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5 召喚から数日後 後編

「やめなさい」


透き通るような、しかし、確かな怒気を含んだ声にその場にいる全員が動きを止め、声のする方向に目をやる。


そこには、神代綾乃が絶対零度に視線でこちらを見据えており、その後ろには、榊煌成と兵士の姿もあった。


「……くだらないことをやってないで、さっさと部屋に戻りなさい」


綾乃は、俺たち全員を見渡した後、野間口ら3人組に言い放つ。

決して強い口調ではなかったが、その言葉には、大きな強制力が感じられた。


それに気圧されながらも、まだ何か言いたげな3人組を、兵士が王宮へ連れて行った。

腐っても勇者の一行として、育成されている奴らなのだ、大したペナルティは無いだろう。あっても、口頭で2、3注意を受けるだけだ。


3人組と兵士を目で見送った後、綾乃は、いつもの優しい表情に戻し、朱夏と共に俺を起き上がらせた。


「しっかりしなさいよ!」


「幸月君、大丈夫だった? 次こういうことがあったら、遠慮無く言ってね?」


「あ、ああ。別に大丈夫……」


女の子に、自分が一方的に殴られるところを 見られた挙句、介抱されたことが気恥ずかしく、小さな自尊心を守るために、つい、素っ気ない返事をしてしまう。


それが癇に障ったのか、榊が俺に咎めるような視線を向け、説教を始めた。


「幸月、助けてもらってその態度はないだろ。だいたい、やられっぱなしで、ろくに抵抗もしないなんて、情けないやつだ」


いつの間にか、咎めるような視線は、見下したものへと変化していた。


「はあ!? 何で望が非難されんのよ!!」


「鈴本、俺は、幸月のために言って……」


「煌成……、やめなさい」


朱夏の抗議に、反論しようとする榊の言葉を遮り、注意する綾乃。

綾乃の注意が効いたのか、榊は、「フン」と鼻を鳴らし、議論するのをやめた。


「ごめんね、幸月君。後片付けは、私たちがしとくから、治癒室に行って?」


「ああ、ごめん。じゃあ、頼むよ」


俺は、お言葉に甘えて、未だに痛む身体を引きずり、治癒室に向かうことにした。



城に常駐する僧侶に、治癒魔法をかけてもらった俺は、ケガの経緯をなんとなくごまかして説明し、治癒室を後にした。


しっかし、怪我を一瞬で治すなんて、魔法は便利だな。致命傷を負った人間を治すのは無理みたいだが。


そんなことを考えながら、通路を歩いていると、前方に、腕を組みながら、不機嫌そうに仁王立ちしている朱夏の姿が……。


あの状態の朱夏に関わるとろくなことにならないからなぁ。触らぬ神に祟りなしってことで、退散しよう。

そう考え、朱夏のいる方向の反対に歩みを進めた俺に、


「あんた、何逃げてんの!? 私がいるの気づいてたでしょ!?」


と、怒った朱夏が、一瞬で距離を詰め、ドロップキックをかましてきた。異世界に来て気づいたが、こいつ足グセ悪いな。


「フギャァッ!?」


情けない悲鳴をあげながら、まともに受け身も取れずに倒れ込む俺に、朱夏は、また詰め寄る。


「ま、待て朱夏! さっき治療を終えたばかりなんだぞ!? またケガしたら、あの僧侶に何言われるか……」


「うるさいわね! そんなことしないわよ!!」


俺の物言いに、朱夏は、憤慨した様子でまた怒り出す。

そんなことしないって、じゃあ、さっきのドロップキックは何だったんだよ……。

そんなこと思いながら、半目で朱夏を一瞥し、立ち上がる。


おっ? すんなり立ち上がれたことを見ると、一応朱夏も手加減してくれたようだ。

だからと言って許しはしない。一生覚えておこう。


「そういや、何か用か? 唯、蹴り飛ばしに来た訳じゃないだろ?」


「ああ、そうだった! 今夜、あんたの部屋に行くから、起きてなさいよ!」


それだけ言うと、朱夏は、走り去って行った。

子供の頃からの付き合いだが、あの忙しさは、変わらないな。


結局、何の用があったのかは、訊けなかったな。まあ、それも今夜、分かる事だろうからいいか。

そんなことを考える中で、まだ終えていない雑用を思い出し、急いでそこに向かう。


「痛っ……!」


今になって、蹴りと倒れ込んだ時の痛みが襲って来た。

手加減されていたと思ったが……、もしかすると、手加減してこの威力なのかもしれない。


そろそろ国にクレームを入れよう。暴力幼女に襲われたって。

はっきり言って、昼間の屑どもよりもあのロリっ子の方がよっぽど危険だ。


痛む身体を引きずりながら、俺は、そんなことを思うのだった。


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