45 穀潰しめ!
「やばい……金が底を尽きた」
「えっ、嘘でしょ!?」
「クエスト報酬を含めてですか!?」
「………………」
驚きと悲壮感の合わさった表情を浮かべる朱夏と高宮。
2人の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
正確には、「尽きかけている」だけどな。だけど、すぐに言葉通りになるから関係ない。
たったの二日間で、所持金が底を尽きかけるという最悪の事態。
金を稼ぎに来たのに、無くなってしまうなど、誰が想像したものか。
「「「………………」」」
「ふぅ〜む、大変じゃの〜。あ、おい店員よ、おかわりじゃ」
「は、はい」
黙り込む俺たちをよそに、呑気に料理を注文するのは、無理矢理仲間に加わった狐娘のヤエだ。
「もしもし、ヤエさん?」
「ん、どうしたのじゃ?」
「あなたの目の前に置かれているのは、なんでございますか?」
「何って……皿じゃが?」
そう皿だ。なんの変哲も無い皿だ。だけど、それが問題ではない。問題は、その数だ。
俺たちの前には、一枚程度しか置かれていない皿が、ヤエの前だけ、何十枚も積み重なっていた。
その光景はまるで、フードファイターと相席しているみたいだ。
「そうか、いっぱい食べたな! えらいえらい!」
「そ、そうかの……? フフフ」
予想外に褒められ、照れたように笑うヤエ。はたから見たら、なんと微笑ましいことだったか。
「……それで、これは誰が払うんだ?」
「それはもちろんお主が……」
「店員さん! さっきのオーダー、キャンセルで!」
「ああっ!?」
冗談じゃない。これ以上食われたら、ここの代金すらも払えなくなる。
性懲りもなく注文しようとするヤエを引っ張り、俺たちは店を飛び出した。
そう、俺たちの金はヤエの食費だけで消し飛びかけたのだ。
いや、ここを払ったらスッカラカンだから、「消し飛んだ」の方が正しいか。アハハハハハ……くたばれ。
とにかく、今のままだとまずい。
なんとかしないと、俺たちが稼いだ分、綺麗さっぱりこいつの胃袋に溶かされてしまう。
*
「お前、これからバカみたいに食うのやめろ」
「そんなご無体な!?」
コルの郊外に、ヤエの悲痛な声が響く。
「何も絶食しろとは言わない。量を抑えてくれと言ってるんだ」
このままヤエに無遠慮に食い続けられたら、間違いなく俺たちは破産する。
「うぅ……し、しかし……」
「可能な限りで良いですから。ほんの少しでも、減らせませんか?」
「………………」
高宮が優しく説得すると、ヤエは苦い顔をして押し黙る。
「大体、お前が俺たちといるのは1日だけのはずだっただろ? なにずっと居座ってんだよ!」
「えっ、お主まだ覚えておったのか!?」
バカにしてんのか、こいつは。
俺がすぐ物事を忘れる鳥頭だとでも?
「い、いや……あれは譲歩の時に、パッと出た言葉であって本心では……。そ、それに、1日限定と言いながらもそこに居続けて、自然と仲間になるのが普通ではないのか!?」
そんな普通は知らん。
それにしても、こいつは俺たちにずっとついて来るつもりだったのか。
「あのなぁ……俺は、お前みたいなタダ飯を食い続ける穀潰しを仲間にする気は、全くないぞ」
「そ、そんな……妾が穀潰し……?」
「ちょっと望、さすがに言い過ぎ……」
ショックを受けたように俯くヤエ。
それに、朱夏と高宮が抗議するような視線を俺に送ってくる。
事実を言ったまでだ。言い過ぎでもなんでもない。
それに、こんなことで、この狐娘がショックを受けるような玉ではないだろう。
今に何か仕掛けてくるぞ。
「ぐすっ、ぐすっ……私、お腹が減ったよぅ…….」
やはりと言うべきか……。
ヤエは涙を流しながら(嘘泣き)、世間様の視線を集め、俺を脅迫するという前にやったことと同じことをしてきたのだ。
道行く人々は、ヤエに同情し、俺に非難の視線を送ってくる。
それは、初日のアレとデジャブを感じるほど、同じ状況だった。
しかしそれは悪手だぞ、ヤエ。
俺は初日に、町の住民に「幼女を襲う変態女」というレッテルを貼られたんだ。いまさら、この程度で怖気づきはしない。
しかも、ヤエに対して好意的な朱夏と高宮までもが、この演技には、冷たい表情をしている。
仲間内で敵を増やすのも、あまり得策とは言えない。
「とにかく、一緒にいたいなら飯の量を抑えろ。それが嫌なら、俺たちの元には置かない。これは譲れない」
「……ちっ、分かった。お主の言う通り、食事は控えめにしよう。……それで良いか?」
舌打ちしやがったこの野郎っ!
「ああ」
こうして、ヤエの胃袋に金が溶かされるのは阻止することができた。
これなら、稼いだ金が一瞬で消し飛ぶのは、避けられるだろう。
*
ヤエの爆食問題が解決した、その夕方。
クエストクリアの報酬をもらった俺たちは、取り止めなのない話をしながら、良さげな店を探していた。
「今日のは、かなり儲かりましたね! それじゃ、どこで食べますか?」
「そうねぇ……あれはもう食べたし、うーん……」
そんな会話をしている時、ふと、ヤエに対して、ある疑問が頭に浮かび、それを尋ねることにした。
「なぁ、ヤエ。お前は狐人族の姫なんだろ? 他の仲間はどう……」
「おい、女!」
突然、俺の言葉を遮り、耳障りな声が響いた。
振り返ると、そこには骨がいた。




