31 まさかの事態
緊急事態発生!
え〜、勇者・神代綾乃こと幸月望は、さっき勇者らしく格好良くキメ、颯爽と教団から抜け出そうとしました。
それなのに……
「まったく、黙ってここから出ようとするなんて何を考えているのです? ここ以上に安全な場所なんて無いというのに……」
いつだったか俺たちに施設を案内してくれたエミルをはじめとする信者数人が、呆れたような目で俺を見ていた。
その視線の先には、麻縄で身体を縛られた俺がいる。
いきなり捕まってしまいました。
……どうしましょう?
まさか施設の裏口でエミルとバッタリ鉢合わせするとは……
朱夏たちは逃げ出すことができたが、そのために囮になった俺はあえなく捕まってしまったのだ。
そして今、俺はエミルたちに連れられて、例の儀礼室に向かっている。
抵抗しようと思えばできるんだけど……冒険者でもない人に力を使うのは気が引けるんだよな。信者たち自身が悪い事をしているわけでもないし。
「さあ……もう二度とここから出ようと考えなくなるように、教祖様に"教育"してもらいましょう」
部屋の前に着くとエミルが目を細め、不気味に微笑んだ。
その教育は、本当の意味での教育なんですかね?
これは……もしかしなくても結構なピンチだ。準備したらここに戻ってくるよう朱夏たちに伝えているが、間に合うかどうか……。
「失礼します、教祖様。先ほど、このアヤノさんがここから脱走しようとしていましたので捕らえました」
エミルは、部屋に入るなりそんな事を言った。
「ほう……それはいただけませんね」
「ですので、教育していただきたいのです。そうすればアヤノさんもここから出ようなどとは、考えなくなるはずですから」
さっきから気になっていたが、教育てなんだ? 俺は、一体これから何もされるんだ?
そんな不安が顔に出ていたのか、教祖は爽やかに微笑み、口を開いた。
「安心なさい、これは儀式です。それにこれを味わえば、そんな不安など消し飛んでしまいますから」
嘘をつくな! 絶対安心できるような儀式じゃないだろ!
教祖は、何やら怪しげな呪文を唱えだした。すると、教祖の周りが紫の怪しい光に包まれ、それが晴れると手から粘液のような物が溢れ出した。
アレがダレルの身体をあんな風にして、そしてここから離れられなくした代物か……。
呪文を使ったということは、アレも魔術の一種なのか?
「……っ!? ち、ちょっとエミルさん離して……」
「ふふふ、あれを浴びたらとっっても気持ち良くなれるからね。だから少し大人しくしてね?」
エミルは、粘液を避けないようにするためか俺の肩を抱き、恍惚とした表情を浮かべ、耳元で囁いた。それを見た教祖は、昨日の夜のような不快な笑みを浮かべ、こちらに近づいて来た。
うわぁっ!! こっち来んな、気持ち悪い!
……くそっ、もう何振り構ってられん! 力づくでもエミルを振り払って……。
教祖のあまりの気色悪さから、勇者としての力を出そうとしたその時--
「アヤノ!!!」
血相を変えたダレルが部屋に飛び込んで来たのだ。
「教祖様、おやめ下さい! アヤノには私からキツく言っておくので……」
部屋に入るなり、そう叫んで懇願するダレルに、教祖は例の微笑みを崩さず言い放った。
「ダレル、何を慌てているのです? これは儀式なのですよ?」
「で、ですが……」
「それに、遅かれ早かれ彼女には儀式に参加してもらうつもりでしたから。今回貴女がそれを阻止しても変わりませんよ」
どうやら、こいつは元から俺を引き込むつもりだったようだ。
リアルJKを卑猥な儀式に参加させるなんて日本では100%事案だ。いや、この世界でも事案には変わりないか。
「………………」
「やれやれ、どうしてこの少女にだけ拘るのかは分かりませんね。しかし、どうやら貴女もまだ"教育"が足りていないようですね」
教祖は呆れたように首を左右に振り、近くにいた信者に目で合図を送った。すると、指示を受けた信者たちがダレルを取り押さえた。
「くっ……放しなさい! このっ!」
助けに来た割にあっさり捕まりすぎてはないですか?
「そこで大人しくしていなさい。さて……邪魔が入りましたが、"教育"を続けましょうかアヤノさん」
「だ、ダメ! アヤノっ!!!!」
信者たちに掴まれながら、半狂乱して叫ぶダレル。彼女の脳裏には、粘液を浴び、快感に乱れる綾乃の姿が浮かんでいるのかもしれない。
しかし、彼女の想像通りにはならなかった。
「きゃあっ!?」
「なっ……!?」
儀式の間に、驚嘆の声を上げる男女の声と人が倒れこむ音が響く。
倒れ込んだのはエミル。彼女は情けなく床に尻餅をついている。
そう、俺が勇者としての力を少し使い、彼女を振り払ったのだ。もう、力を振るうことを躊躇している場合ではなかったからな。
「バカな……どこにそんな力が」
教祖は、口をあんぐりと開けていた。さっきまでの余裕な笑みは消え、随分と間抜けな顔をしている。
「驚いているところ申し訳ないけど、無抵抗でやられるわけにはいかないからね。あと、ついでに教団の方もぶっ潰してやるよ」
なんか俺とんでもないことを言っているような気もするが、無視する。それは、教祖のやつに好き放題言われたことが原因だからだ。全て教祖が悪い。
「ふ、ふざけたことを……」
俺の物言いが癇に障ったのか、教祖は再び呪文を唱え始めた。
また怪しげな光が発生する。すると、突然、ダレルやエミルを含む信者たちが目の色を変えて、俺に襲いかかって来たのだ。
「ふひゃひゃ! さあ、やってしまいなさい我が下僕たちよ!!」
気味の悪い笑いを上げ、教祖は勝ち誇ったかのような顔で叫んだ。




