから、違反でもなんでもない。


「それは、まあ、そうじゃが……」


ヤエはまだイマイチ納得できないようで、眉間に皺を作り、苦い顔をしている。


「それにほら、こんなデカイ街の、その中でもトップクラスのカジノが一人の客に大負けしたからといっても、それほど痛くないと思うぞ?」


「う〜ん……」


「そんな難しい顔するなよ。……そうだ! 今日はこの街一番の高級店で飯にしよう。金も有り余ってるから、好きなだけ食べ--」


「それもそうじゃの! まあ、敗者のことなぞ一々考えてもしょうがないし。勝者は勝者らしく、祝杯をあげるとしよう」


先ほどまでの表情の曇りはあっという間に消え去り、可憐な顔は明るく輝き始めた。

うん、この熱い手のひら返し……これこそがうちのパーティーである証だ。もう既に、この大食い幼狐には、敗者に対する哀れみの感情など微塵もないようで、これから食べる飯に想いを馳せている。


「ちょっと待ちな、嬢ちゃんたち!」


目的の店に急ぐため、近道である路地に入った時、後ろから野太い男の声が俺たちを呼び止めた。


振り返ると、路地の入り口を塞ぐようにして、厳つい風体の男と目つきの悪い女の二人がこちらを見据えていた。


「なんじゃお主ら?」


俺たちの先を行っていたヤエの警戒心剥き出しの声がしたので、前方に目を向けると、そちらにも、悪人面の男二人が下卑た笑みを浮かべて、立ちはだかっていた。どうやら、男の仲間のようだ


「えっと……どちら様?」


とりあえず、そんな問いをぶつけてみた。だが、男たちはククッと嗤うだけで、質問には答えない。変わりに、こんなことを宣った。


「嬢ちゃんたち、さっきカジノでバカ勝ちしてたよな? 勝った分のカネ全部渡してもらうぜ」


「なぁに、素直に渡せば痛い思いはさせねぇよ」と、どこまでもチンピラのテンプレ的な台詞である。


「あんなこと言ってますけど、どうします? ていうか、あんな人たちカジノにいましたっけ?」


高宮は冷めた目でチンピラたちを一瞥したあと、首を少し傾けた。


「いや、少なくとも俺は見てないな」


「そうですか、私もです。でも、あんな人たちがあそこにいたら、目に留まりそうなものですけどね」


高宮は、もう一度視線をチンピラに移した。その瞳は、血が全く通ってないんじゃないか。と錯覚するほど冷たく、無感情なものだった。


俺も同じようにチンピラを見据える。確かに、VIP御用達のカジノにあんな風体の奴らがいたら、嫌でも目に留まりそうだ。だが、俺たちはあいつらの存在を認識しておらず、逆に、あっちは俺たちのことを知っていて狙ったようだ。


これはつまり--


「カジノ側の差し金か……」


「そう考えるのが自然ですよね」


俺がポツリと呟いた言葉に、高宮は同意するように頷いた。

負けて大損したカジノの連中が、負け分を取り返すためにチンピラを差し向けて、ターゲットから金を強奪する。ゲームなんかの創作物だと割とよくあるテンプレ展開だが、まさか、現実で見られるとは思ってなかった。


「てめぇら、さっきから何ごちゃごちゃ話してやがんだ!」


俺たちが勝手に話していたからか、あるいは、自分たちに対して、獲物があまり恐怖を抱いていないことに対してかは分からないが、チンピラの中の一人が苛立たしげに顔を歪めた。


しかし、怒鳴られても、俺たちの中に恐怖を感じているやつは誰もいない。まあ、それはそうだろう。狐人族のヤエや女神ベルザはもちろん、俺たちは転生組もゴーレムやカルト教団、人攫いの闇組織などと対峙してきたのだ。今更、チンピラごときに襲われてもなんとも思わないのは、これはもうしょうがないことだろう。


「このクソガキどもがっ! どうやら俺たちの恐ろしさが分かってねぇみたいだなぁ!」


やはり怒りの原因はそこだったのか、チンピラは尚も吠える。

そんな怒声もなんのその。ヤエがなんでもない表情をして、こちらに近づいてきた。


「アヤノよ、こやつらはつまるところ、かじとやらで稼いだ金を奪いにきたということか?」


「まあ、そういうことだな」


「仮に、金を奪われたら?」


「食べ放題は無しだな」


「そうか」


ヤエは短くそれだけ言うと、前方の男たちの方へ、つかつかと歩み寄っていった。


「あ? どうしたクソガキ--」


「往ね」


「ぎゃああああああ!?!?!?」


ヤエがそう呟くと、男の一人の身体が、突如として燃え上がった。いきなり炎に包まれた男は、断末魔の叫びをあげながらのたうち回る。


その様子を呆然と眺めていたもう一人の男方へと、ヤエが近づいていく。それからは、全てが一瞬にして片付いた。


ヤエが再び何かを呟くと、もう一人の男にも炎が燃え広がり、これで、前方の敵は一瞬にして戦闘不能に。


こっちの方も、いきり立って突進してきた男を、俺が簡単にいなし、バランスを崩したところを高宮が押さえ込み、腕をへし折ることで制圧した。

女も朱夏にアッサリと倒されていた。あと、なぜかベルザ様もノリノリで参戦していたが、これは無視してもいいだろう。


「ぐっ……ガキどもがぁ……」


腕をへし折られた男が、顔だけを上げて、憎悪の孕んだ目で、こちらを睨め付ける。


「そんな恨めしそうな目するなよ。あんたらが勝手に襲ってきて、勝手に負けたんだからさ」


「てめぇ……」


「後々面倒だから、殺しはしない。あの丸焦げになった二人もまだ生きてるから、さっさと連れて行けよ」


男は無言のまま立ち上がると、不自然に曲がった腕をかばうようにして、仲間を担ぐと、そのまま、ヨタヨタと路地の奥へ消えて行った。


一件落着。と一息ついた時--


「望、危ない!!!!」


という、朱夏の叫び声が後ろから聞こえてきた。

思わず振り返ると、魔力を込めた球がこちらに向かって、襲いかかってきた。だが、大した威力は感じられないので、簡単に対処できる。と、思っていたのだが。


「がぁっ……」


なぜか、身体が上手く動かず、マトモにそれを食らってしまった。

なんで? という疑問と共に、俺は意識を手放した。




目を覚ますと、俺は見知らぬ場所にいた。現実の世界とも天界とも違う不思議な場所だ。


「久しぶりだね、幸月君」


不意に声がして、振り返る。すると、そこには、絶対にいるはずのない人物が立っていた。


「お前……神代?」


「うん、そうだよ」

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