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男爵令嬢と王子の奮闘記  作者: olive
1章:始まりは突然に
15/61

15.☆全ては王子を守るため

2015年4月修正済み

 部屋に着いた途端レインは再びまくしたてようとしたが、その前にディーゼルに止められる。


「お前の言いたいことはよく分かってるさ。だからちょっと落ち着こうや」

「落ち着けるか!」


 ディーゼルのその言葉には無理があった。


「なんで礼を言いたい、って言ったところから、話が大きく結婚まで飛ぶんだよ。意味が分からないだろう!しかも俺の知らないところで話は既に回ってたんだろ?これで落ち着けって方が無理があるだろうが!しかももう周囲には根回し済みって…。俺の知らないところでっていうのが腹が立つ」

「仕方ないだろう。だってお前先に知ったら絶対嫌がるじゃねぇの」

「当たり前だ」

「ま、でも、先に言わなかったのは謝るよ。だがこういうのは急いだ方がいいと思ったんでな。どうせお前は嫌がるんだし、だったら用意が整ってからでいいかなって思った訳よ」


 ディーゼルの言う通りである。だったら先に外堀を埋めて、もうなかったことにできない状況を作ってから話を持っていった方が早い。そうすればレインも断れない。

 まあいくら嫌がろうとも彼は王族。結婚は必要なことだし国の事を考えれば最終的には受け入れていたとは思うが。

 むしろ外堀を必要としていたのは、相手の方である。つまり相手の女性が断れないようにといった意味合いの方が強い。


「…………俺が余計なことをお前に言ったせいか」

「余計じゃねぇよ。そのお陰で相手が見つかったんじゃねぇか。そもそもあの舞踏会は、お前の伴侶を見つけるのが目的だったんだ。その舞踏会後にあのシャナ嬢の事が出てきたっていうことは、お前があの娘を選んだことに他ならんだろうが。あれだけの女嫌いのお前が唯一漏らした女性の名だぞ?目をつけるのは当たり前だって」


 それからディーゼルはレインの頭にポンと手を置いた。


「実際お前が言っていたあの女、お前の体質を考えた上では最も適した人間だぞ?この目で見てきたが、いやぁ今まで俺たちの周りにいないタイプだ。お前のフェロモンがきかないのも頷けるよ。それは一晩中一緒にいてなんの害も加えられなかったお前も感じてるだろ?」

「………………」


 レインの知る女というものは、自分を見て頬が赤く染まり、目が少し潤んで、夢見る心地になっている。

 で、次の瞬間なぜかそれがぎらついた飢えた獣のような血走ったものに変貌し、抵抗むなしく押し倒される…。

 そこに感じるのは恐怖のみ。あまりの短時間での変貌ぶり、しかもほとんどの女性がそう変わってしまうことに対し何かが変だと感じたレインに下されたのは、彼が強烈なフェロモンなるものを持っているのが原因だという診断結果だった。しかも対処法はなく、頑張って逃げなさいと医師が言うにはあまりにひどい投げっぷり。

 どんなに厳重な警備でも、彼女たちには意味がない。

 彼への恋心を暴走させているのが原因なのか、身体機能も飛躍的にアップされ、もはや獣の如き変化を遂げるのだ。

 かといって彼女たちに非はない訳だから、殺すこともままならない。生け捕りというのが一番難しいのだ。


 特に同世代の女性はそれが一番強く発揮されるのか、今までに何度も危険な目に遭った。だからこそ初めて出会った同い年くらいであろうシャナにも、強い拒否反応を覚えてしまったのだが。

 そう、最初こそ今までの経験から怯えてしまったが、彼女は確かに違っていた。何が、と明確に口で説明できることではないが、強いて言えば纏っている空気だろうか。


 自分が王子だと知られても、特に変わらず接してくる。追いかけられぐずぐずしていたレインを一喝すると衣装ダンスに押し込み、匿ってくれた挙句何の見返りも要求してこない。その上熱でダウンした彼を看病までしてくれ、気が付けば名前すら告げずにいなくなっていた。

