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男爵令嬢と王子の奮闘記  作者: olive
5章:永久の別れ
45/61

45.親愛なる、アネッサとの再会

2015年11月修正済み

 私たちが会場に着いた時は、開始時刻を大幅に過ぎていたため中は既に多くの人で賑わっていた。


「すごいですね、皆さん」

「ああ」


 今日はクライシス邸での、ディーゼル様主催の仮面舞踏会の日。

 殿下のご公務が長引いたため、少し遅れての会場入りになった。

 私とレイン殿下は各々派手な仮面を被り、共だって会場へと入った。広いはずの中はかなりの人数で埋め尽くされていた。勿論、皆思い思い仮面で顔を覆っている。


 ちなみに私の仮面は白地にパールやダイヤをあしらった、比較的シンプルなもので、目の周りだけを覆うタイプ。対する殿下は、濃紺を基調にしたシックな感じの造りのもので、こちらは顔の上半分をすっぽりと隠している。

 これならば、彼がレイン王子だとは参加者も気が付かないだろう。


「まずはディーのところへ行こう」

「そうですね」


 二つ返事で頷くと、私たちはディーゼル様がいると思しき場所へと足を進める。

 え? なぜ皆が仮面を被っている中でディーゼル卿のお姿がどこなのかすぐに分かるのかって?

 簡単だ。会場内に異様に人が集まっているところがあり、なおかつその中心にいたのは一際派手な衣装と仮面で着飾った赤髪の青年だったから。

 どう考えたってその男が本日の主役以外に考えられない。


 人込みをかき分けどうにかこうにか辿り着くと、ちょうど周囲に群がっていた人々が散った時だったので、レイン殿下はすぐさま彼に歩み寄っていった。

 仮面越しでも私たちの事はすぐに分かったのか、ディーゼル様もすぐに気が付くと、殿下同様にこちらに歩み寄り、殿下と固く抱擁を交わした。


「おう! 来てくれたのか」

「当たり前だ。お前の記念すべきこの日に顔を出さない馬鹿がどこにいる」


 そう言って互いに体を離した後も楽しそうに笑い合った。


「あーあ、これで俺もまた一つ歳をとっちまったよ。嫌だねぇおじさんへの道を歩むっていうのは」

「俺と二つしか変わらないくせに、何を馬鹿なことを言っている」

「いやいや、しか、じゃなくて、二つも、離れてるんですよ? 俺がお前の歳のときはもっと精力的にあれやこれやできてたのになぁ。今じゃあせいぜい一晩で3人がやっと………」

「公衆の面前で何破廉恥なことを言おうとしているこの年中発情期!」

「そりゃあそうでしょう! 人間は他の動物たちと違ってそういう風な仕組みになってるんだから。昔はさ、もっとこうベッドに女の子達数人侍らせてさ。あ、勿論生まれたままの姿だぞ? で、その後にあれこれお楽しみをだな………」

「これ以上いかがわしい発言したらそこの肉の固まりを穴という穴に押し込むぞ」

「きゃー! その発言なんかやらしー!」

「……成程。問答無用で押し込まれるのがご希望か。ならば望み通り、俺の手で直に、余計なことなど何も言えんようにその口を塞いでやろう」

「ごーめんって、冗談! 冗談だ!! だから頼むからそこの一番大きな固まりをフォークで突き刺して持ってこようとしないで!!」


 ………会話の内容はともかくだ。

 こうして二人のやり取りを見ていると、本当に仲がいいんだなと心の底から思わされる。殿下も普段と違ってなんだか生き生きしているし。

 親友、か。女運には恵まれなくとも、友人には恵まれたらしい。

 ま、かといって、私がこのディーゼル様と仲良くできるかどうかはまた別問題ですけどね。言っておきますが、私まだ、この身に向けられた様々な行動、許してませんから!

