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15 望 in 綾乃

「拝啓、お父様、お母様。

突然ですが、息子が娘になったら驚きになるますか? ……何を言っているのか分からないでしょうが、私にもこの状況をどう処理して良いのか分からないのです。

突然、女神を自称する怪しい女に、無理やり魂の転移なる妖しげな魔法をかけられ、目が覚めるとあら不思議。何ということでしょう。あんなに冴えない風貌をしていた男子高校生が、校内外問わず絶大な知名度と人気を誇る絶世の美少女に早変わり〜。

……何の因果で俺がこんな目に合うのでしょうか。でも、ワタシハゲンキデス。

不肖の息子(娘)より」



俺こと幸月望が神代綾乃になってから数日が経った。

あの後、俺/私(ややこしいので、これから一人称は俺にする)は、目覚めの知らせを聞きつけた級友たちに連れられ、マルムといった国の偉い手などに謁見をした。

そして、勇者の目覚めを祝うパーティーに強制参加させられ、あっちへこっちへと引きずり倒されるなど、目覚めてそれほど経っていない少女への気遣いなど、一切感じられないハードスケジュールを味わうこととなった。


ただでさえ慣れない環境な上に、いきなり別人にされたことも加わり、パーティーが終わった後は、泥のように眠った。


それからも、朝は、自分を慕う級友の女子たちから起こされ、昼は、榊やその他、綾乃の友人や国の兵士たちなど、訓練時、休憩時問わず誰かしらと会話をし、夜は、部屋に来た女子たちとガールズトークに付き合わされるといった日々を送った。

その間、数多くの人間と関わったが、奇跡的に、俺の言動に違和感を覚えた人はいないようだ。


そうした日々の中で、俺は、ある大きな問題に直面していた。

それは、……人と関わりすぎて、ストレスが溜まる一方なのである。


そういえば……日本にいた時から、朱夏以外とは、殆ど話してなかったな……。


コミュ力の無い人物が、いきなり、人が集まる中心に放たれた先に待つのは、"死"のみである。冗談ではなく。

人との濃密な関わりに慣れてない奴が、四六時中、人と関わる状況に陥ったら、それはとてつもないストレスだ。


そんなことを考えながら、城の廊下を歩いていたら、また女子たちが集まってきた。お前ら、他に行くとこないのかよ……。


奇跡的なことに、まだ誰もこの神代綾乃に違和感を覚えていない。俺は、綾乃のこともよく知らないので、ラッキーと言えばラッキーだ。


女子たちに囲まれ、きゃい、きゃいと高い声から発せられる言葉に、目を虚ろにして、生返事をする俺に声をかけてきた人物が。


「すまない、皆。少し綾乃を貸してくれないか?」


窓から差し込む陽光に照らされ、キラキラと輝いているのは、イケメン聖騎士こと、榊だった。

女子に圧倒的支持を持つ榊の登場に、俺を取り囲んでいた女子たちは、ボルテージが上がったのか、さっきよりも声が高く大きくなって行く。

あー、耳がキンキンする。


榊の申し出に女子は一切逆らわず、俺を供物のように差し出した。

やめろ、お前ら。グイグイ押し出すんじゃない!


「ありがとう。じゃあ、綾乃。ちょっと外に出ようか」


結局、供物として捧げられた俺は、榊に連れられて行く。

背後から、女子たちの黄色い悲鳴が聞こえる。こりゃ、帰ってきたら質問攻めにあうな……。そんなことを想像して、俺は心の中で思い切り溜息を吐いた。



外に出た俺たちは、取り留めのない会話を続けていた。何だよ、連れ出したくせに大した用事なかったのかよ。

内心毒づきながら、俺は、必死に綾乃を演じて話し続ける。こいつは、綾乃と同じくらい頭良いからな……ちょっとでもボロを出したら、気づかれそうで怖い。


「綾乃……君が寝たきりになってから、俺はずっと後悔していた」


ふと、榊がそんなことを言い出す。


「後悔?」


「ああ、あの時、俺が付いていればこんなことにはならなかった筈なのに……。君の側にいられなかった自分が情けない!」


俯き、顔を悔しそうに歪める榊に、俺は気の利いた言葉が思いつかずに混乱していた。


「そんなに気にしなくても大丈夫だよ。幸月君が助けてくれたし」


咄嗟にそんなことを言ってしまったけど、これって自画自賛にならないか? あー、恥ずかしい。


「……幸月? ……ああ、そうだな……」


それを聞いた榊は、一瞬不機嫌そうな顔になったが、すぐに笑顔を浮かべた。


「確かにその通りだ。あいつも"たまには"役に立ったということだな」


"たまには"を強調する目の前のイケメンは、またも若干不機嫌そうな態度をとった。

えっ? もしかして、俺、こいつに嫌われてたのか? 嫌われるほど交流もなかった筈だけどな……。


そんな褒めているのか貶しているのか、判断に苦しむ物言いにイラっときたが、顔には出さない。顔に出すな!ポーカーフェイスだ俺!

そんな葛藤と闘う俺の……綾乃の肩を、榊が急に手をかけた。


「!?」


「綾乃! 俺は、今度こそ聖騎士として、君を守ってみせる。誓うよ! ほら、天国の幸月も俺たちを見守ってくれている筈だ!」


並みの女性なら卒倒必至のイケメンの「守ってみせる」宣言。生憎、綾乃の中身は、男の俺なので効果は無いが。

まあ、それは良いとして……。なぜ、そこで「天国の俺」が出てくるんだ?


わざわざ、死んだ級友を持ち出す必要はな……はっ! そうか! こいつ、死んだ俺を出しにして、綾乃を口説くつもりか!? もしそうだとしたら許せん。なんたる蛮行。死者を冒涜する行為だ。


俺は、肩に置かれている榊の手を払い落とす。

そして、乱暴に手を払われ、困惑する榊に向けて一言。


「……死んだ人を出しに使うなんてサイッテー!! こんなので上手くいくと思った? ないから! そんな訳ないから!」


「ち、ちがっ……、俺はそんなつもりじゃ……」


此の期に及んでまだ言い訳をしようとするとは、なんと見苦しい。


「言い訳なんかいらないよ! あんたなんか、命懸けで守ってくれた幸月君の足元にも及ばないから! ……それじゃ、さよなら。"榊君"」


言い訳を遮られ、嫌いな相手と比べられるというダブルパンチで、榊は余程ダメージを食らったのか、よろめき、膝を地につける。

トドメに、苗字呼び。しかも、君付け。ずっと下の名前で呼ばれてた相手にこれはめちゃくちゃ効くだろ?


「まっ、待ってくれ綾乃! は、話を……話を聞いてくれ!」


後ろで、まだ何か喚いているが、無視して城に戻る。

は〜、清々した。ざまぁ。

……アレ? 俺、さっきから性格悪くない? きっと、ベルザに無理やり魂の転移をされたから、精神に異常をきたしているな。うん、間違いない。やっぱり、ベルザって最低だね。


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