51 一件落着?
「あ、ああ!? 狐人族だと!? そんなモン、こんな所にいるかよ!」
「……え?」
ヤエがいないだと?
「狐人族みたいな激レア商品なんて、この商売始めてから今まで、お目にかかれたことすらねぇ。もし手に入れたとしても、市場に出さずに、直接貴族やらに売り飛ばすぞ」
「その方が儲かるからな」と男は答えた。
その様子からして、嘘をついているわけではなさそうだ。
だとすると、ヤエはどこに行ってしまったんだ?
固まった俺を見て、戸惑いながら男たちは、
「な、なあもう良いだろ? 俺たちは行くぜ」
「……ああ」
俺がそう言うと、ボスの肩を手下が担ぎ、二人は舞台の方向へと逃げて行った。
「えっ、逃しちゃって良いんですか?」
高宮が聞いてきたが、それは問題ない。
実は、ここに来る前、冒険者ギルドを通して、この町の警察隊に奴隷市の存在を知らせておいた。
おそらく、今頃は、警察があちこちを制圧しているだろうから、いまさら逃げても、やつらに逃げ場はないのだ。
だから、さっき取引の時に言ったのだ。"私たち"は見逃してやる、と。
そのあと、俺たちはヤエがいなかったことに混乱しつつも、牢の子供たちとともに、ここから脱出し、外にいる警察に引き渡したのだった。
そして、外には警察の他に、もう一人別の人物がいた。
「おお、探したぞお主ら!」
「ヤ、ヤエ!?」
なんと、ずっと探していたヤエが、何事もなかったかのように、俺たちに駆け寄って来たのだ。
「全く、今までどこにいたんじゃ?」
いや、こっちのセリフだ。
俺が、全く同じ質問をヤエに投げかけようとした時、何やら聞き覚えのある声が響いた。
「ふ、ふざけるな!! なぜ、ぼくが逮捕されなくちゃいけないんだ!?」
声の主は、俺たちが案内をさせた、富豪の息子ユリスベルだった。
すっかり存在を忘れていたんだが、なぜかユリスベルは、捕まっていた。
……あっ、警察にあいつのことを説明してなかった!?
助ける義理はないが、案内をさせ、俺のミスで逮捕されるのは目覚めが悪いので、一応助けておくことにした。
「あ、あの……この人は違うんです」
「おお、カミシロ。この分からず屋に説明してやってくれ」
ユリスベルは、俺が助け舟を出したことで、いつもの横柄な態度に戻った。
「この人は、俺たちをここまで案内してくれたわけで、決して犯罪を犯していたわけじゃ……」
「でも、馴染みの客みたいでしたよね」
「ええ。あれは、立派な常連客ね」
「「「………………」」」
まさかの裏切り。
朱夏、高宮よ……なぜこのタイミングでそれ言う?
「さ、一緒に来てもらおうか」
「ま、待て待て! た、頼むカミシロ!」
「……まあ、常連だったとして、今回の功績があるわけですから、何卒、無罪ということに……」
「そういえば、あの男は、昨日の昼に私たちを無理矢理妾にしようとしてましたよ」
「そうそう。それで断ったら、用心棒をけしかけて力づくで手篭めにしようとしたわね」
「まさしく、卑劣漢じゃな」
「「「………………」」」
どうやら、彼女たちに助けようという気はないらしい。
「カ、カミシロ……」
そんな捨てられた子犬みたいに俺を見るな。
分かってるよ。今、どうすれば良いかくらい。
「逮捕してください」
「はっ! さあ、来い、犯罪者め!」
「お、おいー! どういうことだ!?」
許せユリスベル! 今、この場で無実を証明するのは、敵が多すぎで無理だ。
あとで、俺一人で釈明しに行くから。
俺は、半狂乱で連行されるユリスベルを、ただ眺めるしかなかった。
*
「「「えっ、捕まってなかった!?」」」
ヤエがいなくなったのは、単に食べ物の匂いにつられて、単独行動を取っていただけという。そして、戻って来たら、俺たちがいなくなっていたので、ヤエ自身も俺たちを探していたらしい。
がっつり単独行動を取ってらっしゃる……俺たちの認識は、丸々間違っていたということか!?
ユリスベルが連行された数分後、俺たちは、ヤエの口から出た衝撃の事実に、そろって驚嘆した。
「まあ、そういうことじゃの。そもそも、妾がそんな輩に遅れを取るはずなかろうて」
ヤエは、自慢げにフフンと鼻を鳴らした。
いや、あなた、初めて会ったとき人攫いに追われてたじゃないですか。
……ちょっと待てよ。つまり……俺たちは、単なる早とちりで、犯罪組織を潰してしまったのか!?
思い込みとは、かくも恐ろしい物だったのか……。
「しかしまあ……クク。お主らがそこまで必死になって妾を探しているとはのぉ」
「可愛いやつらめ」ヤエは、満足そうに笑い始めた。
……なんだろう? 全部俺たちの早とちりで、ヤエに責任は無いのに、湧き上がってくるこの感情は。
ふと、朱夏たちに目を向けると、俺と同じ感情が生まれているであろう表情をしている。
……まあ、それは良いや。
「……なあ、少しお腹空かないか?」
「……そうですね」
「……アタシも同じこと考えてたわ」
「ん? お主ら、一体どうしたんじゃ?」
俺たちの様子を見たヤエが、不審がって言った。
ナンダロウネ。
「じゃあ、何食べるか一斉に言おう! せーの」
「「「キツネ鍋!!!!」」」
満場一致!
「よし、じゃあ行こうか」
「おいー! 待てお主ら! ま、まさか妾を!?」
「もう、うるさいですよ。今は、早朝なんですから」
「そうよ、しょくざ……ヤエ」
「お、おい、今、妾を食材と……い、いやじゃ、いやじゃ! 鍋で煮て食われるなんていやじゃ〜〜〜〜!!!!!!」
早朝のコルの町。そこに狐人族の少女の魂の叫びが響き渡ったのだった。




