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クルマ娘キュートレーサー  作者: 印朱 凜
エピソード2
20/85

トレーニング開始


 2000GTと放課後に再び会う約束を交わしたセリカは、誰もいなくなった教室で独り思い悩んでいた。


『はあ~……ランチアって、ほぼラリー専門に生まれてきたエリート中のエリートだよね。私ってば……パッと見では、スポーツができて足も速そうに見えるけど、いわゆる見かけ倒しなんだよね』


『しかも中身が平凡なのに、今まで特に努力もせず軟派に過ごしてきたから、尚更ダメダメだし……』


『何で会長は、そんな私に目を掛けてくれたんだろ? むしろ妹のスープラの方が、もっと才能に恵まれて相応しいと思うんだけど?』


 そうこうしているうちに、約束の時間が迫ってきた。豊田セリカは、溜め息をつきながら重い足取りで生徒会室に向かう。すると待ち構えていたかのように、折り目正しい制服姿の豊田2000GTが声を掛けてきた。


「!! ……お待ちしておりましたわよ、セリカさん! さすがに敵前逃亡したりは、しなかったようですね! 私が見込んだ人だけありますわ」


 ついに我慢できなくなり、セリカは2000GTに思いのたけをぶつけてしまった。


「会長、分かりません! 何で私なんですか? 他に、もっとできそうな人がいるはずなんじゃ……?」


 暫くの沈黙の後、艶やかな黒髪をさらさらとさせながら2000GTは当然のように答えた。


「私は見てしまったのです……」


「へっ!? 何を……ですか?」


「私は知っています。あなたは幼い頃から走る事が大好きで、たとえ結果が振るわなくとも決して諦めない不屈のクルマ娘だった事を。お洒落に目覚めた後でも、雨の日にも関わらず楽しそうに走っていた姿を……私はずっと、この目で見てきました」


「……そ、そんな……会長!」


 2000GTからの意外な言葉に心を貫かれたセリカは、湧き上がってくるあまりの嬉しさに表情が緩み、さっきまでの青ざめた緊張感を忘れてしまったかのようである。


「そういう訳で、さあっ! 急いで参りましょう!」


「ええっ? どこへ?」


 腕に手を回して逃げられないようにした2000GTは、セリカをトレーニングルームまで引っ張ってきた。そしてガラス張りの扉を無言で開ける。


「ちょっ!? 会長! 今からいきなりトレーニングを始めるんですか?」


「そうです! 豊田一族の総力を結集して特別コーチをお呼びしております。TRDやトムス、それにTTE……今はトヨタ・ガズー・レーシングですかね? ありとあらゆる組織のツテを総動員して、あなたをサポートいたします」


「ひえええ! 少し待って下さい! まだ心の準備が――」


「もう手遅れです。紹介いたします、スペインからきたサインツ先生です」


 セリカの前にラテン系の渋いオジ様コーチが現れて、帽子を取りながら挨拶した。


「オラ、サインツです。ハジメマシテ、セリカ。とってもカワイイデスね!」


「オラと言っても日本語のオラとは違いますのよ、セリカさん。Hola! サインツ!」


 もはや2000GTの言葉は、あまりセリカの耳には入ってこなかった。


「ど、どうしよ……私、中学・高校と女子校だし、あんまし男と話すらした事もないし、し、し、しかも慣れない外国のベテランコーチなんて、ハードルがいくら何でも高すぎやしませんか……!?」


「サア、イキマショウ! セリカ、私にマカセテ下さい」


「や―――」


 豊田セリカがトレーニングルームに消えてゆくのを見届けた後、2000GTは次なる候補の選抜とスタッフメンバーの招集に、その辣腕を振るう。


「二人目は……あの方にしたいですわね。さて、どう致しましょうか……!?」


 



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