 こんな女性は生まれて初めてだった。だからこそ己の非礼に気付き、直接感謝と謝罪をしたいと望んだのだ。女性相手にこのようなことを思うのは生まれて初めての事だった。そして、彼女には自分の体質がきかないということも、この時点ではうっすら気付いていた。


 そんな彼女と自分との結婚の話を聞いた時、首謀者は思い浮かんだし同時にその人物の考えも瞬時に理解した。

 

 そろそろ結婚という話は、城内でも出ていたことだ。だが彼の両親である国王陛下と王妃は、その身に宿す体質とそれにより出てきた女性恐怖症と体に起こる拒否反応から、すんなり相手の女性は決められないと悩んでいた。

 下手をすれば彼の命にかかわることだ。だがいつまでも放置していていい話ではない。このままではおそらくこの国の有力貴族の娘か、もしくは近隣諸国の王家の姫君辺りを形式上だけでも取るしかなくなるだろう。その矢先に現れた女性だ。

 この男たちがそれを逃すはずがないと。


「……だがそんな短期間で結婚話を強行して、相手方には何も言われなかったのか?」

「コキニロ家自体は断然乗り気だったな。まあ相手のシャナ嬢は……。大丈夫だ、俺がきちんっっっと話通しといたから」


 にっこりと笑うと(ただ顔が歪みすぎて笑顔が笑顔と認識できないが)指で丸印を作って見せるディーゼル。その様子に、長年の付き合いであるレインは嫌な予感がした。


「おいディー、お前まさか強引な方法とったんじゃないだろうな?」

「え?強引???」


 相手のコキニロ家のご令嬢。熱でおぼろげにしか記憶はないが、あれだけ不遜に扱った自分に対しいい印象はないだろう。

 そんな彼女が喜んで話を受けたとは到底思い辛い。その証拠に、ディーゼルのこの態度だ。大丈夫とは言いながら目が泳いでいる。わずかな動きだが、レインは騙されない。


「正直に言え。どうだったんだ」

「え―――」


 問い詰められたディーゼルははぐらかそうと明後日の方を見るが、そんな彼の顔をぐいっと強引に自分の方に向かせると、強い口調でもう一度同じことを口にした。


「なあ、どうだったんだ」

「………」


 ここで無言を貫き通せるディーゼルではない。降参とばかりに両手を上げると、白旗を振った。


「嫌がってたよ、もう心の底から。…別にレインを嫌ってるとかじゃなくて、そもそもあまり結婚に対して意欲がない感じだったな。だがその辺は俺が一生懸命説得したから大丈夫だって!心配するな」

「大丈夫な訳あるか」


 しかし予想通りの答えに、レインは大きなため息をついた。

 

 説得したからといって、人の気持ちがそう簡単に変わるものではない。というか心底嫌がっている相手を無理やり説得するなんて何事だ。自分が意に沿わない相手と結婚させられるのは立場上仕方がないとこれでも覚悟しているが、相手はそのような責務を感じる必要のない男爵家の娘だ。それなのにこちらの都合で話を強引に推し進めるとは…。

 正直、己のフェロモンがきかない女性が結婚相手だったら肉体的にも精神的にもすごく楽なので心惹かれないことはない。だが、自分の抱えている問題に、無関係の、しかも拒絶を示す人物を巻き込む訳にはいかない。


