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50 奴隷市への潜入作戦! 3

「やっちまえ、オーク!」


男の叫びに反応したオークが、俺へと突進してきた。


それを見た子供たちは、恐怖で目を背け、命令を出した男二人組は、ニヤニヤとこれからの展開に期待しているようだった。

しかし、子供たちや男たちが想像した展開にはならなかった。


ドシュッ! という何かを貫く音とともに、オークは言葉を発することすらなく、絶命したのだ。


「な、なんだと!? い、一体何が……」


奴隷市のボスは、目の前の光景が信じられないらしく、目を見開き、絶句していた。

もっともそれは、ボスの立場からしたら当然かもしれない。

こちら側が勝つのが当然、オークが哀れな侵入者をいたぶるだけの、ワンサイドゲームとなる予定だったはずだ。

しかし、予定とは全く逆の事が起こった。目の前には眉間を貫かれ、何もすることなく絶命したオークが倒れこんでいるのだから、平静を保てるはずがない。


「て、てめぇ……一体、一体何をしたんだ!?」


さっきまでの余裕綽々な態度は何処へやら。

ボスは、予定外の事に慌てふためき、唾を飛ばしながら喚き散らしていた。

その横では、手下の男が言葉を発することもできずに固まっていた。


俺は、それに答えることなく、無言で二人の男を見据える。


これは、別に意図して語らないようにしているの訳じゃない。

俺自身、驚いていているんだ。

何せ、使ったスキルが、自分の想像したものとは、全然違うものだったのだから。


さっき、オークを斃すのに使ったのは、以前、綾乃がゴーレムにトドメを刺した時に使用した"滅魔劔"というスキル。俺が見たそれは、巨大な光の剣が相手を貫くもので、今回もそれをイメージして使った。

圧倒的な力のスキルで、オークを斃し、そして、男たちの戦意を削ぐために。


しかし、実際、俺がそれを使ったら、小さな光の剣が凄まじい速さで飛び出し、相手を貫くという別物のスキルになってしまった。

もしかすると、使用者が綾乃本人じゃないから、違うスキルになるなんてオカルトがあるのかしら?

単純に、俺がスキルを使いこなせていないという説もある。


まあ、オークを瞬殺できるのだから、威力は申し分無いんだが、ここにいるほぼ全員が何が起こったのか理解できなかったのは、マイナス点だ。


なぜなら--


「な、何が起こったか分からねぇが、相手は女一匹だ。俺たちだけで十分だ!!!!」


「ええ! あんなメスガキ、一捻りですよ!!!!」


男たちの戦意を削げなかったから、混乱が解けると、すぐにこんな感じで、臨戦態勢になってしまうからだ。


正直、オークが瞬殺された時点で、自分たちが、目の前の女に勝つのは無理だと分かってもらいたいのだが、しょうがない。


ヤエを探すのはあとにして、俺も目の前の男たちとの戦闘に集中することにした。

しかし、その時、俺の後ろにある、この部屋の入り口ちかくから、壁を破壊するような轟音が起こった。


い、一体なんだ!?


俺は振り返ったが、壁が壊され、土煙が舞っていて、誰なのかは分からない。

もしや、敵の援軍か? と考え、男たちを見るが、向こうも驚いているので、これも違う。


音に驚いた子供たちの泣き叫ぶ声が響く中、やがて煙が晴れると、壁を破壊した者たちの姿が明らかになった。


「すみません、遅くなりました」


「望、やられてない? 大丈夫?」


それは、朱夏と高宮だった。

二人はまるで、遅れてやって来たヒーローのような、ドヤ顔をキメている。


来てくれたのは心強い……が、もっと普通に入って来てもバチは当たらないと思うんだ。

ほら、子供たちも驚いて泣き出しちゃったぞ?


