14 くたばれ! クソ女神
「そう言えば……さっき、俺のしたことが余計なことって言ったよな?」
「ええ、言いましたけど?」
「あれはどういうことだ? あの2人が無事なら問題ないんじゃないか?」
あの時、俺が助けなかったら、2人は死ななかったとしても無傷ではいられなかっただろう。
仮に、綾乃が負傷した場合は、勇者としての力を俺に移すとして、来てすぐに戦力外になって、まともに訓練を受けてない俺がすぐにその実力を発揮できるとは思えない。
それなら、俺が死んで、綾乃がこれまで通り勇者として闘ったほうが、こいつにとって徳だろうに。
しかし、ベルザは、ウンザリしたように両手を上げ、首を交互に振っている。
ここまで1つの動作で人をイラつかせることができるのもある意味すごいな。こいつのことは、これから心の中で"イライラ製造機"と呼ぼう。
「そうですね。確かにあのお二人ー特に勇者であるアヤノが無事なら良かったのですがね」
含みのある言い方をしたベルザは、どこからともなく水晶玉を取り出し、俺に覗くよう促した。
「これをご覧ください」
何なんだ一体……? 訝しむように水晶を覗くと、そこにはなんと、神代綾乃の姿が映し出されていた。
綾乃は、豪華な天蓋付きのベッドに寝かされていて、まるで起きる気配がなかった。
「彼女は、貴方が亡くなってから、数日間そうしたままなのです」
「え? でも、神代には魔弾は命中してなかっただろ。なんで眠ったままになってんだよ?」
「そんなの私は知りませんよ。まあ、仲間が目の前で死んだのがショックだったとかじゃないですかね。というか、原因はさほど重要ではないんです」
「じゃあ、何なんだ?」
サラッと流したけどさ……さほど重要ではないってなかなかな物言いだな。こいつは本当に女神なのか?
「1番は、現状、彼女が勇者としての責務を果たすことができないこと。2番目は、そうなった場合、代わりを務めるはずの貴方がすでに死んでしまったことです」
ほうほう、なるほど、なるほど。つまり、勇者の資格があるやつがいなくなったと……。俺の死は、本当に無駄死にだったんだな……。命を賭して必死に行動した結果がこれかよ。
「何とか神代を起こす方法とかないのか? これで無駄死は、正直、泣きそうになるんだが……」
「フフン、別に方法がないわけじゃないですよ。何せ私は、人々から崇め奉られる女神様なのですから!」
いやいや、そんなに無い胸張られましても、どうリアクションすれば良いのやら……。
女神を自称しているが、こいつが残念なやつだという俺の認識は間違ってないだろうし、期待できないな。
「訊きたいですか? 訊きたいですか?
……どうせ碌な考えじゃないだろうが、ここで機嫌を損ねたら、俺の処遇に関わるかもしれん。現に、さっきボソッと言った文句にあそこまでキレ散らかしたわけだし。
希望通りに訊いてやるか。
「はいはい。その方法とは何でごぜーましょーか?」
「ムッ、何だかおざなりですね。このまま貴方を地獄行きにしてもいいんですよ?」
こいつ……。そんな軽い感じで脅迫しやがって。しかも、「地獄に落とすぞ」とか小学生かよ。
仮に俺を地獄行きにしたら、こいつも困るはずなんだけどな。まあ、忘れてるんだろうけど。
「誠に申し訳ございません。どうかその方法とやらを教えてくださいませ」
「良いでしょう」
お、この位なら合格点なのか。
「その方法とは……貴方が神代綾乃として人類を守る勇者になればいいんですよ!」
「………………は?」
意味が分からない。言葉の意味は理解できるが、それ以外が全く理解できない。
「イマイチ理解できてないようですね。つまり、貴方の魂を寝たきりになっている神代綾乃の中に送り、貴方が神代綾乃になって魔族どもと闘うんですよ!」
「……え、えーと……」
「ムムッ、どうやら信じてませんね? 魂を移し替える事なんか、私クラスになると訳無いですよ! ……いくつか天界規約を破ってしまいますが……そこは、チョチョイと隠蔽するので問題無しです!」
ここまで自身たっぷりに言うのだから、魂の転移は、ベルザにとってさほど難しい事ではないのだろう。
それよりも、こいつの今の発言を録音して、進行している奴らに聴かせてやりたいのだが、この感情は、どうすれば治るのだろうか。
「可能なのは分かったけど、いろいろ問題があるだろ。……ほら、その……俺は男で、神代は女なんだし……」
「もぉー……そんな事どうでもいいじゃないですか。オスかメスかだなんて些細な問題ですよ!」
「さあ、行きますよ! とっとと準備してください!」と、ベルザは俺を急かす。
いや、何の準備すれば良いんですかね?
「じゃあ、行きますよ? 勇者として頑張ってくださいねー!」
「はぁ!? ちょっ、まっ……」
ベルザは、俺の意見などまるで訊いていないようで、俺を中心に巨大な魔法陣を展開させる。
ちょっと待ってくれ! せめて話を聞け!
……そんな声を発する暇なく、ベルザは、魔法陣をあっという間に完成させる。
すると、魔法陣から強い光が発生し、俺は、それに一瞬で呑み込まれた。
「行ってらっしゃーい!! 無事に魔族との戦争に勝った暁には、元の姿に戻して上げますからね! ご武運を〜!」
「おい! 待ってくれ! ……待てって!! こぉんの……クソ女神がぁぁぁぁ!!!」
そんな捨て台詞とともに、抵抗することもできずに俺は、現世に強制送還されることになった。
*
「んっ……」
何やら強い衝撃を受けた俺は、目を覚ました。心なしか、随分と地声が高く感じるが、気のせいか?
目を覚ました視線の先には、見慣れない景色があった。それは、今まで見たこともないほど豪華なベットの天井だ。
天蓋付きのやつなんて初めて見たぞ。
「綾乃? 目を覚ましたのか!? 」
見慣れない景色や物に混乱する俺に、そんな声が掛かった。
声のする方向へ振り向くと、そこには、そこらのアイドルが霞んで見えるほどのイケメンが。
なぜ、榊煌成が俺の側に? そういえば、さっきこいつは、俺のことを見て綾乃といったな。
「良かった! 心配したんだぞ、綾乃!」などと言って榊は、俺を抱き締める。
うおっ!? イケメンのご尊顔が目の前に!? 俺が女子なら、間違いなく堕ちてるぞ。
だが、残念なら俺は男でそっちの趣味も無い。というか、目を覚ましてすぐにイケメンに抱きしめられるとか、罰ゲームでしかない。
俺は、榊の手を払うと、「死ね! この腐れイケメンめ!!!」そういって、顎にアッパーをかましてやった。
「ブフッ!?」という情けない声を上げ、床に倒れこむ榊。
その声を聞きつけ、兵士や級友たちが部屋になだれ込んでくる。
榊を介抱するやつや俺を見て、手を口に当て驚くやつもいる。
「何に驚いているんだ?」と思いながら、ふと、部屋にある鏡が目に入った。
そこには、冴えない男である俺の姿はなく、この世のものとは思えないほどの美少女が映し出されていた。
その美少女とは神代綾乃、その人である。
「……はぁぁぁぁぁぁ!?」
そんな絶叫が部屋に響き渡った。その声は、やはり聞き慣れない美しく透き通るものだった。
どうやら、本当に俺は、神代綾乃になってしまったようだ。どうしてこうなった。




