42 サトスを出よう!
ギルドからクエスト制限を通告されてから約一週間が過ぎた。未だに制限は解かれていない。
今は、採取クエストをこなし、日銭を稼ぐ日々を送っている。
そんな状況の俺たちは新たな、そして大きな問題を抱え、頭を悩ませていた。
「さて、どうしようか……」
「確かに、これは由々しき事態ね……」
「そうですね。これは解決しないと、私たちの命に関わります」
「その通りだ、高宮。まさかこんなにも早く……」
サトスの町の宿屋、かれこれ二、三週間は過ごし、慣れ親しんだ一室。そこで、俺たちは事の重大さを再認識させ合っていた。
俺たちが抱える問題……それは--
「こんなにも早く、金が底を尽きかけるとはな……」
そう。低難度クエストの報酬で、荒稼ぎして手に入れた金だったのだが、もう残金がほとんどなくなってしまったのだ。
いや、断じて浪費したのではない。必要な武器や防具、宿代やその他諸々。ちゃんとした居住を持たない冒険者は、色々と金がかかるのだ。
しかし、普通にやっていればこうはならなかった。
それがなぜこうなってしまったかというと、それは全てクエストに制限を掛けられたのが原因だ。
他の冒険者が理不尽なクレームなんかせず、そしてギルド側がそれに応えなければ、俺たちの収入源が断たれることもなかった。
そうだ、全て奴らが悪い!
俺の職業が呪術師なら、躊躇なく呪っているところだ(残念ながら、この世界にそんな職業は無いが)。
あと、誤算だったのが採取クエストだ。
これの報酬額が俺の予想よりもはるかに安かった。
少なくとも一日分の食費くらいにはなると踏んでいたが、甘かった。普通の店の一食分で無くなる程度しか貰えないのだ。
……そんな訳で、俺たちの所持金は、今止まっている宿にあと二日も泊まれば消し飛ぶくらいしか残っていない。
それを賄えるくらい、採取クエストを受けようかとも考えたが、それは不可能な上に、またギルドから制限を掛けられたら今度こそ詰む。
どうしようかと考え、やがて一つの結論に辿り着いた。
「よし……この町を出よう!」
「「えっ?」」
「いいか? この町に止まっていても事態は好転しない。多分だけど、今掛けられてる制限が解かれることはないと思う」
「「………………」」
朱夏と高宮は押し黙った。おそらく、2人もそれは薄々感じていたのだろう。
「もう稼げない以上ここにいる意味はない。なら、金が尽きてしまう前にとっとと別の町に移ったほうが良いと思うんだ」
「……確かにそれはそうね」
朱夏は俺の意見に賛成のようだ。
あとは、高宮だが……。
「私もそれには賛成です」
話が早くて助かる。
「でも、どこのに行くつもりですか?」
「そうだな……ここから一番近いのは、この先の荒野を抜けた所にある"コル"っていう町だな。割と規模のでかい町だから、しばらくの生活拠点としては申し分ないと思うよ」
「分かりました。じゃあ、いつ行きましょうか?」
「準備が出来次第だな。早ければ今日中……遅くても明日には出たい」
金が尽きる前に……というのが理想だからな。
今の時刻は、おそらく昼前。サトスとコル、二つの町の間には荒野がまたがっているが、距離を考えると、今日中に着けないこともない。
「そうね、なら今日中に出ましょうか」
全員が納得して頷いたところで、準備を整え、いざ出発!
かくして俺たちは、数週間過ごしたサトスの町に別れを告げ、新天地へ向けて旅立ったのだ。
*
サトスを出てから数時間が過ぎた。
経過時間から判断すると、現在の俺たちは荒野のど真ん中くらいの位置にいるころだろうか。
その間、何体かの魔物と遭遇し、戦闘になったが、この荒野に生息するやつは、大して強い訳ではなく、危機に陥る……なんてことはなかった。
ここまではかなり順調と言って良い。
陽が沈むのもまた先のことだろうし、このまま行けば、今日中にコルに辿り着くのは確実だろう。
そう思っていた時、俺は、はるか前方から何かが近づいているのを確認した。
しかしそれがなんなのかは、距離があってハッキリとは分からない。
「おい、アレはなんだ?」
「えっ? ……何かしら?」
朱夏は、俺の指差す方向を目を凝らして見ていたが、俺同様分からないようだった。
「……あっ、あれは人間ですよ! それも3人くらいいます!」
高宮がそう叫んだ。
というか、目良いな。
こいつがアーチャーなら、さぞかし腕の良いアーチャーだったことだろう。……残念ながら、重戦士だが。
まあ、それはそれとして。
(また魔物か?)と一瞬身構えたが、どうやら魔物ではないようだな。
やがて、それとの距離が縮まると、高宮の言うように3人の人間の走っている姿が確認できた。
先頭を走るのは、子供だろうか? フードか何かを被っていて性別は判断できないが、体格的に、かなり幼いと推測される。
その少し後ろを、2人の大男が巨体を揺らして走っていた。
その光景はまるで--
「……追われてる?」
朱夏が怪訝そうに呟いた。それは、俺が抱いた印象と同じ物だ。
というか、目の前の光景を見たら、現代から来た人間なら大体がそう感じるだろう
1人の幼い子供を大の男2人が追いかけるという、現代日本なら確実に事案となるような光景。
頭の中に、「誘拐」、「人攫い」、「人身売買」などの似たような単語が浮かんでくる。
「ど、どうしましょう!?」
「た、助けないと……」
2人は、オロオロとそんなことを言いだした。
えー助けるの? もしかしたら、荒野のど真ん中で展開される子供と大人の追いかけっこかもしれないよ?
……冗談はさておき、本当に助けるつもりなのか?
この世界の法律とかよく知らんから、あまりヘタな事はしたくないんだが。
実は、これは合法的な行為で、俺たちの方が犯罪になるなんて事に……って、ああっ!? もう飛び出してらっしゃる!?
俺が尻込みする間に、2人は猛然と異世界の誘拐? 現場に駆け出していた。
朱夏と高宮は、3人の前に立ち憚り、男たちに対して、敵意を剥き出しにしていた。
朱夏と高宮の姿を認めた子供は、自分を助けてくれる人物と思った……かどうかは分からないが、2人の後ろに隠れ、プルプルと震えていた。
2人の男と少女が対峙し、ガンを飛ばし合う光景。
もうこうなったら引くに引けないと、俺もそこへ駆け出して行った。




