17.結婚式は、嫉妬の嵐
2015年5月修正済み
フル装備の兵士たちに導かれ城を出ると、おとぎ話でおなじみの白馬の美しい馬車が待っていた。
これに乗って私は今から王家の婚姻が行われる、この国でも一番の歴史を持つ教会へと向かうのだ。
そして、馬車のところに立っていたのは勿論、今日のもう一人の主役である、レイン殿下だ。
私のものと対となる真っ白なタキシードを身に付けたレイン殿下。そのお姿はやはり美しいと再認識させられる。神々の造りし芸術品、とか言われるのも頷ける。
やばいな、これで私が隣に立ったら私と王子の顔面偏差値の差が際立つじゃないか。それで余計に女性たちの嫉妬心に火がつくパターンだろう、これ。
はぁぁ、と心の中でため息をつくと、私は殿下に差し出された手をとり中に入る。
びくりと一瞬殿下の体が跳ねたことには、とりあえず気にしないふりをする。 その後すぐにレイン王子が乗り込むと、馬車はゆっくりと発車した。
横に並んだ私たちだけど、互いの間に会話はなく、そのまま私たちは何も言わないまま教会へと到着した。
記念すべきレイン殿下の結婚とあって、国中から一目見ようとこの教会の周りには民衆が集まって来ている。
窓にはカーテンがかかり外は見えないようになっているが、聞こえてくる声から察するに、たくさんの人たちがいるのだろう。
「扉を開きます」
兵士の合図とともに、ゆっくりと扉が開かれる。先に外に出たのは殿下の方。降り立つと、国民に向かって大きく手を振った。
私も殿下を見習い、優雅な仕草で馬車から降りると、外で待っていたたくさんの人たちに笑顔を振りまく。ついでに差し出された殿下の腕に自分の腕を絡ませたら、その瞬間王子の体が気のせいのレベルではないくらい、大きくはっきりとびくっと跳ねた。
女嫌い、だったよねこの人。
おそらく何故私が彼の相手に選ばれたのかも知っているはずなのに、それでも尚怖いのか。
ちらりと横目で様子を伺えば、緊張と恐怖のせいなのか、体がわずかに震えている。眉間にはよく見れば皺が寄り、何かをこらえているかのよう。そして私の方には目を向けない。
「殿下」
人々が私たちの為に作ってくれた花道を通り教会に向かう道すがら、そっと呼びかけてみると、それに反応しようやくこちらを向く王子。
「ご安心ください。ご存じかとは思いますが、私にはフェロモンはききません。そんな訳で殿下にこれっぽっちも興味はありません。他の女性とは違います。本当はこうして腕を組むのもお嫌でしょうが、我慢してください。私も同じ気持ちです。だから」
そして私は王子に力強く笑って見せた。
「とりあえず、二人で頑張ってこの場を乗り切りましょう」
「…………」
……あ、あれ、反応がない。ぽかんとした顔でこっちをじっと見てくるだけ。私なりに緊張をほぐそうとこんなことを言ったんだけど、逆効果だった?
けれどその後、ふっと力が抜けたのか、眉間のしわもきれいさっぱりなくなった表情で少しだけ笑ってくれた。
「ああ、よろしく頼む」
ぼそりといった声は小さかったけど、私の耳には確かに聞こえた。相変わらず表情はにこやかではないけど、震えは止まったみたいだ。
やがて辿り着いた教会の中へと続く扉。
ぎぎぎと音を立てゆっくりと開かれた先には、これでもかってくらい大量の貴族たちがひしめき合っていた。彼らの無数の視線を浴び、私と王子は一歩一歩中へと歩みを進めていく。
……あああ、この感じめちゃくちゃ久しぶりだ。早速感じた敵意のこもった目に、昔の記憶を呼び起こされた。っていうか数が多すぎる。目で人を射殺せるんじゃないかってくらい殺意こもってるよみんな。
彼女たちは誰もかれも私よりも数段に美しい方々。けれどその顔は私への敵意と殺意に満ちていて凶悪。それに加え、憎い私の事なんて目にも入れたくないけど、でも横にいるレイン殿下の美しいお姿は目に焼きつきたい、でもそうすると横の私も一緒に目に入るから…っていう葛藤もありありと浮かんでいる。
それらが絶妙にミックスチャーされていて、結果、とんでもなく面白い顔になっていた。
…思わず噴き出しそうになったので慌てて視線を別の方に向けようとするも、どの子もどの子もみんなそんな感じなので、どこを見ようもない。それでも私は必死に笑いの神様を胸の内に抑え、こらえながらやがて神父様の待つ広間の終着点へと辿り着いた。
この席順は、入り口側から爵位の低い男爵家、それから子爵家伯爵家侯爵家となり、先頭に公爵家と王様率いる王家の皆様という並び。我が家は男爵家だけど花嫁の家ということで先頭に近い位置に席はあった。
父様は嬉しそうな顔で、母様は少しだけ涙ぐんで、アネッサは不憫そうな目で私を見ていた。あれだけ自分より格上の貴族様との結婚にあこがれていたアネッサだったけど、今回の騒動で女の嫉妬と恐ろしさを知ったらしい。自分は慎ましやかに競争相手の少ない殿方と結婚したい、と今までの私みたいなことを言うようになった。そうでしょう、アネッサ。ようやく姉の言ってたことが理解できたか。それが分かったもらえただけでもこの結婚は良かったよ、うん。
そしてそのアネッサ達の前には、この結婚を裏から手をまわした張本人がいた。公爵家嫡男だもんね、この位置だわなそりゃあ。
そういえば私が前回顔をぼっこぼこにしたせいで傷も引かず、女の子たちには全くモテなくなってしまったという噂が回っていたディーゼル卿。
私はあれ以来会っていないのであの顔がどうなったのか知らないんだけど…。
ドキドキと期待に胸ふくらませて見てみると…。
私が直接攻撃を喰らわせた頬には、くっきりと消えない傷跡が残っていた。
海賊なんかについている、ばってんのマークのような跡。それがまた妙に……似合っている。ワイルドさにさらに磨きがかかったみたいだ。
大理石の床に打ちつけた反対側はすっかり綺麗になってる。
つまり、なぜかイケメン度が上がってる始末。なんだこれ、何あの男。傷すらも己のステータスにするってどういうこと。私は改めてディーゼルという男の恐ろしさを身に染みて感じた。
粛然とした雰囲気の中、神父の声だけが広間に響く。時折それに私や王子が「はい」と答えるのみ。それからこれは元の世界でもおなじみ、指輪の交換も済ませ、私たちは再び元来た道を戻ると広間の外に出る。
これで終わりではない。この後、外に集まっている国民の皆様に結婚のご報告と挨拶のためバルコニーに向かうのだ。
そこには先ほどよりも更に多い、とんでもない数の群衆が歓声を上げ私たち二人を出迎えてくれた。
まあ、絶世の美男子と名高い王子と、身分違いの平凡な容姿の男爵家令嬢の結婚だ。
ディーゼル卿作:レイン殿下とシャナ嬢の恋物語はシンデレラストーリーとして語り継がれ、今民衆の間では最も熱い話題なのだと。そんな私たちの姿を一目見ようと、本当に多くの国民が集まってくれたらしい。
……真実は全然違うのにね。
それでも私たちは、こうしてわざわざ足を運んでくれた国民に向かって絶えず手を振り続けた。
しかし、頭の中ではこれから先の事を必死に考えていた。
ボコボコにされたディーゼル卿の行く末→怪我がいい感じに作用し、まさかのイケメン度アップでした。シャナ嬢残念!




