109、お互いに感謝を
伊織を家まで送ってから片付けをして、風呂に入ってひと段落したあたりで、机の上のスマホが震えたのを確認した。
スマホの画面には『カエデ』の文字が表示されていて、楓からメッセージが送られてきている事がわかる。
カエデ 「今から話せるかな?」
おう?どうしたんだい楓ちゃん。
旭 「おーけー、何話すん?」
カエデ 「通話でいいかな…?」
な…んだと…?
旭 「おーけー」
カエデ 「ありがとう!」
おいおいおい…女子から電話が来るのか…?
やべっ、変な手汗が…ふきふき…。
「…」
…来なくね?
あれ、これって俺からかけるのが正しいのか…?
トゥントゥントゥントゥントゥントゥン♪
「っ!」
通話ボタンを押そうとした瞬間に画面が切り替わった。
楓からの着信だ。
通話ボタンを押してスマホを耳に当てる。
『…も、もしもし…?』
「あ、ども〜」
『あ、うん、こんばんは…』
「お、おう」
『…』
「…」
え、どうすればいいの?
今の俺に、話題なんてないよ?
『…ふふっ…なんか…変な感じだね』
「ん?」
『さっきまで会ってたのに、電話で話してる…』
「…あぁ、言われてみれば確かに」
クスクスとかわいらしく笑う楓の声が聞こえてくる。
「それで、話って?」
『あ、うん、その、お礼を言いたくて…』
「お礼?あぁ、今日の会の事?あれ、ほとんど陽葵が用意したから俺、何もしてないよ?」
『あ、それもあるんだけど…』
「ん?」
それも?他に何があるのだろう。
『その…今年一年、ありがとう…』
「今年?あー今年ももう終わりだもんな」
よく考えたら、今年も残り数日なんだな。
なんか、色々あったなぁ…。
『旭くんがスーパーで『関わってくれてありがとう』って言ってくれたけど…それは、わたしもだから…』
「お、おう」
『旭くんがいなかったら、わたし、こんなに楽しめてなかったよ?…もしかしたら、ずっとひとりぼっちだったかもしれないし…』
「楓…」
『だから、旭くん!ありがとう!』
「お、おう…」
なんか、こうやって真っ直ぐにお礼を言われると、ムズムズするな…。照れくさいと言うか…なんと言うか…。
『来年も…その、よろしくお願いします…!』
「こちらこそ、よろしく!」
そう言って俺は時計を確認する。
午後十一時過ぎ。
そろそろ良い時間だろう。
まぁ、俺はこの後高橋たちと朝まで通話しながらゲームなんだけど。
「んじゃ、終わるぞ?良い子は寝る時間だ」
『ふふっ…それじゃあわたし、悪い子だね』
「んん?!」
なにそれかわいい!…じゃなくて!ダメよ楓ちゃん!悪い子になっちゃ!
楓ちゃんが悪い子に…え、かわいくない?
『じゃあね、旭くん』
「おう、おやすみ」
そう言って楓が通話を切るのを待つ。
…あのぉ…切れないんですが…。
こういうのってマナーがあったよな?かけた方が切るんだっけ?かけられた方が切るんだっけ?
そんな事を考えていると、不意に耳に声が届いた。
『…ねぇ、旭くん』
「お、ん?どした?」
『…わたしね…す…』
ツー…。
通話が切れた。
え?なんて言おうとしたの?
俺はすぐさま、楓にメッセージを送りつける。
旭 「通話切れちゃったんだけど、なんて言おうとしたの?」
カエデ 「さぁ…なんて言おうとしたでしょう?」
えぇ…悪い子になっちゃったよ楓ちゃん…。
故意に通話を途中で切って、相手をモヤモヤさせる。
なんかこんなのがあるようでないような…。