 となれば、レインの命じることは一つ。


「おい、お前の力で全部なかったことにしろ」

「…え、マジで?」


 突然の命令に一瞬ぽかんとするディーゼル。


「公爵家始まって以来の才覚を持つ男だろう?それくらい朝飯前だろ」

「いやまあ俺は優秀だし?そりゃあそうですけど…」


 うまいことなかったことに、できないことはない。しかしそうなると問題が生じる。


「じゃあお前の結婚相手はどうするんだ?このままだと本当に隣国の姫辺りになるぞ?この前から使者がしょっちゅう来てたからな」


 その言葉に王子の顔があからさまに歪む。

 隣の国の姫も、他の女性と何ら変わりない。おそらく結婚すれば今以上の悪夢が彼の身を襲うに違いない。考えただけでもぞーっとするし、寒気も震えも止まらない。

 だがそれはそれだ。仕方がない。自分がこのような身の上に生まれたのが悪いのだ。運が悪いと。自分が我慢すればいいだけの話じゃないか。


「構わない。それで話を進めろ」


 だからレインは苦渋に満ちた顔で、腹の底からそう絞りだしたのだが。


「そうか、分かったよ……って、なると思ったら大間違いだから」

「は?おい、だが」


 反論しようとするレインだが、残念ながらこの男はその余地は与えてくれない。レインが言葉を言うより早く一気に自分の想いをぶつけた。


「いいか、俺はな、本気でお前が死ぬんじゃないかって心配してるんだ。今だって話だけなのに既に顔色真っ青だし?それに…、ほら、手の先まで緊張で冷えてるぞ?そんな状態のお前のいうことなんて聞けるかよ!」


 ディーゼルの言葉に否定できず、思わずレインは視線を逸らす。しかしそれに構わずディーゼルは言葉を続ける。


「いいかレイン。あのシャナが来たら、お前のその悩みは全て解決するんだ。お前は安心して国政に携われる。身の危険はないからな」

「だがその相手は」


 尚も食い下がるレインに対し、ディーゼルは強い口調で言った。


「それもこれも!お前が毎回ぶっ倒れるのが悪いんだろ?……なぁレインよ。お前、年齢が上がるにつれ倒れる回数増えてきてるだろ?今年に入って何回生死の境をさまよった?確かにお前の言ってることは正しいし、俺のしてることは間違ってる。だがな、そういうのは自分のフェロモンをコントロールしてから言え」

「!?」


 それは、幼い頃からの課題だった。どうしたら女性に襲われないようになるんだろう。フェロモンという己の体から出てくる物質が原因なのであれば、それを自制して量を調節することも可能なのでは。

 そう思い今まで幾度となくチャレンジしてきたが、できなかった。

 というか何をどうすればいいのかさえ分からないのだ。

 そうこうしているうちにますますフェロモンは分泌されるのか、群がってくる女性の数は増え、それに伴い体調を崩すことも増加していく。


 抑えるやり方が分からないなんて、情けない。自分の体なのに。それが悔しくて、歯がゆくて、でもどうすることもできない。だからこそ、ディーゼルの言葉にレインは何も返せなかった。

 だって彼は、やり方は間違っているとしても自分を守るためにやったことなのだから。守られるしかできない自分にとやかく言う権利は与えられていない。


「いくら命令だろうと、毎回毎回死にそうになっているお前のいうことは聞けない。それにこの件は陛下も了承済みだ。だからお前に止める権利はない。話は以上だ」


 レインは俯いたまま、何も言わない。否、言えないのだろう。感情を押し殺した低い唸り声だけが聞こえてきた。そんなレインに一瞬だけ目をやると、ディーゼルは無言で部屋を去った。


 部屋を出たディーゼルは、足をどこかに進めながらつらつらと考えていた。

 

 やはりレインには悪いことをしたと思う。ディーゼルの発した言葉に傷ついてもいたし。それでも王子を守るのが彼の使命なのだ。レインの考えは理解できるが、本当に、待ちに待った相手なのだ。あの娘を徹底的に調べていくうち、ますます手に入れたいと思った。

 だが、今回の一番の被害者は他でもない、シャナだ。それは彼も分かっている。 しかも、あまりにも性急さを求めるあまり、かなりの無茶をしてしまった。

 普段ならもう少し慎重に事を進めている話だ。無論本音を言えば彼も、そういう方法を選びたかった。…そうしてたら己の自慢である輝かしい美しい顔も傷つかずに済んだかもしれないのに。

 

 だが、かといって己の行動に後悔もしていない。人として最低な行為だと自覚していてもだ。


 さて、今からそう時間はない。早急に準備にとりかからなければならないことが山程ある。もちろん結婚の準備もそうだが、他にも…。


「…これから忙しくなるな」


そう呟いたディーゼルの表情は、わずかに微笑んでいた。

はい、どこまでいってもディーゼルはだめだめです。でも、嫌わないで上げて下さい!…無理か(笑)

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