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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード3
77/85

FDは走り始める


 場面は再び切り替わり、こちらは琵琶湖の北端に位置する木之本インターチェンジ。タクシーは、滋賀銀行の入っている平和堂の駐車場で停車した。現状を目の当たりにした後席のRX-7は、不安感で一杯となってしまったようだ。


「ひええ~! 今から闇の中を走るのか……。マジで何にもない。ちょっと後悔している自分がいる」


「お客さん、まだ高校生でしょう? 夜道を独りで走るのは危ないよ」


 移動中に色々と身の上話をして仲良くなった初老のタクシードライバーが、自分の娘のようにRX-7を気遣ってくれた。制服姿で、軽装のままの彼女だから無理もない。まるで家出少女を送り出すかのようだ。


「ふふっ! おっちゃん、心配してくれてありがとう。私はこう見えても、トップクラスのクルマ娘だから大丈夫なんよ」


「そうか……事情は大体分かったけど、がんばってな、お嬢ちゃん」


 白髪頭のタクシードライバーは、RX-7に缶コーヒーを手渡すと、静かに元来た道へと引き返してゆく。


「さて、ここからはるか先、マキノ町のメタセコイア並木を目指しますか……」


 軽くウォーミングアップと柔軟体操を済ませたRX-7は、静かに息を吐いて夜風をはらむ茶髪を揺らした。自慢の心臓(2ローター)の鼓動は驚くほど静かだ。


「レディー…………GO!」


 出だしこそは緩やかであったが、一瞬にして全ての背景を置き去りにする滑らかな加速を続ける勇姿は、まるでシーケンシャルツインターボを効かせているかのようだ。


「藤ヶ崎トンネルを越えてゆくよ!」


 若干の下りになったトンネルを一気に通過したRX-7は、道の駅あぢかまの里を左折して山道へと方向転換する。ここからは人家も交通量も少ない。


「気持ちいいー……! けど怖すぎる! ライトくらい持ってくればよかった」


 道路はいよいよ暗くなり、外灯もまばらとなってきた。


「ひいいいいいい! あれは妖怪?」


 道路上にはなぜか、夜行性の動物達の楽園が広がっていたのだ。横断していく四つ脚の獣がいる。


「何なの? ぽんぽこタヌキ? 何でこんな所にいるの?」


 山林の側道にも時折、謎の人影のような姿が見られる。明らかに人間より小さい者達だ。


「ぎええええええ! ぎゃああああああ!」


 その正体は野生の猿の群れだった。お互いに叫び合う状況は、もはやレースどころではなかった。


「もうダメだ……心が折れそう。なんでこんなルートを選んだんだろ? 浅はかな私……」


 とうとう闇夜の中、センターライン上に座り込んでしまった。頭を抱えて止まると、余計に山から聞こえてくる怪鳥の不気味な鳴き声が耳に入ってくる。


「誰か……助けて……。ご、ごめん……ユーノス・ロードスター……今どこなの……?」


 その時、何と反対車線から正体不明の光が音もなく接近してきた。明らかに自動車やバイクではない。


「ひええええええ! もう腰が抜けて逃げらんない! お、お姉ちゃーん(FC)!」




 


 



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