49 奴隷市への潜入作戦! 2
「ふぎゃ!?」
奴隷市の関係者専用通路。その一角に、いかにも犯罪者風の出で立ちをした男が、情けない悲鳴をあげて、倒れこんだ。
俺たちが潜入してから数分が経った。
その間、認識阻害スキルで存在を知覚できないようにしてから、裏組織の人間何人かを雷魔法で気絶させ、数を減らしたが、未だに、奴隷が集められているであろう舞台袖には、到達できずにいた。
(くそっ、まだ辿り着けないのか……?)
俺たちには、そんな焦りが募り始めた。
舞台袖に続くであろう通路に潜入したのは良かったものの、そこは想像以上に広く、入り組んでいて、思うように進めないのだ。
だが、悠長にもできない。俺たちの存在には気づかれなくても、消えたこと仲間の存在に気づかれるのには、それほど時間はかからないだろう。
もし気づかれたら、怪しんだ組織の連中が、商品である奴隷たちを持ち逃げすることも考えられる。そうなれば、ヤエを救出するのは絶望的だ。
だから、何としても、侵入を感づかれる前に、目的地に辿り着かなければならないのだ。
そんな矢先、俺たちの目の前に、三方向に分かれた通路が現れた。
「ここまで来て分かれ道かよ……」
「ど、どうしましょう!?」
「三手に分かれちゃったら、認識阻害は使えないわよね?」
朱夏の言う通り、このスキルは、同じ空間内でないと使えない。
このスキルは、広大な草原地帯のような規模は無理だが、かなり広い……例えば、巨大な屋敷の一部屋丸々くらいなら、問題なく使える。
ただ、壁なんかで遮られていると、どんなに狭くてもスキルの範囲外になってしまうという足枷がある。
だから、ここで俺たちが分かれると、スキルの範囲から朱夏と高宮は出てしまうから、その存在は知覚されてしまうのだ。
だからといって、三方向を一ヶ所ずつ、三人一緒で探す時間の余裕も無い。
さて、どうしたもんかな……。
そんな時、突然、朱夏が口を開いた。
「……ここで考えこんでる時間は無いわ。スキルの範囲外になって見つかるかもしれないけど、三手に分かれて探しましょう」
「確かにそれが良いかもしれませんね。どうせ、遅かれ早かれ見つかっちゃうでしょうし」
朱夏の提案に高宮も賛同するように頷く。
俺もそれには特に反対するつもりは無い。
けど--
「大丈夫なのか……?」
俺がそう言うと、二人は、「何言ってんのこいつ?」みたいな顔をした。
えっ、俺、なんか変なこと言った?
「はぁ、心配性ね。別に見つかっても、問題ないわ。アタシたちが負けるわけ無いじゃない」
いや、お前それフラグ……。
「綾乃さんの姿でそんなこと言われても嬉しくないですよ、幸月くん。それに、朱夏ちゃんの言うように、私たちが有象無象に遅れを取るはずがないでしょう?」
顔がニヤけてるぞ、高宮。
あと、どんな時でも、俺のことは綾乃と呼ぶんじゃなかったのか。
それと、お前までフラグを立てんな。
二人は言うだけ言うと、二手に分かれて行ってしまった。
どうしよう……。
俺がさっき言った「大丈夫か?」は、お前らがやりすぎて、組織のやつを殺してしまわないか、という心配だったんだけど……。
まあ、別に殺しても罪には問われたいと思うから、わざわざ訂正する必要もないか。
……とにかく、右通路を朱夏、左を高宮が行ったので、俺は問答無用で残された真ん中を選ぶことになった。
俺は残された通路へと歩を進め、目的地へと急いだ。
*
「ぎぃや!?」
「お、おいどうした? ……ぐわっ!?」
一人で目的地を目指す俺は、あいも変わらず、認識阻害を使い、敵を無詠唱+透明化の雷魔法で気絶させるというセコい手を使っていた。
どのくらいセコいかというと、気絶させた敵にも認識阻害を使い、他の敵に気づかせないようにするくらいにはセコい。
そんなセコい手で、敵を倒しながら進んで行くと、行き止まりにあたり、そこに重厚な鉄性の扉が現れた。
俺は、とりあえず側にいた見張りを気絶させ、ドアノブに手をかける。
すると、以外にも扉はアッサリと開き、通路よりもさらに薄暗い部屋が顔を覗かせた。
……鍵かけてないのかよ。重厚な扉の意味……。
そう心の中でツッコミながら、俺は、敵がいないことを確認し、扉の先へと歩を進めた。
俺が入った部屋……それは、目的地と言って相違ない。石造りの壁に鉄の檻のある牢屋のような場所だった。
目を凝らし、牢屋の中を見ると、年端もいかない少年少女が十数人いるのが確認できる。
人間や獣人など、様々いるが、全員おそらく、奴隷として売られる予定の子供たちだろう。
皆が怯えたように身を縮こませ、プルプルと恐怖に震えていた。
パッと見では、その中にヤエの姿は確認できないな……よし!