「ちい! また、新手か……ひぃっ!?」


朱夏たちが、俺の援軍であることを理解したボスが忌々しげに毒づいたが、すぐに怯え始め、恐怖の悲鳴をあげた。

もっとも、それは至極当然の反応だと思う。朱夏たちは、明らかに自分のものではない大量の血を身に纏っていたのだから。


おそらく、ここに来るまでに、壮絶な死闘を繰り広げたに違いない。それこそ、互いの命をかけるほどの。

……断じて、敵をいたぶる蹂躙劇などは繰り広げていないはずだ……絶対、多分、きっと。


「いきなり女の子の顔を見て、悲鳴あげるなんて失礼ね!」


無理言うな。今のお前らは、慣れてないやつなら卒倒するレベルだぞ。


「……あっ、もう大丈夫ですよ。あなたたちは、私たちがきっと助け出しますから」


朱夏が怒っているのと同じタイミング、高宮は、聖母のような笑顔で、子供たちに声をかけていた、のだが……。


「ギィヤァァァァァァァ!?!?!? バケモノォォォォ!!!!」


「助けてママァ!!!!」


高宮の姿を見た子供たちは、人間や獣人の違いなく皆が、先ほどの比じゃないくらい、泣き死ぬんじゃないかというくらい泣き叫んでいた。


「な、なんでですか!?」


やめろ、やってることは正しいが、やめてやれ。子供たちにこれ以上、トラウマを植え付けてやるな。


「くそっ! あんなバケモノ相手にできるか! ずらかるぞ!」


「へ、へい!」


「「誰がバケモノよ『ですか』!!」」


いやいや、今のお前らは、誰がどう見てもバケモノだよ?

一体何をすれば、そんな血塗れになるんですか?

闇の組織のボスすらも尻尾を巻いて逃げ出すそのご尊顔。大きな声じゃ言えないけど、俺も、逃げたいと考えるほど恐ろしい。


とまあ、冗談はこのくらいにして……ここまで来て、奴らをみすみす逃すわけにはいかない。

俺は手に力を込め、男たちに向けて、滅魔劔を放った。

やはり、今度も光の大剣にはならず、小さな光の短剣が高速で放たれるだけだったが、今はこれで十分だ。


「ぐっ……ぎゃ!?」


短剣は、ボスの男の足をアッサリと貫き、逃亡を容易く阻止した。


「ボ、ボス!!」


手下の男も負傷したボスを見て、足を止める。この時点で、奴らは完全に詰んだも同然だ。


「フフ、さっきは、よくもバケモノ呼ばわりしてくれましたねぇ」


「覚悟はできてんでしょうね?」


「ひ、ひぃ……」

「………………」


足の止まった男たちに、朱夏たちが詰め寄る。これだけで、もう終わりだ。

男たちは、血塗れの少女たちに見下ろされ、身を竦め、動くことすらできないでいる。


「おいおいお前ら、その辺にしとけ」


「ムッ、なんで止めるんですか?」


止められたのがよほど不満だったのか、血塗れの少女たちは、口をへの字に曲げて抗議した。


「こいつらに聞きたいことがあるからな。その前に、お前らがトドメ刺したら意味ないだろ?」


何のために俺たちが、闇の奴隷市に潜入するという危険なマネをしたと思ってるんだ。

ここで、こいつらを再起不能にしたら、全てが無駄になるだろ。


「……あんたらに少し質問したいんだけど。正直に答えたら、私たちは見逃してやるよ」


「!? ……な、何を聞きてぇんだ?」


「ここに狐人族の女の子がいるだろ? その娘をこっちに引き渡してほしいんだ」


俺たちがここに来た理由。それは、連れ去られたヤエを見つけるためだ。

しかし、この部屋の牢にはヤエはいなかった。おそらく、貴重な商品は別の所に分けられてないるのだろう。

だから、取引を提案したのだ。ここで、捕まってしまうのを承知で、この提案を無下にするほど、こいつらも愚かではないだろうからな。


「あ、ああ!? 狐人族だと!? そんなモン、こんな所にいるかよ!」


「……え?」

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