表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
調香師は時を売る  作者: 安井優
思い出の香り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

161/232

祝杯

 マリアがシャルルの家に来てから、初めて四人がそろった夕食だった。マリアの作ったラタトゥイユやパエリアが鮮やかにテーブルを彩る。

「マリアちゃんは本当に料理が上手ねぇ」

 ソティが目を輝かせてマリアを見つめる。その瞳には「お嫁に来てくれないかしら」としっかり書かれていて、マリアは曖昧に微笑んだ。


「それにしても、こんなに作るのは大変だったんじゃないのか」

 アーサーはしげしげと眺めている。普段料理をしないというから、なおさら特別なもののように見えるのだろう。

「普段、一人ではこんなに作っても食べきれないので。むしろ、いつもは食べられないものを作れて楽しいです」

「まぁ! マリアちゃんって本当に良い子ねぇ」

「本当にね」

 ソティに相槌(あいづち)をうつのはシャルルで、マリアがアーサーに助けを求めれば、アーサーはクツクツと肩を揺らした。


 ソティの記憶が戻ったお祝いである。シャルルが人数分のグラスにワインを注げば、準備完了だ。

「それじゃぁ」

 アーサーがグラスを持ち上げると、ソティがにっこりと笑う。

「みんな、ありがとう」

 ソティの言葉とともに、リビングにはチンと小気味良い音が響いた。


 ワインを一杯飲み干したところで、アーサーが涙をこぼした。

「兄さんはお酒が弱くてね。それに、結構涙もろい」

 シャルルはそっとマリアに耳打ちする。

「おい、聞こえてるぞ! 私は、涙もろくなんかない!」

 アーサーはヒックとしゃっくりをしながら、シャルルを見据える。シャルルは肩をすくめた。


「母さんの! 記憶が! 戻ったんだぞ!」

 嬉しくないのか、と問われれば、シャルルは苦笑する。

「もちろん嬉しいよ。でも、ほら、僕の分まで兄さんが泣いてくれているから」

「シャルルは昔から泣かないわねぇ」

 ソティはグビグビとワインを飲み干していく。どうやら、ソティは酒に強いらしい。アーサーの酒の弱さは父親に似たのだろう。

「シャルルさんの小さいころって、どんな感じだったんですか?」

 マリアが(たず)ねると、ソティがぐいと身を乗り出した。


「興味ある?」

 しまった、とマリアは思わず顔をしかめる。興味がないといえばウソになる。だが、それは恋愛感情的な意味ではない。断じて。

「ふふ。シャルルは、昔からいい子だったのよ。頭も、運動神経も良くてね。父さんに似たのか、器用だし、優しくて、落ち着いてるでしょう? 今も昔も変わらないわ。本当に、本当に! 独り身なんて……信じられないくらい……」

 ソティの声はだんだんと小さくなり、最終的にはボロリと涙をこぼした。アーサーの涙もろさは、母親似らしい。


「母さん。飲みすぎだよ。ほら、落ち着いて」

 シャルルは席を立つと、優しくソティの背中を()でる。

「マリアちゃん……シャルルと結婚してくださらない?」

 ずるずると鼻をすすりながらもなお、ソティはマリアに懇願(こんがん)する。

「シャルルさんには、もっと良い方がいらっしゃるかと……」

 マリアが眉を下げれば、アーサーが再びしゃっくりを一つ。目が完全に座っている。


 アーサーはその目をマリアに向け、マリアは思わず息を飲んだ。

「マリアさん。シャルルが、君がいいと言っているんだ」

「へ?」

「兄さん!!」

「そうなの?! シャルル!! それは本当?!」

 爆弾を放ったアーサーの体がグラリと揺れる。真っ赤な顔がゴテンと後ろへ(かたむ)き、

「アーサーさん?!」

 直後、アーサーは眠りについてしまった。


 その後、シャルルはアーサーをベッドへ運び、マリアもまた、泣きながら嫁に来ないかと懇願(こんがん)するソティを自室まで介抱した。

「片づけならやりますから!」

 マリアがリビングへ戻ると、先にリビングに戻っていたシャルルが食器を洗っていた。シャルルは気が()きすぎる。そうでなければ、騎士団長など(つと)まらないのかもしれないが。

「気にしないで。マリアちゃんには迷惑をかけちゃったし」

 シャルルは困ったように微笑み、マリアもまた、つられてほほ笑んだ。


 アーサーの言葉のせいか、二人の間には珍しく沈黙が流れる。どちらともなく意識している。特にマリアにとっては、考えるな、という方が無茶な話だ。

(アーサーさんも酔っていらしたし……冗談、よね)

 マリアはブンブンと頭を振って、食器を一枚ずつ重ねていく。


「ここに置いておきますね」

 マリアは運んできた食器をそっとシンクの脇において、少しでも早くその場を去ろうとすぐさまリビングへ(きびす)を返す。

 もちろん、そんなに簡単には、シャルルが逃がしてくれるわけもない。


「マリアちゃん」

 マリアの方には背を向けたままで、マリアの名を呼ぶ。

「さっきのこと……」

「私なら気にしてませんから! むしろ、私なんかがシャルルさんに、なんておこがましいくらいで!」

 シャルルの言葉を、マリアはつい早口で遮ってしまう。シャルルは食器を洗う手をとめて、自らの手についた半透明な泡を見つめる。


 パチン、と泡が一つ(はじ)けた。

「本気だよって、言ったらどうする?」

 ゆっくりと、美しく振り返ったシャルルがマリアを見つめる。

 ふわり、ふわり。シャルルが振り返った(はず)みで、彼の手からは小さな泡がいくつか空中へと舞い、チラチラと七色に揺れた。


「冗談、じゃ、ない……ですよね」

「残念ながらね。全く、兄さんもやってくれるよ。もっと、格好よく告白するつもりだったんだけど」

 シャルルは肩をすくめて笑う。

「僕は、マリアちゃんが好きなんだ。心から。地位や、役職は関係ない。もちろん、家柄もね」


 マリアは視線をさまよわせる。顔が熱い。遅れて酔いが回ってきたかのように、マリアの顔はじんわりと赤みを帯びていく。

「シャルルさ……」

「返事は、急がないから」

 穏やかで優しい声は、いつもよりも少しだけ熱を帯びている。


 マリアが顔を上げると、そこにあったのはシャルルの笑み。

 マリアにはその笑みが、この世で最も綺麗なもののように思えた。

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


ソティの記憶が戻った楽しいお祝い! と思いきや……最後の最後でまさかの衝撃の急展開です!?

マリアとシャルルの関係がこれからどうなっていくのか……続きもぜひぜひお楽しみに♪


少しでも気に入っていただけましたら、評価(下の☆をぽちっと押してください)・ブクマ・感想等々いただけますと、大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