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男爵令嬢と王子の奮闘記  作者: olive
5章:永久の別れ
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55.☆決意

ディーゼル編の本当に最後で、補足部分。久しぶりの更新がすごく短くてすみません。



 一番最後にこの場所に来たのは、薬草採集の為にシャナを連れてきた、あの日だった。あの時よりも季節が少し進んでいるせいか、今レインの目の前に広がる自然の景色もそれに合わせて少しだけ様変わりしていた。


 王家所有の裏山に一人やってきたレインは、馬を近くに繋ぐと、崖の辺りまで慣れた様子で歩いていく。そこには以前はなかった柵が設けられていた。シャナがここから落ちた直後に急いで作らせたものだ。そこに体を預けながら、レインは夕陽で赤く染まる王都をぼんやりと眺める。

 

 今、彼の頭の中を占めていることは、この世からいなくなってしまったディーゼルと、そしてシャナのことだった。

 

 前世での記憶を引き継いでこの世界で出会ったレイジとサツキ――――ディーゼルとシャナ。けれど二人に与えられた運命は残酷で、ディーゼルは彼女を置いて先に死んでしまった。

 それでもシャナは強い心でその現実を受け止め、今はシャナとしての人生を、ゆっくりだが着実に歩んでいこうと努力している。


 ディーゼルから受け取った手紙には、はっきりとはシャナへの想いは書かれてはいなかったが、文面から彼の強い気持ちは痛いほど伝わってきた。

 シャナをレインの為に利用する気持ちと、そしてレイジとディーゼルとの狭間でもがき苦しみながら、それでもどうしようもなく惹かれていくディーゼルの気持ちが。本当は自分の手でシャナを笑顔にしたかった、けれど与えられた状況がそれを許さず、全てを呑みこんだディーゼルは身勝手なディーゼルという人間として死に、レインに彼女のこれからを託した。


 きっと自分にできることなど、微々たることだ。当事者ではないレインには、シャナの傍にいて、彼女に寄り添って、話を聞いてあげることくらいだろう。

 彼女のレイジへの想いは、おそらくレインが思っている以上に強くて深いものだ。それはレイジがいなくなったところで薄れるものではない。サツキではなくシャナとしての人生を歩んでいくものの、彼への愛情は一生彼女の心に刻まれたままだ。譬えレインが側にいたところで、シャナに恋慕の想いを抱く自分の想いが報われることなど、一生涯ないかもしれない。

 

 それでも、レインは、誰かに言われたからではなく、自身の意志でシャナの傍にいることを選んだ。


 ただ、それに当たって心に決めたことがある。

もしも自分がシャナに異性として好意を持っていると本人に気付かれてしまったら、きっと彼女は戸惑い、悩み、苦しむ。レイジがいなくなっても尚彼を深く愛する彼女は、レインへの想いに応えられないからだ。

 だから、今胸に抱いているシャナへの気持ちは絶対に告げないと、ディーゼル同様に鍵をかけてしまっておこうと決心した。

 そしてシャナの一番の友人として、彼女と共に歩んでいこうと。

 その中で、もしもシャナがシャナとして自身の生きる意義をどこかで見いだせた時には、おそらくレインの存在は必要なくなる。その時は彼女を自由にしようと思う。


ディーゼルは、シャナをレインに生涯縛り付けて、レインを守るよう画策したようだが、レインはその思惑に乗るつもりはない。

シャナは自分の人生を生きるべきだと思うからだ。


 そうなる為には、まず、二人を引き合わせることになった全ての原因であるこの体質をなんとかしなければならない。いつまでも自分の体質に振り回され、異性に怯えているようでは、来るべき時が来た時にシャナも安心して自分の元から離れられないだろう。

 勿論シャナが自分の元に来る前から、体質改善と女性恐怖症を治すべく力を尽くしてきたが、結果に至らずこんなことになってしまったのだが。


 だが、同じ体質を持っていると予想されるダルモロ国のアナン姫が、それを上手に操れるのだ。だったらレインだって同様に、自身のフェロモンをコントロールすることだって不可能ではないはずだ。

 方法など分からないが、なんとしても自分でそのやり方を突き止めるしかない。


「悪いな、ディー。俺はお前の思惑通り、彼女を一生縛り付けておくつもりはない」


 決意に満ちた瞳で、懐かしい彼の髪と瞳の色を彷彿とさせる空を見ながら、レインは空の向こうにいるかもしれない友人に届くように力強い声で宣言した。

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