26 引き受けましょう、飯のため!
空き地から場所を移して、ここは、子供たちの中の1人の家。
その一室では、俺たち3人とリーダーをはじめとする子供たち数人がいる。他の子供たちは、部屋に入りきらなかったので、帰されていた。
「……それで、教団から親を奪い返すってどういうこと?」
俺がそう言うとリーダーが1人の女の子に顔を向けた。
顔を向けられた女の子は、居心地が悪そうに俯いた。どことなく気弱そうな印象だ。
「こいつの母さんが少し前からヘンな宗教にハマって、家に帰ってこなくなったんだ」
リーダーの話によると、この女の子--メイは母親と2人で暮らしていたらしい。
生活は裕福ではなかったが、優しい母親と仲睦まじく暮らし、幸せだったようだ。
しかし、ある日の境にして、優しかった母親が変わってしまったという。そしてそれは、町に新しくできた新興宗教団体"ネウム"のセミナーに、母が知人に誘われてからとのこと。
それから、毎日決まった時間に怪しげな呪文を呟き、時には、叫び声を上げて発狂することもあったらしい。
そんな日々がしばらく続いたある日、母親は、メイに「教団に行く。すぐ戻る」と言ったきり、帰ってこなくなってしまったようだ。
どうすればいいのか分からなくなった彼女が、仲の良いリーダーたちに相談し、皆で案を出し合った結果、冒険者を雇うことにしたらしい。
そして、今に至ると……。
取り敢えず、経緯は解った。それにしても、そんな怪しい教団があるなんてなぁ。
でも、それなら--
「どうして君たちは、冒険者を雇おうとしたの? こういうのは衛兵とかに相談した方が良いと思うけど。 この町にもいるんでしょ?」
「それは、最初にやったよ。でも、その教団が実際に何か悪いことをしてるわけじゃないし、メイの母さんも誘拐とかじゃないから、衛兵も取り合ってくれなかったんだ」
リーダーはその時のことを思い出したのか、悔しげに歯噛みして首を横に振った。
この世界の警察組織も日本と大して変わらないんだな。またいらない異世界知識が増えた。
「それは解ったよ。でも、冒険者を"雇う"つもりだったなら、あんなことする必要なかったんじゃ……?」
あれのおかげでアホみたいに走らされたからな。
初めから、そう言ってくれれば話だけは聞いたのに。
「俺たちみたいなガキがただ頼んでもナメられるに決まってんだろ! それに金もあんまりないし……だから、絶対に断れないようにしようと思ったんだよ!」
それで、カードを盗んだのか。でもこいつらも、盗みにまんまと成功した上に人質までとれるなんて思っても見なかっただろうな。
しつこいけど、なんで転んだんだよ朱夏ァ……。
あ、因みにだけど、朱夏は今現在も縛られて、子供たちに捕まえられている状態だからね。関係ないけど一応言っとく。
さてと……彼らの動機や依頼の内容も分かったけど、これはちょっとどうかなぁ……。
隣の高宮の様子を見ると、彼女も微妙な表情をしている。
おそらく、高宮と俺は同じことを考えているだろう。
メイの母親がおかしくなって、いなくなってしまったのは、多分……いや、確実にその教団が絡んでいる。でも、実際に犯罪にあたることをしているとは限らないし、例えしていたとしても、それを証明する証拠は無い。
それに、母親は自分の意思で教団の元に行ったんだ。それを無理矢理教団の所から連れ戻す大義名分も無い。
仮に連れ戻すことに成功しても、教団側が衛兵にそのことを訴えたら俺たちの方が犯罪者になってしまう。失敗してもそれは同じ。
つまり、リスクが高すぎるんだ。俺たち自身のやることを正当化する材料は無いから、しくじったら犯罪者扱いされても文句は言えない。
俺たちが渋っていることを察したのか、リーダーが語気を強めて言った。
「なんだよ、できないのか!? 俺たちのところにはカードと人質があることを忘れてるんじゃないだろうな!?」
人質……ねぇ…………。
「もしも私たちが断ったら、朱夏をどうするつもりなの? 仮に、何か危害を加えるつもりなら……ちょっと許せないかなぁ」
俺が目を細めて、脅すように言うと、子供たちはビクッと身体を震わせた。
この様子だと、そこまでのことをするつもりはなかったようだ。
「それに、いざとなったら力尽くで奪い返せるよ? 私たちは駆け出しだけど冒険者なんだから、子供の君たちに負けるほど弱くはないと思うけど」
「ああ、でも別に力尽くでやる必要もないか。衛兵にこのことを言えば、それで解決するもんね。そうしたら、君たちは確実に罰せられることになるよ」
そう言うと、子供たちは皆、黙りこくって俯いてしまった。
あ、ちょっと脅かしすぎたかな? ご、ごめん。
おい、朱夏、高宮。お前らまで、なんでそんなに引いてんだよ。大人気なかったとは思うけど、別に間違ったことは言ってないだろ。
その時、リーダーが絞り出すように喋り出した。
「強引なことをしたのは謝る……。でも、これしかなかったんだ……た、頼む! いや、お願いします! 少ないかもしれないけど報酬は払うから、メイを……メイの母さんを助けてください!」
リーダーは俺たちに頭を下げて、必死に懇願してきた。絞り出すような声は、最後の方にはかなりの大声になっていた。
彼らは彼らなりに必死で友達を助けようとしていたみたいだな。でも、こればっかりはなぁ……。
「も、もし俺たちの頼みを引き受けてくれるなら、解決するまで俺の家に泊めてやるよ。広場で聞いたけど、姉ちゃんたち金無いんだろ? メシももちろん出るからおね……」
「依頼を受けましょう、マイマスター」
「「綾乃『さん』!?」」
俺はリーダーが言い終わる前に、彼の元に跪き、忠誠を誓うようなポーズをとった。
俺が依頼を引き受けた瞬間、涙ながらに「ありがとうございます! お願いします!」と礼を言うメイ。ああ、なんて可愛いんだ。
俺が独断で依頼を受けたからか、朱夏たちは、「ちょっと!?」という表情をしているけど気にしない。
こうして俺たちは、子供達からの依頼を引き受け、その間のメシと宿をゲットしたのである。




