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44 養う余裕なんかありません!

「着いた! ここがコルの町だ!」


「ふう……なんとか今日中にたどり着けたわね!」


「おおっ! 確かにサトスと比べると大きな町ですね〜!」


高宮の言うように、コルは大きく、人も多い町だ。100年前までは何もない小さな町だったようだが、"商売の神"と呼ばれた伝説の男がここに来てから、発展していったらしい。

現在では、商売で財を成した富裕層から、一般民衆や冒険者、果ては貧民層や犯罪者など、様々な人種が暮らす町になっている。


「ほう……確かに巨大な町じゃな。しかし、人が多くて鬱陶しいのぅ……」


「……おい、何ナチュラルについて来てんだよ狐娘。あまりにも自然だったから、ここまで一緒に来ちゃったじゃねぇか!」


「おい、人間の娘。妾のことを呼ぶなら狐娘ではなく、名前で呼べ。妾にはヤエという素晴らしき名があるでな」


「あーハイハイ、分かりましたよ」


狐娘ヤエに注意され、俺は適当に答えた。

それはどうでもいいが、俺の質問に答えろよ。


なぜ、こいつもついて来たのか、これが分からない。

人攫いを撃退したあの荒野で、ヤエから、自身は獣人の"狐人(こじん)族"の姫であり、訳あって一人で行動してたところをあの男たちに襲われた……という身の上話を聞いたところまではハッキリと記憶がある。

しかしそこから、どういう経緯でヤエがついて来たのか、という部分だけが曖昧だ。

人攫いの男たちは、一応、応急措置をして、あそこに放置しておいた、といういらんとこは、やけに明瞭に覚えているのだが……。


「それで、どうしてついて来たの、ヤエちゃん?」


今度は朱夏が聞く。


「まさか、もう正気に戻るとは……。ちぃっ、もう少し強力な術をかけるべきだったか……」


おい、ちょっと待て! こいつ、術とか言いやがったぞ!?

もしかして、今まで一緒にいるのに違和感を持たなかったのは、こいつの仕業か!?


「お、お前、あの時なんかしてたのか!?」


「ふぅー、ふぅー」


口笛吹いて誤魔化すな! あと、音出てないぞ。


「まあ良い……もうついて来んなよ」


「何を言うか人間よ。妾は、お主らにどこまでもついて行くよ」


「はぁ!?」


何を言いだすんだこの狐は!?


「それともお主は、こんな幼子を一人放置するつもりか?」


「ぐっ……」


「なんたる酷い女じゃて」と、目の前の狐は、俺に非難がましい視線を送ってくる。

そして、今度は懇願するような態度に変え、口を開く。


「なに、妾もずっとお主らにつきまとうつもりはない。1日置いてくれるだけで良い」


その効果は抜群だったようだ。俺の連れ2人は、すっかり懐柔された様子で、ヤエを哀れむように見ている。


「……ねぇ、望。さすがにちょっと可哀想じゃない?」


「そうですよ。1日だけなら一緒にいてあげても……」


お前らは何を言ってるんだ?

俺たちには、この狐娘を養うような金は、1日分たりとも無いんだぞ。

それに、こいつのことだ。1日〜とか言っておきながら、ずっと居座るに決まってる。


頑として首を縦に振らない俺に、ヤエは、痺れを切らしたのかため息をついた。


「はぁ……しょうがないの」


ふぅ、やれやれ、やっと諦めてくれたか。


「この手はあまり使いたくはなかったが……お主が妾について来るよう、自分から頼みこむようにしてやろう」


ヤエの金と黒色の瞳が怪しく光り、ニヤリと口角を吊り上げた。


お、おい……何をする気だ!?


不安がる俺をよそに、ヤエはおもむろにフードを被り、しゅんしゅんと鼻をすする演技? を始めた。


「ぐすん……ふぇぇ……私、もう一緒にいられないの? うぅ……寂しいよ〜」


「お、お前……突然何を言って……!?」


道の真ん中で泣きじゃくる幼女。その姿は、否応なく人の視線を集める。

気がつけば、道に入るほとんどの人がこちらに訝しげな視線を送っている。中には、俺たちに非難がましい視線を送るやつもいた。

大方、俺たちが虐めているとでも捉えたのだろう。……全くもってひどい誤解だ。


「わ、私……今度こそ良い子になるから、お願い、捨てないで〜!!!!」


おいバカやめろ!! それじゃあ、まるで俺が虐待してるみたいじゃないか!!

道行く人たちの視線も凄いことになってるから、ホントにやめてくれって!!


「おい、あの女、子供を捨てようとしてるぞ」


「まあ、本当……あんな小さな子を身勝手に捨てるなんて、信じられない!」


違う! 捨てるなんて人聞きの悪いことを言うな!

俺はただ、勝手について来た獣人を追い払おうとしただけなんだ!


町の人のそんな声を聞いたヤエは、もう止まらない。

フードの影でほくそ笑んだあと、もう一押しとばかりに大げさに泣き出した。


「うわぁぁん!! 今度こそ、ちゃんと言うことを聞きます! 夜、裸になって抱き合う、なんて言いつけにも逆らいません! だから捨てないでぇぇ!!!!」


ぎゃぁぁぁ!? なんてこと言いやがるんだ、この狐耳幼女は!?


「なんてこった、あの女、あんな小さな子にそんな事やらせてたのか!?」


「変態よ変態!! とんでもない変態女だわ!!」


ひぃぃぃっ!?

これ以上、やつに喋らせると取り返しがつかなくなる……!!

下手したら性犯罪かなんかで、牢屋にぶち込まれるかもしれん……!!


「毎晩、色んなところをペロペロしま……むぐっ……」


「オホホホホホホ!! 何を勘違いしてるのかしら、この子ったら……分かった! 一緒にいてやるから、もう黙ってくれ!」


まだ何か言おうとするヤエの口を塞いだ俺は、要求を了承するしかなかった。

ぐぬぬ……まさかこんな脅し方をしてくるとは……狐人族、恐るべし……。


「ほう? そうかそうか。では、よろしく頼むぞ、アヤノよ。クックック……」


自分の要求が通ったことで、ヤエは演技をやめ、不敵に笑った。

隠して俺は、町の人々に幼女をいたぶる変態女というレッテルを貼られた挙句、見ず知らずの、自称狐人族の姫の幼女まで養うことになってしまったのだった。


なんでこんなことに……神はなぜこのような試練を俺に?

……あっ、この世界の神ってベルザじゃん!

そうか、全て奴のせいか……!


俺のベルザに対するヘイトは、完全な八つ当たりでも溜まるのです。



コルを訪れてから二日が過ぎた。

その間、俺たちは低難度クエストを、制限を食らわないよう適度にこなした。


安定した収入を手にし、異世界ライフは盤石となる……はずだったのだが。


「やばい……金が底を尽きた」


金欠問題は、解決どころか悪化していたのだ。


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