俺は、ひとまず認識阻害を解き、ヤエを探すことにした。
ここで、認識阻害を解いたのは、敵がいないから、無駄な魔力消費を避けるのと、ヤエの方から、俺のことを見つけてもらうという意味合いがある……あったのだが、これが間違いだった。
「ひっ! ……だ、だれ!?」
「きゅうに女の人が……」
「お、お姉さんだれなの!?」
いきなり現れた俺に、驚いた子供たちが騒ぎ始めたのだ。
う、迂闊だった……。ちょっと考えれば、想像できることだったのに……。
後悔しても後の祭り。
俺が必死に声を抑えるように言っても、子供たちは止まらない。
そして、ついに--
「うるせぇぞ、ガキども!! ……あ? なんだてめぇは!?」
部屋に明かりが灯り、俺は、騒ぎを聞きつけた、いかにも犯罪者風の顔立ちの男二人組に見つかってしまった。
「ボス、部下たちから、通路で暴れている女がいると報告されていましたが、この女では……?」
「ああ、こいつか。なんかの冗談だと思っていたが……まさか、本当に侵入するバカがいるとはな。ククク」
違います。それは多分、朱夏と高宮です。俺じゃありません。
「お、よく見りゃ顔は整ってるじゃねぇか。ちょうど良い。こいつも奴隷として売っちまおう」
「ゲヘヘ、そりゃあ良いや!」
奴隷市のボスと手下の男は、下卑た笑みを浮かべ、勝手なことを宣う。
「まずは、適度に痛めつけて、屈服させねぇとな……おい、ヤツを出せ!」
ボスの命令を受け、手下の男が側にある巨大な牢の扉を開け放った。
すると、ズシン! という足音が数回響き、何かが牢の扉に近づいていた。
「ひっ……」
その音と気配に、子供たちは、さっき以上に怯え、震えだした。
まるで、何が出てくるのか知っているみたいに。
あの……何が出てくるんです!?
お姉さん(お兄さん)に教えて!?
だが、俺が聞くまでもなく、その"何か"は、すぐに姿を現した。
脂肪と筋肉を纏った酷く醜悪な姿、人間とは比べ物にならない浅黒い皮膚の巨体を持つ四足歩行の豚。
牢から姿を見せたのは、ファンタジーではお馴染みの魔物……オークだった。
よりにもよって、オークかよ……。
俺は心の中で毒づいた。
オークは、人間などあっさりひねってしまうほどの力を持っており、しかも性欲が強く、どんな生物だろうと、人形なら犯してしまうような魔物……というのが、現代日本を生きる俺の認識だ。
そして、その認識は、この世界のオークに対しても当てはまっていた。
だから、極力関わりたくない魔物だったのだが、こんな所で対峙する羽目になるとは思っても見なかったのだ。
「さあ、オーク! あの女を好きなように痛めつけろ!」
ボスがそう叫ぶと、オークは俺に、猛然と突進してきたのだ。