 しかし私は大人なのでそんな怒りはぐっと胸の内に抑え、自然なスマイルを浮かべると、いまだ肉を入れる入れないで揉めている二人の元へ行き、極めて大人な対応でディーゼル様と挨拶を交わす。


「ディーゼル様、この度はおめでとうございます。心よりお喜び申し上げます。私の妹、アネッサも招待して頂いたみたいで……。お心遣い感謝致します

「これはこれは。いえいえ、こちらこそ来ていただきましてありがとうございます。妹君とはもうお会いになられましたか?」

「それがまだなんです。私たち、先ほどこちらへ到着したばかりなので」

「仕事が少し押してな。本当に到着したばかりなんだ。とりあえずはお前に挨拶を、と思って先に寄らせてもらった次第だ」


 ディーゼル様と話していると、殿下がひょこっと口を挟んだ。ちなみに右手には銀色に輝くフォークが。……まさかあの会話、本気だったのか?

 そんな風に王子様の右手に頭が言っている間にも、ディーゼル様はしばらく、なにやら考えるように会場内を見回した後、ややあって再び口を開いた。


「………妹君は既に会場に到着しておりますよ。確か………あそこにいる、目にも眩しい鮮やかな黄色のドレスを身に纏った、輝く黄金の髪をたなびかせた女性がそうです」

「………」


 見えるのは後ろ姿だけだ。確かに背格好や体つきからアネッサに近いものは感じる。髪の色もアネッサと同じ金色だ。

 だがしかし、なぜ後姿だけで断言できる。金髪の女性は他にもたくさんいるし、まして皆、面が割れないよう仮面を着用しているのだ。

 驚きのあまり言葉の出ない私に、レイン殿下はため息をつきながら更なる爆弾を投下する。


「驚く気持ちはわかる、シャナ。だがディーはこと女性に関しての観察眼は絶対的に鋭い。………お前の妹だけではない、会場にいる全ての女性が誰なのか、お前の事だからどうせお見通しなんだろう?」

「当たり前だ。仮面で顔を隠す如きで相手が誰なのか見破れない、そんな俺ではない! ま、野郎に関してはお前以外はさっぱりだがな、はははは」

 

 ここまで来ると驚きを通り越して、むしろ不気味だ。まさか彼のスキルがここまでとは。

 根っからの女好きというのは伊達ではないらしい。


「俺はしばらくここにいる。顔の見えないこの機会についでだから他の人間にも接触して、色々話をしてみる。お前は妹のところに行ってきたらいい」

「えと、いいんですか?そうさせていただいても」

「構わん。大丈夫だ、仮面を外されない限り、お前がいなくとも一人で何とかなる。だから遠慮せずに行って来い」


 ……いいのかな?気持ちとしては今すぐアネッサのところへ駈け出したいほどなんだけど。

 でも、仮面をしてたらフェロモンもきかない、って殿下が自分で言ってたしなぁ。なら、お言葉に甘えてもいいかな? うん、いいよね!


「分かりました、ありがとうございます! では、私ちょっと行ってきますね」

「ああ、楽しんで来い」


 もう私の中に迷いはなかった。


 殿下と、ついでにアネッサの居所を教えてもらったディーゼル様にもお礼を言うと、私は彼らに背を向けてアネッサらしき人物との距離を詰めにかかる。

 やがてすぐ手の届くところまでやって来た私は、おそるおそる声をかけてみた。


「あの……」


 果たして、振り向いた相手はまさしくアネッサだった。仮面してても分かる。だって私たちは今まで一緒に生まれてから育ってきた姉妹なんだから。

 アネッサもすぐに私と認識してくれたようで、目があった瞬間手を口に当てて少しだけ固まると、いきなりせきを切ったように動き出すと私を抱きしめた。


「お姉様!! お姉様、お姉様!!! 会いたかったですお姉様!」

「うん、私も同じ。元気そうでよかったよ」

「お姉様ー!」


 こうして私たち姉妹は会場のど真ん中で、再会の喜びから、何度も何度も抱き合ったのだった。

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