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男爵令嬢と王子の奮闘記  作者: olive
1章:始まりは突然に
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1.とりあえず、早く帰りたい

大変お久しぶりです。

仕事・体調がようやく一段落つきましたので、長年こちらにおいておりましたこの小説を修正・加筆し直そうと思っております。

2015年4月修正済み

 私には、前世の記憶がある。

 

 以前の私は日本という国で生を受け、平凡な家庭で育ち、平凡な容姿だったものの、誰もがうらやむ某大企業の御曹司と結婚した。しかし相手が相手なだけに苦労させられた。

 その彼、容姿端麗、家は世界的お金持ちで、仕事もできた。別に私は顔形とかお金に惚れた訳じゃなく、純粋に彼の人間性に惹かれたから結婚したんだけど…。私のようなぽっと出の明らかに自分より見劣りする平凡女が、彼の妻の座に落ち着いたのが我慢できなかったんだろう、私は多くの女性たちから嫉妬や妬みの視線を向けられ、この身に受けた嫌がらせの数も半端ない。

 

 それでもそれらをなんなくやり過ごし、その妻としての地位を一生賭けて守り抜いた手腕は、自分でも褒めてあげたいくらいだ。まあ結局は相思相愛で、お互いにお互いの事、べた惚れだったからよかったものの。

 正直、あんな苦労は二度と御免だ。

 

 だから私は決めたのだ。

 この世界では、絶対にあんな苦労、するもんか、と。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 

 「きゃー、あそこにいるのは、スワレ様じゃない!?やっぱり噂に違わず、凛々しいのね」


 うっとりとした視線で壁際で談笑している青年を見つめながら、妹のアネッサがそう感嘆の溜息を漏らす。


「…あら、あちらにはフェルナン様まで!はぁ、さすがはこの国でも有数の貴族様。纏っているオーラが高貴だわ!」


 今度は反対方向に立っていた、黒髪の青年貴族様に目を向けると、アネッサはキラキラした瞳でそう呟いた。


「ねぇ、姉様もそう思うでしょう?」

「え、あー、うん、そうね、まあいいんじゃない?どうでも」


 が。反対に、姉である私はその問いかけに、まるで興味がないかのような声色で適当な返事を返す。

 あ、まるで、ではないか。まるっきり興味がない、と言い直そう。

 だって本当に正直どうでもいいから。

 

 前世の記憶を持った私が次に生れた先は、地球でも日本でもない場所。いわゆる異世界で、シュレン大陸っていう大陸の南部にどでんと位置するシェルビニア国で男爵の爵位をもつコキニロ家の長女として生まれた。もらった名前はシャナ。前の世界の名前とは特に共通点はない。

 強いて言うなら、前世の私の方がもうちょっとこう…、腰がくびれてて、胸も豊満だったというくらいか(決して記憶を改ざんしている訳ではない、断じて違う)。

 

 家は昔から商売を生業としている生粋の商売人の家系。その功績が認められて、祖父の代に王家から男爵家を賜った、いわば成り上がり貴族である。


 今日は、この国の未来の国王、レイン殿下が成人を迎える記念すべき日を祝う舞踏会が城で行われるということで、爵位を持つ人々がこの城に訪れていた。

 もちろん、爵位の上では一番下の位に当たる私たちもその例に漏れず、今夜の舞踏会に参加している。

 

 普段だったらこんな面倒くさい社交場の参加は、難癖でも何でも付けて極力参加しない私だけど、今回ばかりは仕方がない。なにせ殿下の成人を祝う、めでたい催し物だ。

 参加を辞退しようものなら反逆罪で訴えられるかもしれない。

 

 そんな訳で、渋々出席する羽目になった私だけど、ほとんど社交界へ顔を出したことがないので、正直居心地が悪い。

 久しぶりすぎりこういう公の場は、正直辛い。ドレスは確かにきらびやかで美しいけど動きにくいし、コルセットは呼吸困難になりそうなくらい苦しい。靴はヒールが高くていつ転ぶかとひやひやさせられる。

 いつも着ている軽装が、たった数時間前まで着ていたけど既に懐かしい。


 あぁ、早く終わらないかな、これ。そして一刻も早く帰りたい。まだ肝心の王子が現れていないにもかかわらず、私の頭は既に帰宅モードである。

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