30 ダレルの真意
翌日、俺は昨日の夜の事を朱夏たちに黙っておく……なんてことなどなく、即行で話した。
自慢じゃないが、俺の口は信じられないくらい軽いのだ!
「う、ウソでしょ!?」
「そ、そんなことが……」
2人は、そのことを信じられないといった様子で驚愕していた。
まあ、無理もないよな。
今まで、教団がそんな怪しげなことやってる雰囲気なんてまるでなかったわけだし。いきなり言われても信じられないのは、当然かもしれない。
「そ、それで……綾乃はこれからどうするつもりなの?」
動揺した様子の朱夏がそんなことを俺に聞いてくる。
それに俺は--
「この教団がやっている事は、どう贔屓目に見てもまともじゃない。……少なくとも私には、そうとしか見れなかった。だからね……私はここから逃げようと思うんだ」
そう答えた。
「「……は?」」
2人が素っ頓狂な声を上げる。
えっ? そんな変なこと言った?
「ち、ちょっと待ってよ……じゃあ、子供たちの依頼はどうするのよ?」
「もちろんそれは覚えてるよ。ダレルは引きずってでもメイのところに連れていくつもり。だけど、ただ連れていくだけじゃ何も変わらないと思うんだよね」
「それじゃあどうすれば良いんですか?」
「この教団をぶっ潰すんだよ」
「「…………はぁ!?」」
今度は、デカイ声で驚愕を露わにする2人。
どうでもいいけど、あんまりデカイ声出すなよ。他の奴らに聞かれたらどうする。それと、さっきからリアクションが一辺倒だぞ?
「そうならないのが理想だけどね。でも、昨日の夜のダレルの様子からして、あそこで何をやっていたのか知っているみたいなんだよね。だから、私たちをここから逃がそうとしてたみたいだし」
「けど、彼女自身が逃げようとする意志は全く感じられなかった。おそらく、真実を知っていても逃げようと思わない……何か依存するような物がここにはあるんだと思う」
「でも、それを一々探ってる暇はないから、その元からぶっ潰そうってことだよ。そのための準備のために一旦ここから出ようって言ったんだよ」
そう説明したが、2人は微妙な表情だ。特に高宮は「綾乃さんがこんな脳筋に……」とショックを受けていた。
誰が脳筋だ、失礼な。
俺はそんな2人を強引に引き連れてあるところに向かった。
それは、ダレルのところだ。
*
ダレルは、施設の一室にいつものように1人でいた。
俺たちに気づいた彼女は、灰色の物憂げな瞳でこちらを見つめた。
そんな彼女に俺は一言。
「この教団を出ることにしました」
「そう……賢明ね」
「その前に一つ訊いておきたい事があります」
「……なにかしら? 教団の秘密なら教えられないわよ。出ていく貴女たちには知る必要のない事だから」
それも可能なら教えてもらいたかったが、今訊きたいのはそれじゃない。
「いえ、そうではなく訊きたいのはメイちゃんという娘の事ですよ」
「………………」
ダレルは、無表情のまま沈黙したしているが「メイ」という名前を出した瞬間、僅かに目が動いたのを俺は見逃さなかった。
反応するということは、メイのことを気にかけていないわけではなさそうだ。
「……メイを……娘を知っているの?」
ダレルは声を絞り出すように言った。その声は僅かに震えていた。
「ええ、まあ。それで、訊きたいのは、どうしてメイちゃんを置いてここに居るのか? ということです」
「なんでここに居るのか?……決まっているでしょ? ……ここから離れられないからよ」
ダレルは、震えるように言うと、突然、着ていた服をはだけさせた。
「!? ち、ちょっと……」
それに朱夏が驚きの声を上げ、高宮は、目を手で覆って隠した。いきなり目の前でストリップショーを始められたら、そうなるよな。
俺もそうしようと思ったんだけど、咄嗟に動くことができなくて、視線の向きもそのままだ。
決して、意図的に目を逸らさなかったんじゃない。これは、仕方のないことなんだ。
そう自分に言い聞かせてダレルの身体に集中した。
しかし、俺の期待した光景は現れなかった。露わになったダレルの肌は、不気味な、黒い模様で覆われていたからだ。
な、なんだこれは……?
「アヤノ……貴女も昨日の夜見たでしょ? あそこにいた女が皆、粘液に塗れていたのを。あの液体を浴びた女の身体には、こんな風に模様が浮かび上がってくるの。そして、こうなった女は、ここから離れることができなくなる」
「ど、どうして離れられなくなるんですか?」
いつの間にか手を外していた高宮が尋ねる。
「あれを浴びずにしばらくいると、頭がおかしくなりそうなほど苦しくなるのよ。酷い時は、発狂してしまうこともあったわ」
リーダーが言っていた、ダレルの様子がおかしくなったというのは、これが原因だったのか……。
それにしても……これはいわゆる禁断症状じゃないのか?
「発狂してしまったら何をするか私にも分からないわ。それこそ、娘に危害を加えるかも……そうならないためには、ここにいるしかないの。でも、ここに娘を連れてくることもできない」
「娘を私と同じ目に合わせるわけにいかないから」とダレルは、付け加えた。
そうか……そういうことだったのか。
だが、まだ疑問はある。
「その液体は、教祖が?……」
「ええ。でも、あれが何なのかは私には分からないわ。ただ、まともな物でないことだけは確かね」
正体は分からないか。でも、身体にあんな不気味な模様が染み付くなんて日本でも聞いたことがないぞ。
「……メイちゃんの元には、戻るつもりはないんですか?」
「話聞いてたかしら? 私は戻れないのよ」
「戻るかどうかじゃなく、戻る意志があるのかないのかを訊いているんです!」
「…………戻れるのなら、メイの元に帰れるなら私だって帰りたいわよ!」
ダレルは語気を強めてそう言った。
そうか。その意思を確認できたならいい。
「分かりました。メイちゃんの元に帰してやりましょう」
「……どうやって?」
「それはその時になってからのお楽しみです」
それだけ言うと俺はダレルに背を向け「あんなこと言って大丈夫なの?」と言うような表情の朱夏たち2人を連れて、教団出口に向かった。




